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根掘り葉掘り
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生田と男性は話しながら本屋のあったビルを出て、近くにあるカフェへと入ると、席を見つけてコーヒーを注文した。
「大変だったんですね。転院なされて、その北島さんという方の容態に変化はあったのですか?」
「まだわかりません。もう一度手術をするようですから、まだこれからということなのでしょう」
男性は、久世透と名乗った。
与党の総裁選に出馬している久世議員の孫だそうで、現在は大学院で修士論文を執筆中らしい。
背が高くスラリとしていて、御曹司よろしく高そうなスーツを見事に着こなしている。サラサラとした黒い髪は、セットされてはいるが長い前髪が顔にかかり、俳優か芸能人かと思うような美貌を隠すようにしている。
「それで生田さんは度々こちらの病院へお見舞いに来られているのですか」
「えぇ、まだ三度目ですが。眠ったままといっても意識があるかもしれませんし、頻繁に声をかけてあげることは重要だと考えたものですから」
「大切な方なんですね」
「えぇ、いや、こんな話をしてしまってお恥ずかしい」
「こちらこそ根掘り葉掘りお伺いしてしまって申し訳ありません。お時間があれば私の話を洗いざらいお話してお返しすることもできるのですが」
生田は久世のその言葉で笑った。
「近くに住んでいればまたお会いして色々お伺いしてみたいものですが、僕が次に来るのは早くても2ヶ月先になりますから」
「残念です。いや、あの小説のお話をもっと色々伺いたいと思ったものですから」
「ああ、その話をするためにお茶をすることになったはずでしたね。まだ時間はありますから」
そう言って、生田は既に持っていた小説を取り出して、ページを開いた。
二人はそれから1時間ほどカフェで会話に花を咲かせた。
新幹線の時間だからと、生田が別れの挨拶をしようとすると、久世は車で東京駅まで送ると言った。
「ご迷惑になりますから結構ですよ」
「いえ、時間を使わせてしまったのです。送らせてください。もう少し生田さんととお話も楽しみたいものですから」
生田は、久世の意向が建前ではなく本心であることを悟り、その厚意を受けることにした。
運転手付きのクラウンの後部座席に乗り込んだ生田は、久世に話を振った。
「久世さんはなぜ病院にいらしたのですか? 久世さんもお見舞いですか?」
「ええ、父が入院中でして」
「そうでしたか」
「父は企業の重役なのですが、院を辞めて私にその企業に入れとうるさくて。私は拒否しているのですが、命が危ないからと脅すような真似を繰り返していて辟易しているんです」
「それは大変ですね。お父様のその、お身体は大丈夫なんですか? 本当に命に関わるものなんですか?」
「いえいえ。血を吐いたので胃癌かもしれないと大騒ぎをしましたが、結局ストレスによる胃潰瘍でした。そんなのを見せられて同じ仕事をしろだなんて、よく言えたものです」
久世はそう言って笑った。
生田は父親を早くに亡くしていて片親だったので、父と息子という関係は自分には未知の世界だとして言葉に詰まった。
20分程のドライブの後、東京駅のロータリーに到着した。
生田は降車する前に久世に小説を手渡した。
「僕はもう読んでしまいましたので、もしよろしければ読んでみてください。新品ではありませんが、購入するのを忘れてしまっておりましたから」
「いえ、そんな、悪いですよ」
「では、試し読みということでお貸しします。ご興味を抱かれないかもしれないのに購入するのはもったいないです。次にお会いする機会にお返しいただければ結構です」
生田は笑顔でそう言った。
久世はおずおずとその手から本を受け取った。
「ありがとうございます。必ずお返しします」
「2ヶ月後にお時間が合いましたらまたお茶でもいたしましょう。いただいた連絡先にご連絡いたします」
生田の再会の約束に、久世は感激した様子を見せた。
「わかりました。その時までには読み終えて、感想をお伝えできればと思います」
二人はそこで別れた。
「大変だったんですね。転院なされて、その北島さんという方の容態に変化はあったのですか?」
「まだわかりません。もう一度手術をするようですから、まだこれからということなのでしょう」
男性は、久世透と名乗った。
与党の総裁選に出馬している久世議員の孫だそうで、現在は大学院で修士論文を執筆中らしい。
背が高くスラリとしていて、御曹司よろしく高そうなスーツを見事に着こなしている。サラサラとした黒い髪は、セットされてはいるが長い前髪が顔にかかり、俳優か芸能人かと思うような美貌を隠すようにしている。
「それで生田さんは度々こちらの病院へお見舞いに来られているのですか」
「えぇ、まだ三度目ですが。眠ったままといっても意識があるかもしれませんし、頻繁に声をかけてあげることは重要だと考えたものですから」
「大切な方なんですね」
「えぇ、いや、こんな話をしてしまってお恥ずかしい」
「こちらこそ根掘り葉掘りお伺いしてしまって申し訳ありません。お時間があれば私の話を洗いざらいお話してお返しすることもできるのですが」
生田は久世のその言葉で笑った。
「近くに住んでいればまたお会いして色々お伺いしてみたいものですが、僕が次に来るのは早くても2ヶ月先になりますから」
「残念です。いや、あの小説のお話をもっと色々伺いたいと思ったものですから」
「ああ、その話をするためにお茶をすることになったはずでしたね。まだ時間はありますから」
そう言って、生田は既に持っていた小説を取り出して、ページを開いた。
二人はそれから1時間ほどカフェで会話に花を咲かせた。
新幹線の時間だからと、生田が別れの挨拶をしようとすると、久世は車で東京駅まで送ると言った。
「ご迷惑になりますから結構ですよ」
「いえ、時間を使わせてしまったのです。送らせてください。もう少し生田さんととお話も楽しみたいものですから」
生田は、久世の意向が建前ではなく本心であることを悟り、その厚意を受けることにした。
運転手付きのクラウンの後部座席に乗り込んだ生田は、久世に話を振った。
「久世さんはなぜ病院にいらしたのですか? 久世さんもお見舞いですか?」
「ええ、父が入院中でして」
「そうでしたか」
「父は企業の重役なのですが、院を辞めて私にその企業に入れとうるさくて。私は拒否しているのですが、命が危ないからと脅すような真似を繰り返していて辟易しているんです」
「それは大変ですね。お父様のその、お身体は大丈夫なんですか? 本当に命に関わるものなんですか?」
「いえいえ。血を吐いたので胃癌かもしれないと大騒ぎをしましたが、結局ストレスによる胃潰瘍でした。そんなのを見せられて同じ仕事をしろだなんて、よく言えたものです」
久世はそう言って笑った。
生田は父親を早くに亡くしていて片親だったので、父と息子という関係は自分には未知の世界だとして言葉に詰まった。
20分程のドライブの後、東京駅のロータリーに到着した。
生田は降車する前に久世に小説を手渡した。
「僕はもう読んでしまいましたので、もしよろしければ読んでみてください。新品ではありませんが、購入するのを忘れてしまっておりましたから」
「いえ、そんな、悪いですよ」
「では、試し読みということでお貸しします。ご興味を抱かれないかもしれないのに購入するのはもったいないです。次にお会いする機会にお返しいただければ結構です」
生田は笑顔でそう言った。
久世はおずおずとその手から本を受け取った。
「ありがとうございます。必ずお返しします」
「2ヶ月後にお時間が合いましたらまたお茶でもいたしましょう。いただいた連絡先にご連絡いたします」
生田の再会の約束に、久世は感激した様子を見せた。
「わかりました。その時までには読み終えて、感想をお伝えできればと思います」
二人はそこで別れた。
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