9 / 33
9. 夢で見た機械
しおりを挟む
コリンの家へ入ると驚いた。この世界で目にしたものといえば自然素材の木や鉄、石や陶器などばかりだったのに、コリンの家の中には元いた世界にあった機械と言えるようなもので溢れかえっていたからだ。
扇風機のようなもの、ラジコン、電話機、ミシン、はたまたテレビのような形のものまである。
「こりゃなんだ?」入ってそうそうカイルが声をあげた。
「やあカイル! 僕の家に来たのは初めてだね」
コリンは私よりも年下に見えるまだあどけない若者で、気さくそうな笑みを浮かべている。
ろくに挨拶もせずに目を丸くしていた私たちに対して、嬉しそうに笑みを大きくして説明を始めた。
「夢で見たんだ。妙に印象的でね、目が覚めても頭に残っていて、どうにか再現できないものかと思ったんだ。最初は夢で見たまま外側だけ作ってみたんだけど、何個も作っていくうちに内部の方も気になってね。なんとか思い出したりイメージをして試行錯誤したんだ。これも芸術と言えるのかな? 僕としては創造しているというよりも使命感みたいな、作らないと落ち着かないからというのに近いんだけど」
言いながら扇風機のようなものを手に取る。
「これはこの羽が回るはずなんだけど、どういう原理で回るのかはわからない。魔法を使えば簡単だが、それじゃあ意味がないとも思って悩んでいる」
「電気があれば動くんじゃないですか?」私は思わず言った。
「でんき?」
「発電したものを電線で運んで、壁につけたコンセントから送り出して……」
「はつでんって?」
えーっと……なんだっけ? 火力水力風力……おぼろげな怪しい知識だが、なんとかコリンに説明した。
「面白い! 僕には難しいが、ミラなら理解できるかもしれない。ちょっと待ってて」
コリンは慌てた様子で家を出ていった。
唖然とした顔でコリンを見送っていたカイルが、私に近づいてきた。
「見たことがあるのか?」
「はい。私のいた世界に似たようなものがありました」
「どういうことだ?」
「わかりません。夢の中で見たと言っていましたが、私も向こうにいたときに竜と会話していたのは夢の中でしたから……」
「……この世界とリサの世界は夢を通じて繋がっているのか? リサの世界のものをコリンが夢で見たというのか?」
「どうでしょう? 不思議ですが、そう考えればなんとなく繋がりますね」
「信じられん!」
カイルは表情にもそれを出して言った。私も同じ表情をしていただろう。
コリンが若い女性を連れてくると、私の顔を見た途端に矢のように質問を浴びせてきた。
「でんきって何? はつでんって? 私にも説明して」
その女性はミラという名前で、コリンが電化製品を夢で見たように、ミラも現実には存在しないものを夢で見たと言って、電気や発電の仕組みを私が話すそばから『あれはそういうことか』『なるほど』と呟いて理解していた様子だった。
すると次は別の若い男性が現れ、ガスとは何だと聞いてきた。すると水道とは、電波とはと、話を聞きつけた若者たちが次から次へと夢で見たと言って集まり始めた。
カイルはその事態に驚きっぱなしで、感心したように呟いた。
「若者の知識欲には恐れ入る。必要かどうかを案ずる以前に、知識を吸収することが楽しいようだ」
彼らは自覚していたのかわからないが、彼らが夢で見て熱心に質問してきたものは、魔法の使えるこの世界では無用のものばかりだ。マディソン夫人の言うように、老人子供のためならば多少意味があることかもしれないが、大抵の人は魔法が使えるから理解したところで必要のないことだった。
しかし彼らはその知識を吸収したいと望み、意欲をかきたてられていた。
魔法は便利だが、仕組みを理解して物を作るという工学的知識は、また違った知的興奮があるのかもしれない。
私がいなくても、遠くない時期に何とかなっていたのではないだろうか? エジソンなりニコラ・テスラなりライト兄弟が現れていたのではないか? 彼らを見ていたらそんなふうに思えた。
それから、私は若者たちに請われて講義をするようになった。
マディソン夫人の食堂が空いている時間に貸し切りにしてもらって、日替わりで講義を始めたところ、日に日に聴講生の数は増えていき、街の若者という若者が押しかけるようになった。
魔法が使えなくなるなんて説明は一切していない。魔法がある世界では無用の科学や工学の話なのに、大勢が学びたいと言って集まったのだ。
私は理系でもなければ詳しいわけもはなく、大学受験を経ている程度の知識しかなかったが、彼らは夢の中では本物の技術者か研究者なのか、私が一伝えることで十理解するような若者たちばかりだった。
一ヶ月ほど続けると私の知識は枯渇して、というよりも彼らの理解が私の知識を上回り、彼らだけで議論して知識を深めるようになった。
その様子を見てマディソン夫人が私に言った。
「後は待つだけのようだね。その便利な機械とやらが生み出されたあと、それを広めていくのが次の仕事なんじゃないかい?」
なるほど、確かに。今私ができることは精一杯やった。竜の旅立ちを止めることはできないし、私は知識があってもそれを現実に作り出すことはできない。この若者たちのやる気と理解力でそれら技術が形になれば、魔法が使えなったあとの世界で最も重視される存在になる。そのときのために、彼らの努力を大勢に理解してもらい、広めていくのが私の次の仕事だ。
ではどうしようかと考え始めたとき、カイルの元へ報せが届いた。
貧民街の若者たちが大勢集まって何やら討論していると噂になり、国王の摂政として就いているダイアナ王女がここへ視察へ来るという話だった。カイルがそれを伝えると、政権転覆でも疑われたのかと食堂中に緊張が走った。
後は待つだけの私に新たな役割ができたようだ。ダイアナ王女に事情を話して疑いを晴らすという役割が。
扇風機のようなもの、ラジコン、電話機、ミシン、はたまたテレビのような形のものまである。
「こりゃなんだ?」入ってそうそうカイルが声をあげた。
「やあカイル! 僕の家に来たのは初めてだね」
コリンは私よりも年下に見えるまだあどけない若者で、気さくそうな笑みを浮かべている。
ろくに挨拶もせずに目を丸くしていた私たちに対して、嬉しそうに笑みを大きくして説明を始めた。
「夢で見たんだ。妙に印象的でね、目が覚めても頭に残っていて、どうにか再現できないものかと思ったんだ。最初は夢で見たまま外側だけ作ってみたんだけど、何個も作っていくうちに内部の方も気になってね。なんとか思い出したりイメージをして試行錯誤したんだ。これも芸術と言えるのかな? 僕としては創造しているというよりも使命感みたいな、作らないと落ち着かないからというのに近いんだけど」
言いながら扇風機のようなものを手に取る。
「これはこの羽が回るはずなんだけど、どういう原理で回るのかはわからない。魔法を使えば簡単だが、それじゃあ意味がないとも思って悩んでいる」
「電気があれば動くんじゃないですか?」私は思わず言った。
「でんき?」
「発電したものを電線で運んで、壁につけたコンセントから送り出して……」
「はつでんって?」
えーっと……なんだっけ? 火力水力風力……おぼろげな怪しい知識だが、なんとかコリンに説明した。
「面白い! 僕には難しいが、ミラなら理解できるかもしれない。ちょっと待ってて」
コリンは慌てた様子で家を出ていった。
唖然とした顔でコリンを見送っていたカイルが、私に近づいてきた。
「見たことがあるのか?」
「はい。私のいた世界に似たようなものがありました」
「どういうことだ?」
「わかりません。夢の中で見たと言っていましたが、私も向こうにいたときに竜と会話していたのは夢の中でしたから……」
「……この世界とリサの世界は夢を通じて繋がっているのか? リサの世界のものをコリンが夢で見たというのか?」
「どうでしょう? 不思議ですが、そう考えればなんとなく繋がりますね」
「信じられん!」
カイルは表情にもそれを出して言った。私も同じ表情をしていただろう。
コリンが若い女性を連れてくると、私の顔を見た途端に矢のように質問を浴びせてきた。
「でんきって何? はつでんって? 私にも説明して」
その女性はミラという名前で、コリンが電化製品を夢で見たように、ミラも現実には存在しないものを夢で見たと言って、電気や発電の仕組みを私が話すそばから『あれはそういうことか』『なるほど』と呟いて理解していた様子だった。
すると次は別の若い男性が現れ、ガスとは何だと聞いてきた。すると水道とは、電波とはと、話を聞きつけた若者たちが次から次へと夢で見たと言って集まり始めた。
カイルはその事態に驚きっぱなしで、感心したように呟いた。
「若者の知識欲には恐れ入る。必要かどうかを案ずる以前に、知識を吸収することが楽しいようだ」
彼らは自覚していたのかわからないが、彼らが夢で見て熱心に質問してきたものは、魔法の使えるこの世界では無用のものばかりだ。マディソン夫人の言うように、老人子供のためならば多少意味があることかもしれないが、大抵の人は魔法が使えるから理解したところで必要のないことだった。
しかし彼らはその知識を吸収したいと望み、意欲をかきたてられていた。
魔法は便利だが、仕組みを理解して物を作るという工学的知識は、また違った知的興奮があるのかもしれない。
私がいなくても、遠くない時期に何とかなっていたのではないだろうか? エジソンなりニコラ・テスラなりライト兄弟が現れていたのではないか? 彼らを見ていたらそんなふうに思えた。
それから、私は若者たちに請われて講義をするようになった。
マディソン夫人の食堂が空いている時間に貸し切りにしてもらって、日替わりで講義を始めたところ、日に日に聴講生の数は増えていき、街の若者という若者が押しかけるようになった。
魔法が使えなくなるなんて説明は一切していない。魔法がある世界では無用の科学や工学の話なのに、大勢が学びたいと言って集まったのだ。
私は理系でもなければ詳しいわけもはなく、大学受験を経ている程度の知識しかなかったが、彼らは夢の中では本物の技術者か研究者なのか、私が一伝えることで十理解するような若者たちばかりだった。
一ヶ月ほど続けると私の知識は枯渇して、というよりも彼らの理解が私の知識を上回り、彼らだけで議論して知識を深めるようになった。
その様子を見てマディソン夫人が私に言った。
「後は待つだけのようだね。その便利な機械とやらが生み出されたあと、それを広めていくのが次の仕事なんじゃないかい?」
なるほど、確かに。今私ができることは精一杯やった。竜の旅立ちを止めることはできないし、私は知識があってもそれを現実に作り出すことはできない。この若者たちのやる気と理解力でそれら技術が形になれば、魔法が使えなったあとの世界で最も重視される存在になる。そのときのために、彼らの努力を大勢に理解してもらい、広めていくのが私の次の仕事だ。
ではどうしようかと考え始めたとき、カイルの元へ報せが届いた。
貧民街の若者たちが大勢集まって何やら討論していると噂になり、国王の摂政として就いているダイアナ王女がここへ視察へ来るという話だった。カイルがそれを伝えると、政権転覆でも疑われたのかと食堂中に緊張が走った。
後は待つだけの私に新たな役割ができたようだ。ダイアナ王女に事情を話して疑いを晴らすという役割が。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
召喚された聖女? いえ、商人です
kieiku
ファンタジー
ご依頼は魔物の回収……転送費用がかさみますので、買取でなく引取となりますがよろしいですか?
あとお時間かかりますので、そのぶんの出張費もいただくことになります。
我が異世界生活を行く
茶柄
ファンタジー
気が付くと異世界にぼつんと立っていた。
目的も理由も召喚者もいない。説明書の無い異世界生活の始まり始まり。あるのはオタクの結晶ソシャゲの能力と大量のアイテム。チート未満テンプレ以上の創造神(作者)の誇張妄想作品です駄作予定ですか期待はしないでください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました
吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆
第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます!
かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」
なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。
そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。
なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!
しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。
そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる!
しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは?
それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!
そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。
奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。
※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」
※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる