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24. 愛情には様々な種類があるのね
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ミスター・カーライルはシュヴァリエから紹介を受けたあと、アルトワ伯爵とネール侯爵に魔法についての説明をした。相手は明らかに魔法で攻撃をしているので、こちらも魔法で立ち向かわなければならないと説き、これからの作戦試案に魔法での攻撃を含めて欲しいと提案した。
続けてミスター・カーライルは、戦力を高めるために訓練をするから、相手の攻撃が始まるまでここの地下を貸して欲しいと言った。
「なぜ地下の存在を知っている?」
アルトワ伯爵の質問に、ミスター・カーライルは「それが魔法の力です」と答えたことで、アルトワ伯爵は魔法の存在を信じ始めたようだ。ここの地下には王家専用の隠れ場所があるそうで、アルトワ伯爵は、現在は国王と自分しか知らないはずなのにと、驚いた様子だった。
隠された入口から階段を下りると左右に二キロほどの地下道が掘られてあり、森の奥の洞窟に繋がっているらしい。地方に避難していると伝えられていた国王陛下は実はここの地下にいるとのことだった。
国王のいる洞窟でなければ好きに使うといいとアルトワ伯爵は許可を与えてくれたが、ベルタン侯爵が魔法の訓練をすることには反対して譲らなかった。
「一人でも多くの使い手が必要なのです」
「では兵士の中から選べばいい」
「才能がある者がどれほどいるのか、その選別をしている時間がありません」
「では、何人か見繕って呼び寄せて、ダメなら違う者をと、選別をしながら訓練すればいい」
「そんな余裕はありません」
「なぜアランにそんな能力があるのだ!」アルトワ伯爵は声を荒げた。
「魔力は訓練次第で誰でも使うことができますが、元々の才能も大きく影響します。ベルタン侯爵は並外れているのです」
ミスター・カーライルのその言葉に、アルトワ伯爵は視線を外して何も答えない。
アルトワ伯爵の隣に座っていてベルタン侯爵がおもむろに立ち上がり、私たちの方を向いた。
「先に向かってください。ネール公爵がご案内してくださいます」
「私も初めての場所だ」ネール公爵が答える。
「ではなおさら共に向かってください。王家の隠れ場所なのですから、殿下の安全を確認するためにも一度訪れた方がよろしいでしょう。私は場所がわかりますから」
ベルタン侯爵はどうしても全員を行かせたいらしい。ネール公爵もそれに気がついたのか、それ以上は反論しなかった。
「……承知しました」
地下へ向かうドアは書棚で隠されていて、それをベルタン侯爵が開けて全員を送り出した。
「階段を降りましたら、右に曲がってください。そこからは一本道ですから」
そう言って、書棚を再び元の位置に戻したのか、階段は心もとないランプの灯りだけになったのだが、ミスター・カーライルが魔法を使って昼間のような明るさにしてくれた。
「ベルタン侯爵とアルトワ伯爵の仲の良さは想像以上のようね。王家しか知らないはずの場所をご存知だなんて」
私が後ろを歩いているシュヴァリエに耳打ちすると、「仲が良いどころではないですから」と答えたので、その言葉で思い出した。
アルトワ伯爵は男性にしか興味を抱かれない方だった。ということは、ベルタン侯爵とは友人以上の関係だったのね。
ベルタン侯爵を危険な目に遭わせたくないと反発していたのは、愛情ゆえのことだったのか。
愛情……
シュヴァリエは私のことを好きだと言っていたけど、アルトワ伯爵とは違う。私に魔法を覚えてもらいたいようだし、戦争に参加することにも反対していない。
私がエドワードやフランソワと同列にして気落ちした様子だったのも、孤児で愛情に飢えているから、他の使用人とは別格の愛情を主人に向けて欲しかったからなのね。
うーん……
エドワードは生まれた時から見守っていてくれた最高の執事だから父のように慕っているけど、シュヴァリエは……うーん。それとは違うわね。
信頼はしているけどエドワードよりは頼りないし、でも側にいてくれないと落ち着かないし、いつもと様子が違うと心配だし……これはどういう感情なのかしら?
でもまあ、うん。エドワードに対するものとはまた違った好意ではあるかも。尊敬でもない。むしろ腹が立つ。でも憎めない。好意……まあ、シュヴァリエのことは好きだけど……好きって何かしら?
私はいつかは結婚することになる。余命が決まっているといっても20年もあるんだから結婚せざるを得ないだろう。そうなるとシュヴァリエは執事として仕えることになるのかしら? でもシュヴァリエは執事ではなく騎士のつもりだと言っていたから、それなら国王軍に戻るのかしら? シュヴァリエは私から離れることになるの?
シュヴァリエは私から離れることになるのか──
執事として側にいればいいのに──
私は考え事をしていたので、前を歩いていたミスター・カーライルが立ち止まったことに気がつかず、ぶつかりそうになってしまった。寸でのところで後ろにいたシュヴァリエが支えてくれた。
どうやら到着したようで、行き止まりのところにドアがあった。それを先頭のネール公爵が開けると、中には居住空間があった。簡素だが、王家の隠れ家というだけあってひとつひとつの家具は高級な造りだ。
「いや、全く知りませんでしたな」
ネール公爵は驚いて周りを見渡している。
「広さは十分のようですね。ネール公爵はいかがされますか?」ミスター・カーライルが問う。
「私は──戻ります。本部についていないといけませんので」
「承知しました」
「食事は運ばせます」そう言ってネール公爵は元来た道を戻っていった。
入れ替わるような形でベルタン侯爵がやってきた。
「遅くなってしまいまして申し訳ありません」
「いえ、私たちも到着したところです」ミスター・カーライルが答える。
「では始めましょうか」
ベルタン侯爵のやる気は十分のようで、来るなり上着を椅子にかけて腕まくりをしている。
「アルトワ伯爵は?」シュヴァリエが聞く。
「大丈夫です。言って聞かせましたから」ベルタン侯爵がにやりと笑った。
続けてミスター・カーライルは、戦力を高めるために訓練をするから、相手の攻撃が始まるまでここの地下を貸して欲しいと言った。
「なぜ地下の存在を知っている?」
アルトワ伯爵の質問に、ミスター・カーライルは「それが魔法の力です」と答えたことで、アルトワ伯爵は魔法の存在を信じ始めたようだ。ここの地下には王家専用の隠れ場所があるそうで、アルトワ伯爵は、現在は国王と自分しか知らないはずなのにと、驚いた様子だった。
隠された入口から階段を下りると左右に二キロほどの地下道が掘られてあり、森の奥の洞窟に繋がっているらしい。地方に避難していると伝えられていた国王陛下は実はここの地下にいるとのことだった。
国王のいる洞窟でなければ好きに使うといいとアルトワ伯爵は許可を与えてくれたが、ベルタン侯爵が魔法の訓練をすることには反対して譲らなかった。
「一人でも多くの使い手が必要なのです」
「では兵士の中から選べばいい」
「才能がある者がどれほどいるのか、その選別をしている時間がありません」
「では、何人か見繕って呼び寄せて、ダメなら違う者をと、選別をしながら訓練すればいい」
「そんな余裕はありません」
「なぜアランにそんな能力があるのだ!」アルトワ伯爵は声を荒げた。
「魔力は訓練次第で誰でも使うことができますが、元々の才能も大きく影響します。ベルタン侯爵は並外れているのです」
ミスター・カーライルのその言葉に、アルトワ伯爵は視線を外して何も答えない。
アルトワ伯爵の隣に座っていてベルタン侯爵がおもむろに立ち上がり、私たちの方を向いた。
「先に向かってください。ネール公爵がご案内してくださいます」
「私も初めての場所だ」ネール公爵が答える。
「ではなおさら共に向かってください。王家の隠れ場所なのですから、殿下の安全を確認するためにも一度訪れた方がよろしいでしょう。私は場所がわかりますから」
ベルタン侯爵はどうしても全員を行かせたいらしい。ネール公爵もそれに気がついたのか、それ以上は反論しなかった。
「……承知しました」
地下へ向かうドアは書棚で隠されていて、それをベルタン侯爵が開けて全員を送り出した。
「階段を降りましたら、右に曲がってください。そこからは一本道ですから」
そう言って、書棚を再び元の位置に戻したのか、階段は心もとないランプの灯りだけになったのだが、ミスター・カーライルが魔法を使って昼間のような明るさにしてくれた。
「ベルタン侯爵とアルトワ伯爵の仲の良さは想像以上のようね。王家しか知らないはずの場所をご存知だなんて」
私が後ろを歩いているシュヴァリエに耳打ちすると、「仲が良いどころではないですから」と答えたので、その言葉で思い出した。
アルトワ伯爵は男性にしか興味を抱かれない方だった。ということは、ベルタン侯爵とは友人以上の関係だったのね。
ベルタン侯爵を危険な目に遭わせたくないと反発していたのは、愛情ゆえのことだったのか。
愛情……
シュヴァリエは私のことを好きだと言っていたけど、アルトワ伯爵とは違う。私に魔法を覚えてもらいたいようだし、戦争に参加することにも反対していない。
私がエドワードやフランソワと同列にして気落ちした様子だったのも、孤児で愛情に飢えているから、他の使用人とは別格の愛情を主人に向けて欲しかったからなのね。
うーん……
エドワードは生まれた時から見守っていてくれた最高の執事だから父のように慕っているけど、シュヴァリエは……うーん。それとは違うわね。
信頼はしているけどエドワードよりは頼りないし、でも側にいてくれないと落ち着かないし、いつもと様子が違うと心配だし……これはどういう感情なのかしら?
でもまあ、うん。エドワードに対するものとはまた違った好意ではあるかも。尊敬でもない。むしろ腹が立つ。でも憎めない。好意……まあ、シュヴァリエのことは好きだけど……好きって何かしら?
私はいつかは結婚することになる。余命が決まっているといっても20年もあるんだから結婚せざるを得ないだろう。そうなるとシュヴァリエは執事として仕えることになるのかしら? でもシュヴァリエは執事ではなく騎士のつもりだと言っていたから、それなら国王軍に戻るのかしら? シュヴァリエは私から離れることになるの?
シュヴァリエは私から離れることになるのか──
執事として側にいればいいのに──
私は考え事をしていたので、前を歩いていたミスター・カーライルが立ち止まったことに気がつかず、ぶつかりそうになってしまった。寸でのところで後ろにいたシュヴァリエが支えてくれた。
どうやら到着したようで、行き止まりのところにドアがあった。それを先頭のネール公爵が開けると、中には居住空間があった。簡素だが、王家の隠れ家というだけあってひとつひとつの家具は高級な造りだ。
「いや、全く知りませんでしたな」
ネール公爵は驚いて周りを見渡している。
「広さは十分のようですね。ネール公爵はいかがされますか?」ミスター・カーライルが問う。
「私は──戻ります。本部についていないといけませんので」
「承知しました」
「食事は運ばせます」そう言ってネール公爵は元来た道を戻っていった。
入れ替わるような形でベルタン侯爵がやってきた。
「遅くなってしまいまして申し訳ありません」
「いえ、私たちも到着したところです」ミスター・カーライルが答える。
「では始めましょうか」
ベルタン侯爵のやる気は十分のようで、来るなり上着を椅子にかけて腕まくりをしている。
「アルトワ伯爵は?」シュヴァリエが聞く。
「大丈夫です。言って聞かせましたから」ベルタン侯爵がにやりと笑った。
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