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7. こんな偶然は歓迎しないわ
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「あら? ミス・ヴァロワじゃありませんこと?」
げ! マリオンだ。気づかれてしまった。
「えっ? ミス・ヴァロワ?」コンティ公爵にも。
私は彼らから見て右斜めの位置で正面を向いて座っていて、向かいの席のシュヴァリエの影になるようにしていたのだが、喋るより食うシュヴァリエは料理にがっついてかがみ込んでいたため、全く壁になっていなかった。
マリオンは笑顔で立ち上がり、こちらへ向かって歩いてくる。
「お久しぶりね。ごきげんいかが?」
マリオンはテーブルにいた使用人たちを見渡して、鼻で笑った。よく使用人と同じテーブルにつけるものですわ。とでも言っているような顔だ。
それを察したのか、フランソワ以下使用人たちは立ち上がり、部屋へと戻っていった。
「お久しぶりです。お身体は大丈夫なのですか?」私は聞いた。時期を考えると妊娠4、5ヶ月にはなっているはずだが見た目にはわからない。
マリオンは空いた席に腰を下ろして、出てもいないお腹をさすりながら答える。
「ええ。安定期になってきましたので、気分転換にとここケルマンで静養しているのです」
へえ。どうでもいいけど。
「ミス・ヴァロワはいかがされたのですか?」
「私は母を訪ねに向かっているところです」
「ああ」タリアには居られないでしょうからね。とでも言うのか、蔑んだ笑みを浮かべている。
「昼前には出発しますので」もう二度と会うことはないでしょう。今も会いたくはなかったけど!
「あら残念。色々とお話しをしたかったのに」
「久しぶりだね」
コンティ公爵は微笑を浮かべて現れた。
「お久しぶりです」私も冷静に笑顔で返す。
コンティ公爵もマリオンの隣に座った。いったい何を話すことがあると言うのか。
「お元気そうでなによりですわ。気落ちされていらっしゃるのではと心配しておりましたから」
自分のせいだとわかっていながら平然とこういうことを言う。私は睨みつけてやろうと思ったが公爵令嬢としての癖か、反射的に微笑を浮かべてしまった。
「ミス・マリオンもお元気そうでなによりです。こんなところにまで旅行なされて、お腹の子に何かなければいいのですが」
「ええ、むしろそのためにここへ訪れたと言ってもいいのです。ゴミゴミとしたタリアと違って気候はいいですし、新しい友人もたくさんできて」
「さっきご一緒してらした方たちも?」
私の質問にはコンティ公爵が答えた。
「僕たちのようにここで休暇を過ごしているザルム侯爵夫妻だよ。意気投合してね。ここ一週間ばかり一緒に過ごしているんだ」
コンティ公爵の表情に少し陰りが出た。
「ミス・ヴァロワ、この方は……」マリオンが聞いた。
会話をしている横で一人黙々と食事を続けているシュヴァリエのことが気になったのだろう。
「執事です」
私の返答に二人は目を丸くした。使用人たちは席を外したというのに、執事である身で残っているばかりか憚ることなく食事を続けていることを不思議がっている。
「名を何という?」コンティ公爵がシュヴァリエに聞いた。興味本位だろう。
「シュヴァリエです」
「ヴァロワ家の教育は鷹揚なんだな……」
そう呟くと、コンティ公爵は元のテーブルへ戻っていった。
「それではミス・ヴァロワ、お元気で」
マリオンもそう言って公爵の後に続いた。
「旅行者が増えてきているとは聞いていたけど、まさかあの二人に会うとは思わなかったわ」
私がつぶやくと、シュヴァリエが呑気に聞いた。
「誰ですか?」
知らなかったのか! 使用人たちは全員知っていて、だからこそ席を外したというのに。
私はシュヴァリエに説明した。シュヴァリエは一言「また人に取られたんですか」と、そう返しただけで、立ち上がって部屋へ上がっていった。
あいつは公爵令嬢の私になぜあんな口を利くんだろう! ランスではなくタリアでコンティ公爵と婚約することになったのも、ランスで国一番と謳われた伯爵が、私ではなく子爵の娘を選んだからだった。私は心を寄せた相手を取られてばかり、ということをシュヴァリエは指摘しやがった。
なんて失礼なことを言うのか。いつかやり返してやるわ!
シュヴァリエが馬車と案内人を探しに行ったので、それを待つために部屋にいると、宿屋の主人が言付けを持ってやってきた。
なんとコンティ公爵からで、部屋に一人だから来てくれないかという誘いだった。
元婚約者同士が一室に二人きりになるような誘いをしてくるなんて非常識だと思ったが、万が一変なことをされそうになっても私の方が腕力は上だし、何よりも退屈だったため暇つぶしになるのならと思った私は、コンティ公爵の部屋へと向かうことにした。
げ! マリオンだ。気づかれてしまった。
「えっ? ミス・ヴァロワ?」コンティ公爵にも。
私は彼らから見て右斜めの位置で正面を向いて座っていて、向かいの席のシュヴァリエの影になるようにしていたのだが、喋るより食うシュヴァリエは料理にがっついてかがみ込んでいたため、全く壁になっていなかった。
マリオンは笑顔で立ち上がり、こちらへ向かって歩いてくる。
「お久しぶりね。ごきげんいかが?」
マリオンはテーブルにいた使用人たちを見渡して、鼻で笑った。よく使用人と同じテーブルにつけるものですわ。とでも言っているような顔だ。
それを察したのか、フランソワ以下使用人たちは立ち上がり、部屋へと戻っていった。
「お久しぶりです。お身体は大丈夫なのですか?」私は聞いた。時期を考えると妊娠4、5ヶ月にはなっているはずだが見た目にはわからない。
マリオンは空いた席に腰を下ろして、出てもいないお腹をさすりながら答える。
「ええ。安定期になってきましたので、気分転換にとここケルマンで静養しているのです」
へえ。どうでもいいけど。
「ミス・ヴァロワはいかがされたのですか?」
「私は母を訪ねに向かっているところです」
「ああ」タリアには居られないでしょうからね。とでも言うのか、蔑んだ笑みを浮かべている。
「昼前には出発しますので」もう二度と会うことはないでしょう。今も会いたくはなかったけど!
「あら残念。色々とお話しをしたかったのに」
「久しぶりだね」
コンティ公爵は微笑を浮かべて現れた。
「お久しぶりです」私も冷静に笑顔で返す。
コンティ公爵もマリオンの隣に座った。いったい何を話すことがあると言うのか。
「お元気そうでなによりですわ。気落ちされていらっしゃるのではと心配しておりましたから」
自分のせいだとわかっていながら平然とこういうことを言う。私は睨みつけてやろうと思ったが公爵令嬢としての癖か、反射的に微笑を浮かべてしまった。
「ミス・マリオンもお元気そうでなによりです。こんなところにまで旅行なされて、お腹の子に何かなければいいのですが」
「ええ、むしろそのためにここへ訪れたと言ってもいいのです。ゴミゴミとしたタリアと違って気候はいいですし、新しい友人もたくさんできて」
「さっきご一緒してらした方たちも?」
私の質問にはコンティ公爵が答えた。
「僕たちのようにここで休暇を過ごしているザルム侯爵夫妻だよ。意気投合してね。ここ一週間ばかり一緒に過ごしているんだ」
コンティ公爵の表情に少し陰りが出た。
「ミス・ヴァロワ、この方は……」マリオンが聞いた。
会話をしている横で一人黙々と食事を続けているシュヴァリエのことが気になったのだろう。
「執事です」
私の返答に二人は目を丸くした。使用人たちは席を外したというのに、執事である身で残っているばかりか憚ることなく食事を続けていることを不思議がっている。
「名を何という?」コンティ公爵がシュヴァリエに聞いた。興味本位だろう。
「シュヴァリエです」
「ヴァロワ家の教育は鷹揚なんだな……」
そう呟くと、コンティ公爵は元のテーブルへ戻っていった。
「それではミス・ヴァロワ、お元気で」
マリオンもそう言って公爵の後に続いた。
「旅行者が増えてきているとは聞いていたけど、まさかあの二人に会うとは思わなかったわ」
私がつぶやくと、シュヴァリエが呑気に聞いた。
「誰ですか?」
知らなかったのか! 使用人たちは全員知っていて、だからこそ席を外したというのに。
私はシュヴァリエに説明した。シュヴァリエは一言「また人に取られたんですか」と、そう返しただけで、立ち上がって部屋へ上がっていった。
あいつは公爵令嬢の私になぜあんな口を利くんだろう! ランスではなくタリアでコンティ公爵と婚約することになったのも、ランスで国一番と謳われた伯爵が、私ではなく子爵の娘を選んだからだった。私は心を寄せた相手を取られてばかり、ということをシュヴァリエは指摘しやがった。
なんて失礼なことを言うのか。いつかやり返してやるわ!
シュヴァリエが馬車と案内人を探しに行ったので、それを待つために部屋にいると、宿屋の主人が言付けを持ってやってきた。
なんとコンティ公爵からで、部屋に一人だから来てくれないかという誘いだった。
元婚約者同士が一室に二人きりになるような誘いをしてくるなんて非常識だと思ったが、万が一変なことをされそうになっても私の方が腕力は上だし、何よりも退屈だったため暇つぶしになるのならと思った私は、コンティ公爵の部屋へと向かうことにした。
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