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31. 剣ひとつで受け止めたの?
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ケルマン兵たちが狼狽えているそばを走り抜け、私たちは南の司令部へと向かった。
浮車で距離を縮めていたお影か、20分もしないうちに山小屋のようなその司令部へとたどり着いた。
シュヴァリエが顔を出すと、救世主だとばかりに歓迎の言葉で迎えられ、リヴェット大将がお呼びですと、早速奥の司令室へと呼び出されていた。
私とベルタン侯爵はシュヴァリエの連れだからともてなしを受けたが、のんびりと休んでいるのは気が引けたため、外へ出て魔法の練習をすることにした。
「もうそこまで進んでいるんですか?」
「私の方が先に始めていますから」
「いやいや、そういう問題ではありませんよ」
一緒に練習と言っても、私が応用を進めていると、まだ基本を固めているベルタン侯爵にこのように文句を言われてばかりで全く進まない。
「それ、教えてもらえませんか?」
とうとうこんなことを言い出す始末だ。
「教えるほどの水準には至っておりません」
そう返すが、ベルタン侯爵は引かない様子でせがむので、ミスター・カーライルから教授された魔法を一通り伝えた。
「次元が違うというやつですね」
ベルタン侯爵は熱心に励んでいたようだが、とうとう音を上げて地面に寝転んだ。
「シュヴァリエは何年も前から練習していたようですが、今日魔法を知ったベルタン侯爵にも追い越されているじゃないですか。私だってもう何週間も練習しています。ベルタン侯爵の上達速度は並ではありませんわ」
そう声をかけたが、ベルタン侯爵は不満そうな表情のまま、ため息をついた。
「少しでも追いつけるように努力いたします」
思った以上に負けず嫌いな性格のようだ。
「エマ様?」
練習を再開しようとしたとき、シュヴァリエの焦ったような声が聞こえたため、手を上げて反応を返した。
「ここよ!」心配性ね。
シュヴァリエが司令部のドアから出てきて駆け寄ってくる。
「こちらでしたか」
「どうだった?」
「ええ。編隊の組み直しと、偵察隊を送る場所や順番などの作戦を──それはいいとして、アンドリューから何か連絡はありましたか?」
「そう言えば何もないわね」
ベルタン侯爵を見るが、同様なのか首をわずかに横に振った。
「リヴェット大将から今度は東のドゥミ大佐の元へ行くようにと司令を受けたのですが……」
「じゃあ、行った方がいいんじゃない?」
「偵察にもなりますし」ベルタン侯爵が答える。
そう言えば偵察という目的もあったわね。そんなこと頭から抜け落ちていたわ。シュヴァリエは偵察していたのかしら?
「承知しました。ミスター・チェンバレンの居場所がわかるといいのですが……」
聞いた名ね。
「ミスター・カーライルがおっしゃっていたピーターという方のことですか?」
ベルタン侯爵の問いで思い出した。エドワードとシュヴァリエがたまに口にしていた名だわ。そう、ミスター・カーライルはピーターと呼んでいた。
「はい。ピーター・チェンバレンです。ミスター・チェンバレンは、その昔アンドリューを皇帝にするために、自身を右腕だと称して画策していた男です」
えっと……何? 皇帝? 右腕?
「そうそう、僕は皇帝の右腕になるつもりだった。今は違うけどね」
私たちとは別の声がして、一斉に振り向いた。
あ! さっき上空で対峙した老齢の男性だわ!
「今の僕は右腕ではなく皇帝──に、なろうとしている」
口の両端を限界にまで上げたあの表情は間違いない。
チェンバレンの全身がオレンジ色の光に包まれる。
「自己紹介は不要のようだな」片手を前に出した。
攻撃魔法?
シュヴァリエに当たらないように前に出る。
チェンバレンの手のひらから放出されたオレンジ色の光は、ギリギリのところで防御魔法に当たって消滅した。
「さっきも会ったね、そこのご令嬢」
オレンジ色の光が再び放出される。
私は防御魔法で盾になりながらも、攻撃魔法も練り始めた。
「君は厄介だな」
私に向けて一段と大きな光を放った。
えーっと、これは防げるのかしら?
焦った私は中途半端な攻撃魔法を出した。
それが功を奏したのか、防御魔法を突き破ったオレンジの光は、赤い光の攻撃魔法とぶつかって消滅した。
「ほらみろ! 軽々とそんなものを繰り出してくる。厄介どころじゃない」
チェンバレンは、先程よりも大きなオレンジの光を放出した。
これはつまりさっきよりも攻撃力が上がっているから──
考えている余裕なんてなかった。攻撃魔法を繰り出す間もなく、オレンジの光は眼前に迫った。
この距離では既に防御魔法も間に合わない。
もうダメだわ……私もろともシュヴァリエも──
死を覚悟したそのとき、私は尻もちをついた。攻撃を受けたのだと思ったが、ほとんど痛みらしい痛みはなかった。ぽんとぶつかった程度の──シュヴァリエ?
つぶった目を再び開けたとき視界に入ったのは、シュヴァリエがオレンジの光を受け止め、それをいなしたところだった。
どうやったの?
声をあげる暇もなく、再び特大の攻撃が襲ってきた。
オレンジ色で視界が遮られるほどだ。
あんなの、どうやって対処すればいいのよ?
シュヴァリエに直撃する! そう思ったが、シュヴァリエは無事で、それどころかオレンジ色の光を抑え込んでいる。
手には剣が──剣ひとつで受け止めたの?
「エマ様!」
シュヴァリエの声と同時に、ベルタン侯爵が私の腕を掴んで引っ張った。
逃げろって? 嫌よ!
手を振り払い、攻撃魔法を練った。
えーっと……とりあえず放出する。
しかし適当に打ち出した攻撃なのでチェンバレンは簡単にいなした。
チェンバレンはニヤけた顔のまま、私とシュヴァリエにそれぞれ手を向けて攻撃魔法を放ち続けている。
私たちはそれを受けるのに精一杯で、攻撃に切り替えることができない。
緑色の光がチェンバレンの頭にあたった。いや、その数十センチ手前で消滅した。
チェンバレンは驚いた顔で見渡した。
隙ができたので、攻撃魔法を繰り出す。シュヴァリエも斬り掛かったようだ。
しかし、チェンバレンの防御魔法は堅固で、私たちの攻撃は全く歯がたたない。
「わかった、わかった」
チェンバレンは攻撃の手を止めた。
今のうちに──
攻撃をしかけようとしたが、チェンバレンは笑顔で両手をあげているため、まるで降参したかのようなそのポーズで気が削がれて手が出なかった。シュヴァリエたちも同様に考えたのか、チェンバレンを睨みつけながらも攻撃をしかける素振りはない。
「君たちが相当な使い手であることはわかった。──しかも影の騎士もどきもいるとはね」私たちそれぞれに視線を向ける。「でも君たちは僕に敵わないだろう。実力の程度はわかったからもういい」チェンバレンは浮き上がる。
「脅威だが、僕一人で対処できる。それよりもアンドリューと合流されたら面倒だから、まずはアンドリューから片付けることにするよ」
そう言って飛んでいった。
「ミスター・カーライルのところへ行ったのかしら?」
私が声を上げると、ベルタン侯爵が答えてくれた。
「ミスター・カーライルは東の司令部へ向かっているそうです」
「連絡があったの?」
「はい。先程」
「僕たちとは反対に辿っているようですね」シュヴァリエだ。
「どうする?」私は聞いた。
「向かいましょう。そこで最後です」
シュヴァリエの言葉にベルタン侯爵も同意したように頷いたので、私たち三人は東の司令部へと向かうことにした。
浮車で距離を縮めていたお影か、20分もしないうちに山小屋のようなその司令部へとたどり着いた。
シュヴァリエが顔を出すと、救世主だとばかりに歓迎の言葉で迎えられ、リヴェット大将がお呼びですと、早速奥の司令室へと呼び出されていた。
私とベルタン侯爵はシュヴァリエの連れだからともてなしを受けたが、のんびりと休んでいるのは気が引けたため、外へ出て魔法の練習をすることにした。
「もうそこまで進んでいるんですか?」
「私の方が先に始めていますから」
「いやいや、そういう問題ではありませんよ」
一緒に練習と言っても、私が応用を進めていると、まだ基本を固めているベルタン侯爵にこのように文句を言われてばかりで全く進まない。
「それ、教えてもらえませんか?」
とうとうこんなことを言い出す始末だ。
「教えるほどの水準には至っておりません」
そう返すが、ベルタン侯爵は引かない様子でせがむので、ミスター・カーライルから教授された魔法を一通り伝えた。
「次元が違うというやつですね」
ベルタン侯爵は熱心に励んでいたようだが、とうとう音を上げて地面に寝転んだ。
「シュヴァリエは何年も前から練習していたようですが、今日魔法を知ったベルタン侯爵にも追い越されているじゃないですか。私だってもう何週間も練習しています。ベルタン侯爵の上達速度は並ではありませんわ」
そう声をかけたが、ベルタン侯爵は不満そうな表情のまま、ため息をついた。
「少しでも追いつけるように努力いたします」
思った以上に負けず嫌いな性格のようだ。
「エマ様?」
練習を再開しようとしたとき、シュヴァリエの焦ったような声が聞こえたため、手を上げて反応を返した。
「ここよ!」心配性ね。
シュヴァリエが司令部のドアから出てきて駆け寄ってくる。
「こちらでしたか」
「どうだった?」
「ええ。編隊の組み直しと、偵察隊を送る場所や順番などの作戦を──それはいいとして、アンドリューから何か連絡はありましたか?」
「そう言えば何もないわね」
ベルタン侯爵を見るが、同様なのか首をわずかに横に振った。
「リヴェット大将から今度は東のドゥミ大佐の元へ行くようにと司令を受けたのですが……」
「じゃあ、行った方がいいんじゃない?」
「偵察にもなりますし」ベルタン侯爵が答える。
そう言えば偵察という目的もあったわね。そんなこと頭から抜け落ちていたわ。シュヴァリエは偵察していたのかしら?
「承知しました。ミスター・チェンバレンの居場所がわかるといいのですが……」
聞いた名ね。
「ミスター・カーライルがおっしゃっていたピーターという方のことですか?」
ベルタン侯爵の問いで思い出した。エドワードとシュヴァリエがたまに口にしていた名だわ。そう、ミスター・カーライルはピーターと呼んでいた。
「はい。ピーター・チェンバレンです。ミスター・チェンバレンは、その昔アンドリューを皇帝にするために、自身を右腕だと称して画策していた男です」
えっと……何? 皇帝? 右腕?
「そうそう、僕は皇帝の右腕になるつもりだった。今は違うけどね」
私たちとは別の声がして、一斉に振り向いた。
あ! さっき上空で対峙した老齢の男性だわ!
「今の僕は右腕ではなく皇帝──に、なろうとしている」
口の両端を限界にまで上げたあの表情は間違いない。
チェンバレンの全身がオレンジ色の光に包まれる。
「自己紹介は不要のようだな」片手を前に出した。
攻撃魔法?
シュヴァリエに当たらないように前に出る。
チェンバレンの手のひらから放出されたオレンジ色の光は、ギリギリのところで防御魔法に当たって消滅した。
「さっきも会ったね、そこのご令嬢」
オレンジ色の光が再び放出される。
私は防御魔法で盾になりながらも、攻撃魔法も練り始めた。
「君は厄介だな」
私に向けて一段と大きな光を放った。
えーっと、これは防げるのかしら?
焦った私は中途半端な攻撃魔法を出した。
それが功を奏したのか、防御魔法を突き破ったオレンジの光は、赤い光の攻撃魔法とぶつかって消滅した。
「ほらみろ! 軽々とそんなものを繰り出してくる。厄介どころじゃない」
チェンバレンは、先程よりも大きなオレンジの光を放出した。
これはつまりさっきよりも攻撃力が上がっているから──
考えている余裕なんてなかった。攻撃魔法を繰り出す間もなく、オレンジの光は眼前に迫った。
この距離では既に防御魔法も間に合わない。
もうダメだわ……私もろともシュヴァリエも──
死を覚悟したそのとき、私は尻もちをついた。攻撃を受けたのだと思ったが、ほとんど痛みらしい痛みはなかった。ぽんとぶつかった程度の──シュヴァリエ?
つぶった目を再び開けたとき視界に入ったのは、シュヴァリエがオレンジの光を受け止め、それをいなしたところだった。
どうやったの?
声をあげる暇もなく、再び特大の攻撃が襲ってきた。
オレンジ色で視界が遮られるほどだ。
あんなの、どうやって対処すればいいのよ?
シュヴァリエに直撃する! そう思ったが、シュヴァリエは無事で、それどころかオレンジ色の光を抑え込んでいる。
手には剣が──剣ひとつで受け止めたの?
「エマ様!」
シュヴァリエの声と同時に、ベルタン侯爵が私の腕を掴んで引っ張った。
逃げろって? 嫌よ!
手を振り払い、攻撃魔法を練った。
えーっと……とりあえず放出する。
しかし適当に打ち出した攻撃なのでチェンバレンは簡単にいなした。
チェンバレンはニヤけた顔のまま、私とシュヴァリエにそれぞれ手を向けて攻撃魔法を放ち続けている。
私たちはそれを受けるのに精一杯で、攻撃に切り替えることができない。
緑色の光がチェンバレンの頭にあたった。いや、その数十センチ手前で消滅した。
チェンバレンは驚いた顔で見渡した。
隙ができたので、攻撃魔法を繰り出す。シュヴァリエも斬り掛かったようだ。
しかし、チェンバレンの防御魔法は堅固で、私たちの攻撃は全く歯がたたない。
「わかった、わかった」
チェンバレンは攻撃の手を止めた。
今のうちに──
攻撃をしかけようとしたが、チェンバレンは笑顔で両手をあげているため、まるで降参したかのようなそのポーズで気が削がれて手が出なかった。シュヴァリエたちも同様に考えたのか、チェンバレンを睨みつけながらも攻撃をしかける素振りはない。
「君たちが相当な使い手であることはわかった。──しかも影の騎士もどきもいるとはね」私たちそれぞれに視線を向ける。「でも君たちは僕に敵わないだろう。実力の程度はわかったからもういい」チェンバレンは浮き上がる。
「脅威だが、僕一人で対処できる。それよりもアンドリューと合流されたら面倒だから、まずはアンドリューから片付けることにするよ」
そう言って飛んでいった。
「ミスター・カーライルのところへ行ったのかしら?」
私が声を上げると、ベルタン侯爵が答えてくれた。
「ミスター・カーライルは東の司令部へ向かっているそうです」
「連絡があったの?」
「はい。先程」
「僕たちとは反対に辿っているようですね」シュヴァリエだ。
「どうする?」私は聞いた。
「向かいましょう。そこで最後です」
シュヴァリエの言葉にベルタン侯爵も同意したように頷いたので、私たち三人は東の司令部へと向かうことにした。
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