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1. 公爵令嬢の私は最高の相手と結婚することになりました
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貴族令嬢として生まれ落ちた者は、誰と結婚するかで運命が決まる。愛のない結婚でも、多くの人から慕われ世間で評判となるような人物であったのなら、その令嬢は──どんなに不器量でわがままで評判が悪かろうとも──誰もが一目置く存在となる。
エマ・ヴァロワは、国一番のレディだと自らを評価していた。
幼い頃から美貌と利発さを褒められ、公爵令嬢として敬われながらも、それに甘んじることなく勉学に励み、ピアノもヴァイオリンも、それだけでなくレディとしては珍しく、スポーツや護身術にも熱心に取り組み、文武両道と言って差し支えない完璧な貴族令嬢だとの自負を持っていた。
そんな私に相応しい結婚相手は、誰もが羨む完璧な紳士でなければならない。そう考えて見つけた相手は、トリスターノ・コンティ公爵だった。
コンティ公爵は頭脳明晰で才気があり、家族友人はもちろん使用人からも愛される人柄で、20代半ばの若さでありながら国中の尊敬を集めている。
いつも書斎で読書をしているばかりで、数十分の散歩がやっと、という多少病弱な面はあるが、むしろそれくらいの方が完璧であるよりも愛らしい。
自国ランスでは良き結婚相手に巡り会えなかった私は、隣国タリアの名門貴族であるコンティ家との縁談を結んだ。
父もランスでは大臣止まりだったが、この縁談が成立すれば権力者のコンティ家と親戚関係になるというので大喜びだった。
今夜は、隠居して広大な森の奥に引っ込んでいるイヴレーア老公爵の邸に、コンティ公爵と共に招かれている重要な夜会の日だった。
コンティ公爵は先週から熱病を患っていて、治りかけてはいたものの、もう少し自邸で休みたいと言うので婚約者である私と共にぎりぎりの時間までコンティ邸に留まっていた。
室内を照らす陽の光は赤く染まり始めている。さすがに出発しなければ間に合わないとの私の訴えで、ようやくイヴレーア邸へと向かうことになった。
馬車は普段の倍はする速度で駆けていく。「少し飛ばさなければなりません」御者のその言葉通り、通常の速度では間に合わない。
馬車道は舗装されているとは言え、日は沈んで森は闇に包まれている。イヴレーア邸へ向かう他の馬車の姿もなく、馬車のランプだけでは心許ない。
コンティ公爵も不安なのか少し青ざめてはいたが、穏やかな笑顔を私に向けて、安心するようにと言葉をかけてくれた。万全とは言えない身体を抱えながら私を気遣ってくれるなんて、本当に優しい方だ。
30分ほど走ったころか、対面に座っていたコンティ公爵が私の横に移動してきた。
「ミス・ヴァロワ、あなたは美しい……」私の肩に手を回して、顔を近づける。「私と対等に議論をできるレディは少ない。ピアノの腕も素晴らしい。……私の結婚相手としてあなた以上の相手はいない」コンティ公爵の顔が近づいてくる。
……うそ? ……これは、口づけをされるってこと?
その時、いきなり馬がいなないた。と同時に大きな物音がして、馬車が傾いだ。
なんだ?
思うが早いか、切り裂く音と御者の悲鳴が聞こえて、幌に向かって水滴が飛び散った。ランプに照らされてその影が映っている。
師であるエドワードの言葉が頭の中に響いた。
「お嬢様、自分の勘を信じなさい。疑った瞬間に確信するのです。そして気づいたと同時に行動に移しなさい」
私は行動に移した。
間違っているかもしれない。ただ馬が木の根に足を取られて転んだだけか、はたまた木の枝に幌がぶつかっただけかもしれない。
しかし、私の勘は違うと言っていた。
ノブを回す動作も手間で体当たりでドアを開け、私は車外へ飛び出した。
すぐさま臨戦態勢を取る。携帯している短刀は車中で既に引き抜いていた。
ランプの明かりが届く範囲は極わずかで、辺り一面は闇に包まれているが、瞬く間にきらめいた剣先は見逃さなかった。
足音に耳を済ませて距離を測り、その剣先の柄のあたりを短刀で切り裂く。
うめき声と共に後ずさる音。私はさらに二歩踏み込んで、相手の急所あたりをめいいっぱい拳で叩いた。
「そうです。お嬢様は力の使い方がお上手です。紳士を相手にしても負けないでしょう」
エドワードのその言葉は正しかった。相手は一撃で地面に倒れ伏した。
まだ仲間はいる。
私は気を抜かずにすぐにその場を離れ、呼吸を鎮めて耳を澄ませた。
微かに枝を踏む音が聞こえ、それと同時に音のする方へ短刀を投げる。
うめき声と倒れる音。
あっ! 後ろから首を絞められた。私は背後に向かって思いっきり肘鉄を食らわせる。
全然だめだ。どうしたらいい?
足を振り上げ、後ろに向かって力いっぱい蹴りつけるが、かするだけで当たらない。
そして頬に冷たい感触が……
短刀だ。
「令嬢か? お転婆なお嬢様だ。おい、名を言え。お前の親に金を出させる」
私は答えない。
「ふん。黙っていられるのも今のうちだ」
男は私の頬に短刀を滑らせる。熱い。
冷たい刃先が触れた後に頬を液体がつたう。
「頭、中に男がいますぜ」
「ふん。女に戦わせて男はビビっているのか? 誰だ?」
「こいつはコンティの息子でしょう。見たことあります。ひ弱な坊っちゃんですよ」
「コンティか。あそこは貧乏貴族だ。仲間の金貸しも苦労している。……ということは……」
「ランスから来たという金持ちの娘じゃないですかね?」
こんな野盗が私のことを知っているとは……
「それはいい。生かしておくか」
「かなり金をせしめられますぜ」
「ああ」
「しかし、なんて女だ。二人も殺っちまった」
「死んではいないはずよ? 見てみなさい……」
私がそう言うと野盗は倒れた二人に意識を向けた。──今だ!
私は自分の手を掴んで腰を落とす。左足を前に出しながら右足で踏ん張って全体重を後ろにかけた。野盗の腕の力が緩んだため私は地面に転がり、すぐさま立ち上がって馬車へと走る。御者席の後ろに剣があるはずだ。──あった!
「お嬢様、やる時は一斬りです」
はいはい、エドワード。
剣術はスピードと間合い。男から離れてまだ数秒と経っていない今なら油断しているはずだ。
剣を取りに駆けた勢いをそのままに、方向を変える遠心力をも利用して、私を羽交い締めにしていた男に飛びかかり剣で突いた。続いてその男を『頭』と呼んでいた男に斬りかかる。
そいつは短剣を腰から取り出して応戦したが、エドワード直々に剣を習った私に三下程度が敵うはずがない。
初めての実戦だったが、思ったよりも冷静に対処できた。
護衛のいない貴族を狙うだけの野盗など、大した相手ではない。
息を整えながら馬車へ向かう。
コンティ公爵は大丈夫だろうか? 体調が悪いというのにこんな目に遭ってさぞかし怯えているだろう。
いつも優しく私を案じてくれているお方だから、心配をかけないように元気に振る舞わねば……。
馬車のドアを開ける。
あれ? コンティ公爵がいない。
耳を澄ませると、走り去っていく足音が微かに聞こえる。
逃げたのか!
気持ちはわからないでもないが、婚約者の私が羽交い締めにされ、頬に短刀を当てられていたというのに逃げるとは……
私は後を追った。毎日散歩をすると言って実は走り込みをしている私の足は、令嬢の中でも類稀な速さだろう。病弱なコンティ公爵に追いつくには数分とかからなかった。
「コンティ公爵!」安心させるために明るい声で呼び止めた。
私の声で公爵の身体が大きく震えたため、怯えさせないようにと優しく肩に手を置いた。
もう安心ですよ。野盗はやっつけましたから。
「ひっ!」
振り向いたコンティ公爵は怯えた顔をしている。化け物でも見たような目だ。
混乱して勘違いしたのかしら? 私ですよ。婚約者のエマ・ヴァロワですよ。
「お……おそろしい女……」
ん? 女?
「触るな! 近づくな!」肩に置いた手を振り払われた。
「コンティ公爵?」
私はさらに一歩近づく。
「来るなあああああ」
ふらふらの足はどこへやら、公爵は目も見張る速さで走り去った。
嘘でしょ?
『ミス・ヴァロワは強いんだね。助けてくれてありがとう。大好きだよ』
……そう言って先ほどの続きをしてくれるはずじゃないの?
エマ・ヴァロワは、国一番のレディだと自らを評価していた。
幼い頃から美貌と利発さを褒められ、公爵令嬢として敬われながらも、それに甘んじることなく勉学に励み、ピアノもヴァイオリンも、それだけでなくレディとしては珍しく、スポーツや護身術にも熱心に取り組み、文武両道と言って差し支えない完璧な貴族令嬢だとの自負を持っていた。
そんな私に相応しい結婚相手は、誰もが羨む完璧な紳士でなければならない。そう考えて見つけた相手は、トリスターノ・コンティ公爵だった。
コンティ公爵は頭脳明晰で才気があり、家族友人はもちろん使用人からも愛される人柄で、20代半ばの若さでありながら国中の尊敬を集めている。
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自国ランスでは良き結婚相手に巡り会えなかった私は、隣国タリアの名門貴族であるコンティ家との縁談を結んだ。
父もランスでは大臣止まりだったが、この縁談が成立すれば権力者のコンティ家と親戚関係になるというので大喜びだった。
今夜は、隠居して広大な森の奥に引っ込んでいるイヴレーア老公爵の邸に、コンティ公爵と共に招かれている重要な夜会の日だった。
コンティ公爵は先週から熱病を患っていて、治りかけてはいたものの、もう少し自邸で休みたいと言うので婚約者である私と共にぎりぎりの時間までコンティ邸に留まっていた。
室内を照らす陽の光は赤く染まり始めている。さすがに出発しなければ間に合わないとの私の訴えで、ようやくイヴレーア邸へと向かうことになった。
馬車は普段の倍はする速度で駆けていく。「少し飛ばさなければなりません」御者のその言葉通り、通常の速度では間に合わない。
馬車道は舗装されているとは言え、日は沈んで森は闇に包まれている。イヴレーア邸へ向かう他の馬車の姿もなく、馬車のランプだけでは心許ない。
コンティ公爵も不安なのか少し青ざめてはいたが、穏やかな笑顔を私に向けて、安心するようにと言葉をかけてくれた。万全とは言えない身体を抱えながら私を気遣ってくれるなんて、本当に優しい方だ。
30分ほど走ったころか、対面に座っていたコンティ公爵が私の横に移動してきた。
「ミス・ヴァロワ、あなたは美しい……」私の肩に手を回して、顔を近づける。「私と対等に議論をできるレディは少ない。ピアノの腕も素晴らしい。……私の結婚相手としてあなた以上の相手はいない」コンティ公爵の顔が近づいてくる。
……うそ? ……これは、口づけをされるってこと?
その時、いきなり馬がいなないた。と同時に大きな物音がして、馬車が傾いだ。
なんだ?
思うが早いか、切り裂く音と御者の悲鳴が聞こえて、幌に向かって水滴が飛び散った。ランプに照らされてその影が映っている。
師であるエドワードの言葉が頭の中に響いた。
「お嬢様、自分の勘を信じなさい。疑った瞬間に確信するのです。そして気づいたと同時に行動に移しなさい」
私は行動に移した。
間違っているかもしれない。ただ馬が木の根に足を取られて転んだだけか、はたまた木の枝に幌がぶつかっただけかもしれない。
しかし、私の勘は違うと言っていた。
ノブを回す動作も手間で体当たりでドアを開け、私は車外へ飛び出した。
すぐさま臨戦態勢を取る。携帯している短刀は車中で既に引き抜いていた。
ランプの明かりが届く範囲は極わずかで、辺り一面は闇に包まれているが、瞬く間にきらめいた剣先は見逃さなかった。
足音に耳を済ませて距離を測り、その剣先の柄のあたりを短刀で切り裂く。
うめき声と共に後ずさる音。私はさらに二歩踏み込んで、相手の急所あたりをめいいっぱい拳で叩いた。
「そうです。お嬢様は力の使い方がお上手です。紳士を相手にしても負けないでしょう」
エドワードのその言葉は正しかった。相手は一撃で地面に倒れ伏した。
まだ仲間はいる。
私は気を抜かずにすぐにその場を離れ、呼吸を鎮めて耳を澄ませた。
微かに枝を踏む音が聞こえ、それと同時に音のする方へ短刀を投げる。
うめき声と倒れる音。
あっ! 後ろから首を絞められた。私は背後に向かって思いっきり肘鉄を食らわせる。
全然だめだ。どうしたらいい?
足を振り上げ、後ろに向かって力いっぱい蹴りつけるが、かするだけで当たらない。
そして頬に冷たい感触が……
短刀だ。
「令嬢か? お転婆なお嬢様だ。おい、名を言え。お前の親に金を出させる」
私は答えない。
「ふん。黙っていられるのも今のうちだ」
男は私の頬に短刀を滑らせる。熱い。
冷たい刃先が触れた後に頬を液体がつたう。
「頭、中に男がいますぜ」
「ふん。女に戦わせて男はビビっているのか? 誰だ?」
「こいつはコンティの息子でしょう。見たことあります。ひ弱な坊っちゃんですよ」
「コンティか。あそこは貧乏貴族だ。仲間の金貸しも苦労している。……ということは……」
「ランスから来たという金持ちの娘じゃないですかね?」
こんな野盗が私のことを知っているとは……
「それはいい。生かしておくか」
「かなり金をせしめられますぜ」
「ああ」
「しかし、なんて女だ。二人も殺っちまった」
「死んではいないはずよ? 見てみなさい……」
私がそう言うと野盗は倒れた二人に意識を向けた。──今だ!
私は自分の手を掴んで腰を落とす。左足を前に出しながら右足で踏ん張って全体重を後ろにかけた。野盗の腕の力が緩んだため私は地面に転がり、すぐさま立ち上がって馬車へと走る。御者席の後ろに剣があるはずだ。──あった!
「お嬢様、やる時は一斬りです」
はいはい、エドワード。
剣術はスピードと間合い。男から離れてまだ数秒と経っていない今なら油断しているはずだ。
剣を取りに駆けた勢いをそのままに、方向を変える遠心力をも利用して、私を羽交い締めにしていた男に飛びかかり剣で突いた。続いてその男を『頭』と呼んでいた男に斬りかかる。
そいつは短剣を腰から取り出して応戦したが、エドワード直々に剣を習った私に三下程度が敵うはずがない。
初めての実戦だったが、思ったよりも冷静に対処できた。
護衛のいない貴族を狙うだけの野盗など、大した相手ではない。
息を整えながら馬車へ向かう。
コンティ公爵は大丈夫だろうか? 体調が悪いというのにこんな目に遭ってさぞかし怯えているだろう。
いつも優しく私を案じてくれているお方だから、心配をかけないように元気に振る舞わねば……。
馬車のドアを開ける。
あれ? コンティ公爵がいない。
耳を澄ませると、走り去っていく足音が微かに聞こえる。
逃げたのか!
気持ちはわからないでもないが、婚約者の私が羽交い締めにされ、頬に短刀を当てられていたというのに逃げるとは……
私は後を追った。毎日散歩をすると言って実は走り込みをしている私の足は、令嬢の中でも類稀な速さだろう。病弱なコンティ公爵に追いつくには数分とかからなかった。
「コンティ公爵!」安心させるために明るい声で呼び止めた。
私の声で公爵の身体が大きく震えたため、怯えさせないようにと優しく肩に手を置いた。
もう安心ですよ。野盗はやっつけましたから。
「ひっ!」
振り向いたコンティ公爵は怯えた顔をしている。化け物でも見たような目だ。
混乱して勘違いしたのかしら? 私ですよ。婚約者のエマ・ヴァロワですよ。
「お……おそろしい女……」
ん? 女?
「触るな! 近づくな!」肩に置いた手を振り払われた。
「コンティ公爵?」
私はさらに一歩近づく。
「来るなあああああ」
ふらふらの足はどこへやら、公爵は目も見張る速さで走り去った。
嘘でしょ?
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