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34. 私を置いて死ぬなんて、絶対にそんなことさせないわ!
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「さすがはアンドリューだ。この魔法を身に着けた僕をこれだけ長時間戦わせるとはね」
しかし、チェンバレンの言葉は嫌味にしか聞こえない。ミスター・カーライルはもう攻撃を繰り出すことはおろか、防御もままならない様子で、肩で息をしながら少しづつ高度を下げている。
「この魔法を考えついたのは……そうだな、30年前かな? 思いついた瞬間はさすがの僕でも驚いたね。天才であることは自覚していたけど、これほどのものとは思わなかった。皇帝の右腕だなんて、あの頃の僕は大馬鹿だった。僕こそが皇帝になる器だというのに。まあ、その天才の僕でも実際に発動できるようになるまでに30年もかかってしまったわけだが。しかし、この魔法があれば言葉を並べる必要はないというのは寂しいものだね。僕の人心掌握する武器といえば主に言葉だったから、不要になったと思うと少しばかり感傷的にはなった。それでも僕は……」
よく回る舌だな。
攻撃を続けながらべらべらと大声で喋り続けている。ミスター・カーライルだけでなくシュヴァリエも疲労が表に出て、攻撃を受けるのもいなすのも精一杯という様子で今にも倒れそうになっているというのに、あんな余裕を見せられては意気も削がれてしまう。
ベルタン侯爵もやられてしまったし、兵士たちはチェンバレンに魔力を吸い取られて、陣地へ戻ることもままならずその場に横たわっている。
私はというと、確かに疲れてはいたが、防御魔法を発動できるまでには回復できていた。しかしそれだけでは足りないと焦れ始めている。あのチェンバレンという男に対して苛立ちが募り、今にも殴りかかりたい気持ちが抑えきれなくなっていた。
そうは言っても、最強の魔法使いであるミスター・カーライルでさえ敵わない相手に、私なんかが歯向かっても相手になるはずがない。
シュヴァリエだって敵わないのだからなおさらだ。
シュヴァリエがあそこまで強いとは思わなかった。ろくに魔法を使えないくせに剣一つで対抗できているなんて、ベルタン侯爵が耐えきれないほどの攻撃を何十発と受け止めたばかりか、まともに攻撃を食らうことなく攻撃を続けているなんて、そんなに強い騎士だとは思いも寄らなかった。
軍の兵士たちも、少佐であるシュヴァリエに対してその階級以上の存在のように扱っていたし、階級が上の将校たちからも意見を求められているのだから、相当な力量を持っているのだろう。
チェンバレンがシュヴァリエに対して『影の騎士もどき』などと言っていたけど、嫌味のようでいて最高の褒め言葉だ。
影の騎士とは、半世紀ほど前に実在したという噂がある伝説の騎士で、その昔誰も傷をつけることができないはずの竜を一刀両断し、最強の魔法使いを相手に剣一本で打ち倒したという逸話があり、今では童話の中の登場人物として親しまれている存在だ。
そんな影の騎士だと称されるのは、『もどき』だなんて言っていたけど、それだけの力を持っていると評しているのと同じことだ。
そのシュヴァリエでさえミスター・カーライルと二人がかりで立ち向かってもあの状態なのだ。
このままでは二人とも倒れ伏してしまう。最強の魔法使いが負けてしまうのだ。ミスター・カーライルが……シュヴァリエも……
シュヴァリエが負ける……怪我で済めばいいが、最悪死んでしまうかもしれない……
シュヴァリエが死ぬ……シュヴァリエが死んでしまうの?
あの不遜で陰気なシュヴァリエが? どこにそんな栄養を必要としているのかと呆れるほど豪快に食べまくるシュヴァリエが? 私を守ると言って聞かず、離れようとしないシュヴァリエが? もういい加減にしてよって怒ることができなくなる。呆れることも、文句を言うこともできない。
『エマ様のことは好きですし、大切です。命に替えてもお守りします』
そう言っていたじゃない? 私を置いて死んでしまうの?
命に替えてまで守って欲しくない! 私のことが好きなら一緒に生きて欲しい! 私が死ぬときまで、私の側で共に過ごしなさいよ!
やはり防御しているだけなんて私にはできない。シュヴァリエが死んでしまうかもしれないのに、自分だけ身を守って黙って見ているなんて、そんなことできるわけがない。
やってやるわ! 私もあいつに立ち向かう!
そうよ! ミスター・カーライルが言っていたじゃない?
『守るというなら、ミス・ヴァロワがレオを守ると言える』
『ミス・ヴァロワは私以上の使い手になる可能性も秘めている』
確かにそう言っていた。
私ならシュヴァリエを守れるかもしれない。ミスター・カーライル以上の使い手になる可能性があるなら、チェンバレンにも対抗できるかもしれない。
魔法の才能があるのなら、今使わないでいつ力を発揮するのよ?
何か使える技はないかしら? ミスター・カーライルから教わった魔法を順に頭に浮かべてみる。
ベルタン侯爵と練習をしていたときに、請われて一通り教えたからすぐに思い出すことができた。
そうだわ。ベルタン侯爵が「使えるようになったらそれこそ最強でしょうけど、さすがに僕には無理です」そう言って苦戦していた攻撃魔法があった。ミスター・カーライルも何度か繰り出していたけど、相手に気づかれると避けられる技だから、あまり機能していないようだった。私が攻撃をしかけることはないと油断している今、その技で奇襲をかければもしかしたら──
私はその技に賭けることに決めた。
今できる全力をその技にぶつけてやるわ。見てなさいチェンバレン!
しかし、チェンバレンの言葉は嫌味にしか聞こえない。ミスター・カーライルはもう攻撃を繰り出すことはおろか、防御もままならない様子で、肩で息をしながら少しづつ高度を下げている。
「この魔法を考えついたのは……そうだな、30年前かな? 思いついた瞬間はさすがの僕でも驚いたね。天才であることは自覚していたけど、これほどのものとは思わなかった。皇帝の右腕だなんて、あの頃の僕は大馬鹿だった。僕こそが皇帝になる器だというのに。まあ、その天才の僕でも実際に発動できるようになるまでに30年もかかってしまったわけだが。しかし、この魔法があれば言葉を並べる必要はないというのは寂しいものだね。僕の人心掌握する武器といえば主に言葉だったから、不要になったと思うと少しばかり感傷的にはなった。それでも僕は……」
よく回る舌だな。
攻撃を続けながらべらべらと大声で喋り続けている。ミスター・カーライルだけでなくシュヴァリエも疲労が表に出て、攻撃を受けるのもいなすのも精一杯という様子で今にも倒れそうになっているというのに、あんな余裕を見せられては意気も削がれてしまう。
ベルタン侯爵もやられてしまったし、兵士たちはチェンバレンに魔力を吸い取られて、陣地へ戻ることもままならずその場に横たわっている。
私はというと、確かに疲れてはいたが、防御魔法を発動できるまでには回復できていた。しかしそれだけでは足りないと焦れ始めている。あのチェンバレンという男に対して苛立ちが募り、今にも殴りかかりたい気持ちが抑えきれなくなっていた。
そうは言っても、最強の魔法使いであるミスター・カーライルでさえ敵わない相手に、私なんかが歯向かっても相手になるはずがない。
シュヴァリエだって敵わないのだからなおさらだ。
シュヴァリエがあそこまで強いとは思わなかった。ろくに魔法を使えないくせに剣一つで対抗できているなんて、ベルタン侯爵が耐えきれないほどの攻撃を何十発と受け止めたばかりか、まともに攻撃を食らうことなく攻撃を続けているなんて、そんなに強い騎士だとは思いも寄らなかった。
軍の兵士たちも、少佐であるシュヴァリエに対してその階級以上の存在のように扱っていたし、階級が上の将校たちからも意見を求められているのだから、相当な力量を持っているのだろう。
チェンバレンがシュヴァリエに対して『影の騎士もどき』などと言っていたけど、嫌味のようでいて最高の褒め言葉だ。
影の騎士とは、半世紀ほど前に実在したという噂がある伝説の騎士で、その昔誰も傷をつけることができないはずの竜を一刀両断し、最強の魔法使いを相手に剣一本で打ち倒したという逸話があり、今では童話の中の登場人物として親しまれている存在だ。
そんな影の騎士だと称されるのは、『もどき』だなんて言っていたけど、それだけの力を持っていると評しているのと同じことだ。
そのシュヴァリエでさえミスター・カーライルと二人がかりで立ち向かってもあの状態なのだ。
このままでは二人とも倒れ伏してしまう。最強の魔法使いが負けてしまうのだ。ミスター・カーライルが……シュヴァリエも……
シュヴァリエが負ける……怪我で済めばいいが、最悪死んでしまうかもしれない……
シュヴァリエが死ぬ……シュヴァリエが死んでしまうの?
あの不遜で陰気なシュヴァリエが? どこにそんな栄養を必要としているのかと呆れるほど豪快に食べまくるシュヴァリエが? 私を守ると言って聞かず、離れようとしないシュヴァリエが? もういい加減にしてよって怒ることができなくなる。呆れることも、文句を言うこともできない。
『エマ様のことは好きですし、大切です。命に替えてもお守りします』
そう言っていたじゃない? 私を置いて死んでしまうの?
命に替えてまで守って欲しくない! 私のことが好きなら一緒に生きて欲しい! 私が死ぬときまで、私の側で共に過ごしなさいよ!
やはり防御しているだけなんて私にはできない。シュヴァリエが死んでしまうかもしれないのに、自分だけ身を守って黙って見ているなんて、そんなことできるわけがない。
やってやるわ! 私もあいつに立ち向かう!
そうよ! ミスター・カーライルが言っていたじゃない?
『守るというなら、ミス・ヴァロワがレオを守ると言える』
『ミス・ヴァロワは私以上の使い手になる可能性も秘めている』
確かにそう言っていた。
私ならシュヴァリエを守れるかもしれない。ミスター・カーライル以上の使い手になる可能性があるなら、チェンバレンにも対抗できるかもしれない。
魔法の才能があるのなら、今使わないでいつ力を発揮するのよ?
何か使える技はないかしら? ミスター・カーライルから教わった魔法を順に頭に浮かべてみる。
ベルタン侯爵と練習をしていたときに、請われて一通り教えたからすぐに思い出すことができた。
そうだわ。ベルタン侯爵が「使えるようになったらそれこそ最強でしょうけど、さすがに僕には無理です」そう言って苦戦していた攻撃魔法があった。ミスター・カーライルも何度か繰り出していたけど、相手に気づかれると避けられる技だから、あまり機能していないようだった。私が攻撃をしかけることはないと油断している今、その技で奇襲をかければもしかしたら──
私はその技に賭けることに決めた。
今できる全力をその技にぶつけてやるわ。見てなさいチェンバレン!
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