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未熟な農家さん
気になるふたり
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ー午前6時
こここーっ!
「ん…タマ…。目覚ましのかわりになるね…。」
タマの声で目が覚める。
今日も今日とてがんばろう…。
ー午前8時
作物の水やりを終えてタマのところにきた。
「タマー…。」
「ここっ!」
懐で温めていた卵を僕のほうに差し出してきた。
「あっ、ありがと…。」
「こけっ!」
「そろそろプレゼントとかあげたいんだけどなぁ…。退屈そうだし…。」
タマを外に出しながら考える。
「んー…なんというか…ただっ広い…よね…。」
そう、ただっ広い…。
「タマ…お友達…ほしいかな…?」
「こけっ!」
ー午前9時
「ミカー…。いる…?」
「あっ、アル!どうしたの?」
「もしよかったら…ちょっと…仲間作りにいかない…?」
「あら、アルったら、私みたいな女の子をデートに誘いにきたのー?」
「……そういう言い方…好きくない…。」
「あははっ!怒んないで怒んないで!冗談なんだからっ!」
「……もう…。」
「全くアルったらこういう話通じないんだから。そんなんじゃあ女の子にモテないよー?」
「モテなくても…いい…。」
「強がっちゃってー!ひゅーひゅー!クールー!」
「………。」
僕はミカの家を後にした。
「待ちなさいよー!」
「どうしようかな…。」
やっぱり一人で行くしかないかな。
「あ、アルさん?」
「ん…キミは……あ、ビットの…。」
「はい!シャリーヌ・クルンルンですよー!」
「久しぶりだね…。」
「そうですね!なんかお兄ちゃんは私と行動したがらないですから…皆さんとお会いできる機会も減っちゃうんですよね…。」
「ね…。この前もビットが…。」
「え?お兄ちゃん、私のこと、なんか言ってたんですか?」
「…… うーん…。」
「あ…やっぱり…あんまり良く言ってないんですよね…。」
「いや…その……。」
「いいんです…。私、わかってますから。お兄ちゃんは、しっかり者ですけど、いっつもそれに甘えちゃって…。」
「シャリーヌちゃん…。」
「……大丈夫です。私だって、はやく一人前になれば…。」
「……そうだ、シャリーヌちゃん。今日、時間ある…?」
「え…?」
ー午前10時
「いいんですか?アルさん。お仕事見せてもらっても。」
「うん…。参考になるかわかんないけど…。」
僕はシャリーヌちゃんと一緒に村はずれまできた。
「今日はね…仲間を増やそうと思って…。」
「仲間?」
「うん…。わかりやすく言っちゃうと…まあ…家畜…ってことなんだけど…。」
「こんなところまできて捕まえて持って来んですか?はぁあ…大変なんですねぇ…やっぱり…。」
「…ふふ…。僕も、はじめはびっくりしたよ…。」
「え?違うんですか?!…なになに、なんですか、教えてくださいよぅ!」
「もうちょっと待ってね…。」
「きっとですよー!」
「あ、あれは!」
「…ホルホーンだ…。」
「ちょっと角が強そうで怖いですけど…仲間にできればミルクを分けてもらえるんですよね?」
「しっかり勉強してるんだ…。僕なんて…タマトッサの名前も知らなかったんだよ…?」
「ア…アルさん…。」
「やっぱり…シャリーヌちゃんは…頑張り屋さんだと思うよ…?僕なんかより…よっぽど。」
「そ…そんなこと…!だって、お兄ちゃんは…。」
「ビットは…照れ臭いだけ…。僕だって…ミカのこと、うっとおしいなぁって思うこともあるけど…きらいじゃない…。むしろ……好き…って思うよ。」
「アルさん…。でも…私なんて…ほんとに…。」
「キミが自分を馬鹿にするなら…もっとできてない僕は…きっとよっぽどひどいんだろうね…。」
「あ!いえ!そんなつもりは!」
「ふふ…冗談…だよ…。でも…自信がないのは…僕も同じ…。何にも知らなかったから…。」
僕はホルホーンの方を向く。
「…見てて…。」
ホルホーンはこちらをじっと見ている。
「こんにちは…ホルホーンさん…。キミは……あぁ…のんびり屋さんだ。僕と同じ…。」
「モゥー…。」
「はは…こんないい天気は…眠くなるよねぇ…。」
「ブモゥ…。」
「ねぇ…もしよかったら…僕のところに…来ない…?お友達もいて…ひろぉい原っぱで…ゆっくりお昼寝できるよ…?」
ホルホーンの耳が少し動いた。
「ね…お手伝い…してくれるかな?キミのミルクを、ちょっと分けてくれるだけでいいんだよ…。」
僕はそっとホルホーンの角に手を当てる。
「モーゥ…。」
ホルホーンは角をゆっくりと何度も手に擦り付けると、足元から光に包まれていき…やがて、消えた。
「え……?消えた…?」
「…びっくりした?」
「びっくりっていうか……え?なんですか?これ?!」
「魔法…だよ…。」
「アルさん、魔法使えるんですか?!」
「僕も…知らなかった…。プロミスっていう魔法。誰にでも使えるんだって…。」
「図鑑にはそんなの書いてなかったのに…。」
「なんでだろうね…僕も、知らなかった…。想う力があれば…使えるんだって…。」
「へー!そうなんですか!わぁ…やってみたい…!」
「でも…もう少し待った方がいいかもしれないよ…?」
「え…なんでですか…?」
「もしかすると…成人にならないと扱えない理由があるのかもしれない…あと…転送先が…自分の土地持ってないだろうから…よくわかんないかも…。」
「流石ですねアルさんは。そんなこと思いもしませんでしたよ。」
「いや…勘っていうか…その…根拠は…ないけど…。」
「いえいえ!そんなそんな!絶対合ってますよぅ!私はもうちょっと我慢します!」
「うん…。あと一年…きっとすぐに追いつくよ…。」
「ありがとうございます!」
ー午後0時
「しばらく歩いたね…。」
「そうですね。」
「おなか…すかない…?」
「…すきましたね。」
「やっぱり…。」
「あ…聞こえてました…?私の…おなかの音…。」
「ん……いや…んんー…ちょっと…かな…。」
「ご…ごめんなさいっ!」
「ええっと…こっちこそ…きいちゃって…ごめん…?」
「あははっ!なんですかそれっ!こっちが鳴らしちゃったんですから私が悪いんですよぅー!」
「あー…おなか空かせるまで歩かせちゃって…?」
「気にしないでください!じゃあなんか食べましょ!そうしましょう!」
「うん…。どうしよう。」
「あ、あそこに丁度いい木がありますよ!座りましょうか!」
「あ、いいね…。」
大きな木に背を預けて二人で座った。
「あ…結構涼しいかも…。」
「ですね!」
「……。」
「……。」
ぐーっ。
「……。」
「…忘れてください…。」
「…ふふ。」
「あーもう食べます!」
シャリーヌちゃんはカバンを開けた。
「あ…あれっ?…お、おかしいですね…あれっ…?」
「…もしかして…?」
「う…うぅ…食べ物が…入ってない……です…。」
「……ふふふふ…。」
「ちょっ、ちょっとー!アルさんー!」
「ごめんね…ふふ…よかったら…僕の…一緒に食べる…?」
「え!いいんですか…?!わぁ…美味しそう…。」
「お腹空いてると…きっと美味しく食べられるよ…。」
「食べちゃっても…いいんですか?!」
「どうぞ…。」
「ありがとうございますっ!」
シャリーヌちゃんは、早速お弁当を食べ始めた。
食べ始めて……それは、止まることはなかった…。
「……はっ!!あぁっ!もうこんなしか…!あああぁ…す…すみませんん…。」
「シャリーヌちゃん…。」
「うぅ…アルさん…ごめんなざいぃ…。」
「ここ…ついてるよ…。」
「えっあっ…。」
ほっぺたについてたご飯を取ってあげた。
「ごっ…ごご…ごめんなさい…。その…ごめんなさい…。」
「大丈夫。大丈夫…。今日は、僕に付き合ってもらっちゃったし…。」
「あーー!」
「えっ?!」
「アルだー!えー?!隣の子…えー?!シャリーヌちゃんじゃんー!えー?!まさかー?!えー?!」
「……はぁ…。」
「ミカさん?!エリンティアツインズ大集合?!感激です!」
「シャリーヌちゃん…多分今はもっとめんどくさいことになってるはず…。」
「アルー!あんたー!そういうことねー!ひゅー!やるじゃないー!ひゅー!」
「ミカ…なんか今日は…一段と…。」
「んー?なになにー?」
「いや…やっぱりいいや…。」
「いやぁーまさか、アルがこぉんなにすすんでたなんてねー!」
「なんのことかわかんないんだけど…。」
「そっそうですよ!私はただ…その…先輩みたいな感じで…教えてもらってただけです!」
「ふ~ん…。むっふっふ~ん…。わかってるわかってる…。邪魔しちゃ悪いからあたしは帰るね~。ばいば~い。」
「あっ…ミカ…。違うのに…。」
「違うんですか?」
「シャリーヌちゃんまで…。」
「ふふふっ。でも今日は、楽しかったですよ?」
「それなら…僕もちょっと嬉しいよ。」
「ありがとうございます!」
ー午後2時
「じゃあ…またね。」
「はい!ありがとうございました!」
クルンルン家まで帰ってきた。
「また誘ってくださいね!私ほんとに楽しかったんですから!」
「うん…きっと誘うよ。」
「はい!」
「またね、シャリーヌちゃん…。」
「あ…あのっ!」
「ん?」
「も…もしよかったら…私のこと…シャル…って…呼んでくれませんか?」
「え、なんで…?」
「あ、あのその…よ…呼びにくくないですか?それに、家族とか、友達とか…みんなそう呼ぶんです!ほんとです!」
「…わかったよ、シャル…ちゃん。」
「あー!ちゃんもいいですよぅ!気を遣わせちゃってるみたいで申し訳ないです!」
「…シャル。」
「はい!」
「じゃあ、そう呼ばせてもらうね…。」
「えへへ、ありがとうございます!」
「うん、またね、シャル。」
「はいぃー!また遊び…じゃなかった、見学させてくださいね!」
「ふふ…またね。」
ー午後3時
「さてさて…ホルホーンちゃんは…。」
「モゥー…。」
「うん、いるね。」
ホルホーンは、のんびりと牧草を噛んでいた。
「名前をつけてあげなきゃねー…。」
「モゥ。」
「そうだなぁ…。モモちゃん…とか…?」
「モー!」
「うん…そうしよう…!」
モモちゃんが仲間になった…!
「こかっ?!」
「あ、タマ。」
「モ?」
「こけこ?」
「……。」
「……。」
「あれ…?」
「モゥモ。」
「ここここ。」
「…挨拶…?」
二匹はしばらくなんか言ってたけどいつのまにか一緒に寝ていた…。仲良くなれたかな…?
ー午後5時
「さ…ごはん…。」
ハングリーラビットにやってきた。
「あ!おい、アル!」
ビットが僕を見るなり叫んだ。まさか…?
「お前ぇー!まさか俺の妹に手を出すとはなー…!」
「な…なんのこと…?」
「とぼけるんじゃねェ!」
「待ってください。全く。頭に血が上ってますよ。」
「ト…トーマス…どういうこと…?」
「はぁ…アレですよ…。」
「でさでさ?!アルのやつぅー!」
「……ミカ…っ!」
「おいアルっ!きいてんのかっ!」
「ちょっと…じゃま…。」
「え…おい…。」
僕はミカのところにまっすぐ歩いて行った。
「あ、アルー!」
「おいアル!ほんとかよお前!」
「アルくん…ほんとなの…?」
「ミカ…。」
「まったくー!アルったらなーんも言わないくせしてやることやってんのねー!」
「逆にちょっと見直しちまったかな!」
「アルくぅ~ん…。」
「ミカッ!」
一瞬うるさかった店内が静かになった。
「勝手に盛り上がらないで…。僕はただ…ビットに引け目を感じてるシャルに仕事を見せてあげただけ…。そういうこと言われると…僕はいいけど…シャルが傷つく…。やめたげて。」
「……はい…。」
「…わ…わりィな…アル…。早とちりしちまったみたいだ…。」
店内に沈黙が続いた。
「……僕…帰る…。」
僕は店を出た。
「アルがあんな声出すの…初めてきいたかも…。」
「う…みんな…ごめんね。ちょーっと勘違いしちゃったみたい…。」
「まったくもぅ~!ミカちゃん!まったくもぅ~!びっくりしたじゃん!」
「はぁ…ったくよう!まぁまぁ気にしないことにしようぜ!それがいい!」
「そうですね…。このことはあまり覚えておくのは良くないです。」
「…だな。……ん?しかしあいつ…なんでシャリーヌのことをシャルって…?」
「え…?」
「いや、あいつのことをシャルって言うやつはあんまりいないんだけど…。」
「……アルくん…まさかほんとに…?」
「いやいやいや!もうやめようぜ!なっ?なんかこう~あったんだろ!いやいや、変な意味じゃないぜ?私だってその…あぁもうとにかくやめだ!あいつは優しいってことでいいな!」
「なんだかその結論は意味がわかりませんが…まあいいでしょう。」
「シャル…。お前まさか…?いや、まさかな…?」
「はいビットも悩まない!」
「もうほんとごめんねみんな!朝アルとそういう話したばっかだったからつい女の子といるところを見て…。」
「はい!もうおしまい!さあ帰ろ!」
「チェリッシュごめんねさっきから…。」
「あーもう謝んなって!はいはい!帰る!」
うるさかった店の中が途端に静かになった。
「まったく…あの子たちは…。青春…だねぇ。」
ー午後6時
「うぅ…。うっ…。」
なんでかわかんないけど悔しかった。
ビットの怒声。
自分勝手なミカの声。
それを信じた女の子たちの声。
僕は耐えられなかった。
我慢しちゃいけないと思った。
「なんでミカは…わかってくれなかったんだろう…。」
僕があの時ちゃんと伝えなかったから?でもすぐ行っちゃったんだもん…。
「シャルも…ビットとの距離感で悩んでた…。偉そうに言ったけど…僕だってそうだよ…。」
とんとん
扉から音がした。
「ごめん…今大丈夫?」
ミカだった。
「今は…会いたくない…。」
「……そっか…。」
「……うん…。」
鼻をすする音は極力抑えたつもりだった。
「アル…泣いてるの…?」
「……ちがうよ…ばか…。」
「ううん…泣いてる…。」
「もう…やめてよ…。」
ミカがドアを開けて僕を抱きしめた。
「ごめん…ごめんね…。」
ミカは僕よりずっとぐしゃぐしゃな顔だった。
「あ…あたし…ほんとに…ひどいこと…うぅ…しちゃったよ…。」
「ミカ…。ずるい…よ…。」
「ごめん…。でも…どう謝ったらいいのか…。わかんなぐでぁぁ…。」
「ぷふふ…ひどいかお…ぐずっ…。」
「あは…ようやぐ笑った…。」
「こっちもごめんね…ミカ…。僕、怒ったことなんてあんまりないもんね…。」
「あたしこそ…今日は調子に乗りすぎちゃった…ごめんね…。」
「いいよいいよ…。でも他の人に迷惑かけるのは…やめようね…。」
「反省します…うぅ…。」
「…ミカ、そろそろ…。」
ミカはまだ離してくれそうにない…。
「大丈夫だよ…嫌いになったりしてないから…どこにも行かないから…。」
「アル…絶対だからね…ぐすっ…。」
やっと離してくれた。
「じゃあもうおやすみね…。」
「あっ待って。」
「ん…?」
「アル…なにも食べてないでしょ…?」
「……いいよ。気にしないで。」
「…そう?ごめんね。」
「…うん。じゃあね。」
「またね!アル!」
「…うん。」
ミカはドアを閉めるまでずっとこっちを見ていた。よっぽど悪いと思ったのかな?僕ももうこういうことはやめてほしいかな。
なんだか今日は色々ありすぎて疲れちゃったよ…。お腹もすいたし…。
でも…シャルが変な誤解されなくてよかった…。モモちゃんも仲間になったし…。うん…よかった…。
明日もしっかりお世話するためにも…今日はもう…おやすみなさい…。
こここーっ!
「ん…タマ…。目覚ましのかわりになるね…。」
タマの声で目が覚める。
今日も今日とてがんばろう…。
ー午前8時
作物の水やりを終えてタマのところにきた。
「タマー…。」
「ここっ!」
懐で温めていた卵を僕のほうに差し出してきた。
「あっ、ありがと…。」
「こけっ!」
「そろそろプレゼントとかあげたいんだけどなぁ…。退屈そうだし…。」
タマを外に出しながら考える。
「んー…なんというか…ただっ広い…よね…。」
そう、ただっ広い…。
「タマ…お友達…ほしいかな…?」
「こけっ!」
ー午前9時
「ミカー…。いる…?」
「あっ、アル!どうしたの?」
「もしよかったら…ちょっと…仲間作りにいかない…?」
「あら、アルったら、私みたいな女の子をデートに誘いにきたのー?」
「……そういう言い方…好きくない…。」
「あははっ!怒んないで怒んないで!冗談なんだからっ!」
「……もう…。」
「全くアルったらこういう話通じないんだから。そんなんじゃあ女の子にモテないよー?」
「モテなくても…いい…。」
「強がっちゃってー!ひゅーひゅー!クールー!」
「………。」
僕はミカの家を後にした。
「待ちなさいよー!」
「どうしようかな…。」
やっぱり一人で行くしかないかな。
「あ、アルさん?」
「ん…キミは……あ、ビットの…。」
「はい!シャリーヌ・クルンルンですよー!」
「久しぶりだね…。」
「そうですね!なんかお兄ちゃんは私と行動したがらないですから…皆さんとお会いできる機会も減っちゃうんですよね…。」
「ね…。この前もビットが…。」
「え?お兄ちゃん、私のこと、なんか言ってたんですか?」
「…… うーん…。」
「あ…やっぱり…あんまり良く言ってないんですよね…。」
「いや…その……。」
「いいんです…。私、わかってますから。お兄ちゃんは、しっかり者ですけど、いっつもそれに甘えちゃって…。」
「シャリーヌちゃん…。」
「……大丈夫です。私だって、はやく一人前になれば…。」
「……そうだ、シャリーヌちゃん。今日、時間ある…?」
「え…?」
ー午前10時
「いいんですか?アルさん。お仕事見せてもらっても。」
「うん…。参考になるかわかんないけど…。」
僕はシャリーヌちゃんと一緒に村はずれまできた。
「今日はね…仲間を増やそうと思って…。」
「仲間?」
「うん…。わかりやすく言っちゃうと…まあ…家畜…ってことなんだけど…。」
「こんなところまできて捕まえて持って来んですか?はぁあ…大変なんですねぇ…やっぱり…。」
「…ふふ…。僕も、はじめはびっくりしたよ…。」
「え?違うんですか?!…なになに、なんですか、教えてくださいよぅ!」
「もうちょっと待ってね…。」
「きっとですよー!」
「あ、あれは!」
「…ホルホーンだ…。」
「ちょっと角が強そうで怖いですけど…仲間にできればミルクを分けてもらえるんですよね?」
「しっかり勉強してるんだ…。僕なんて…タマトッサの名前も知らなかったんだよ…?」
「ア…アルさん…。」
「やっぱり…シャリーヌちゃんは…頑張り屋さんだと思うよ…?僕なんかより…よっぽど。」
「そ…そんなこと…!だって、お兄ちゃんは…。」
「ビットは…照れ臭いだけ…。僕だって…ミカのこと、うっとおしいなぁって思うこともあるけど…きらいじゃない…。むしろ……好き…って思うよ。」
「アルさん…。でも…私なんて…ほんとに…。」
「キミが自分を馬鹿にするなら…もっとできてない僕は…きっとよっぽどひどいんだろうね…。」
「あ!いえ!そんなつもりは!」
「ふふ…冗談…だよ…。でも…自信がないのは…僕も同じ…。何にも知らなかったから…。」
僕はホルホーンの方を向く。
「…見てて…。」
ホルホーンはこちらをじっと見ている。
「こんにちは…ホルホーンさん…。キミは……あぁ…のんびり屋さんだ。僕と同じ…。」
「モゥー…。」
「はは…こんないい天気は…眠くなるよねぇ…。」
「ブモゥ…。」
「ねぇ…もしよかったら…僕のところに…来ない…?お友達もいて…ひろぉい原っぱで…ゆっくりお昼寝できるよ…?」
ホルホーンの耳が少し動いた。
「ね…お手伝い…してくれるかな?キミのミルクを、ちょっと分けてくれるだけでいいんだよ…。」
僕はそっとホルホーンの角に手を当てる。
「モーゥ…。」
ホルホーンは角をゆっくりと何度も手に擦り付けると、足元から光に包まれていき…やがて、消えた。
「え……?消えた…?」
「…びっくりした?」
「びっくりっていうか……え?なんですか?これ?!」
「魔法…だよ…。」
「アルさん、魔法使えるんですか?!」
「僕も…知らなかった…。プロミスっていう魔法。誰にでも使えるんだって…。」
「図鑑にはそんなの書いてなかったのに…。」
「なんでだろうね…僕も、知らなかった…。想う力があれば…使えるんだって…。」
「へー!そうなんですか!わぁ…やってみたい…!」
「でも…もう少し待った方がいいかもしれないよ…?」
「え…なんでですか…?」
「もしかすると…成人にならないと扱えない理由があるのかもしれない…あと…転送先が…自分の土地持ってないだろうから…よくわかんないかも…。」
「流石ですねアルさんは。そんなこと思いもしませんでしたよ。」
「いや…勘っていうか…その…根拠は…ないけど…。」
「いえいえ!そんなそんな!絶対合ってますよぅ!私はもうちょっと我慢します!」
「うん…。あと一年…きっとすぐに追いつくよ…。」
「ありがとうございます!」
ー午後0時
「しばらく歩いたね…。」
「そうですね。」
「おなか…すかない…?」
「…すきましたね。」
「やっぱり…。」
「あ…聞こえてました…?私の…おなかの音…。」
「ん……いや…んんー…ちょっと…かな…。」
「ご…ごめんなさいっ!」
「ええっと…こっちこそ…きいちゃって…ごめん…?」
「あははっ!なんですかそれっ!こっちが鳴らしちゃったんですから私が悪いんですよぅー!」
「あー…おなか空かせるまで歩かせちゃって…?」
「気にしないでください!じゃあなんか食べましょ!そうしましょう!」
「うん…。どうしよう。」
「あ、あそこに丁度いい木がありますよ!座りましょうか!」
「あ、いいね…。」
大きな木に背を預けて二人で座った。
「あ…結構涼しいかも…。」
「ですね!」
「……。」
「……。」
ぐーっ。
「……。」
「…忘れてください…。」
「…ふふ。」
「あーもう食べます!」
シャリーヌちゃんはカバンを開けた。
「あ…あれっ?…お、おかしいですね…あれっ…?」
「…もしかして…?」
「う…うぅ…食べ物が…入ってない……です…。」
「……ふふふふ…。」
「ちょっ、ちょっとー!アルさんー!」
「ごめんね…ふふ…よかったら…僕の…一緒に食べる…?」
「え!いいんですか…?!わぁ…美味しそう…。」
「お腹空いてると…きっと美味しく食べられるよ…。」
「食べちゃっても…いいんですか?!」
「どうぞ…。」
「ありがとうございますっ!」
シャリーヌちゃんは、早速お弁当を食べ始めた。
食べ始めて……それは、止まることはなかった…。
「……はっ!!あぁっ!もうこんなしか…!あああぁ…す…すみませんん…。」
「シャリーヌちゃん…。」
「うぅ…アルさん…ごめんなざいぃ…。」
「ここ…ついてるよ…。」
「えっあっ…。」
ほっぺたについてたご飯を取ってあげた。
「ごっ…ごご…ごめんなさい…。その…ごめんなさい…。」
「大丈夫。大丈夫…。今日は、僕に付き合ってもらっちゃったし…。」
「あーー!」
「えっ?!」
「アルだー!えー?!隣の子…えー?!シャリーヌちゃんじゃんー!えー?!まさかー?!えー?!」
「……はぁ…。」
「ミカさん?!エリンティアツインズ大集合?!感激です!」
「シャリーヌちゃん…多分今はもっとめんどくさいことになってるはず…。」
「アルー!あんたー!そういうことねー!ひゅー!やるじゃないー!ひゅー!」
「ミカ…なんか今日は…一段と…。」
「んー?なになにー?」
「いや…やっぱりいいや…。」
「いやぁーまさか、アルがこぉんなにすすんでたなんてねー!」
「なんのことかわかんないんだけど…。」
「そっそうですよ!私はただ…その…先輩みたいな感じで…教えてもらってただけです!」
「ふ~ん…。むっふっふ~ん…。わかってるわかってる…。邪魔しちゃ悪いからあたしは帰るね~。ばいば~い。」
「あっ…ミカ…。違うのに…。」
「違うんですか?」
「シャリーヌちゃんまで…。」
「ふふふっ。でも今日は、楽しかったですよ?」
「それなら…僕もちょっと嬉しいよ。」
「ありがとうございます!」
ー午後2時
「じゃあ…またね。」
「はい!ありがとうございました!」
クルンルン家まで帰ってきた。
「また誘ってくださいね!私ほんとに楽しかったんですから!」
「うん…きっと誘うよ。」
「はい!」
「またね、シャリーヌちゃん…。」
「あ…あのっ!」
「ん?」
「も…もしよかったら…私のこと…シャル…って…呼んでくれませんか?」
「え、なんで…?」
「あ、あのその…よ…呼びにくくないですか?それに、家族とか、友達とか…みんなそう呼ぶんです!ほんとです!」
「…わかったよ、シャル…ちゃん。」
「あー!ちゃんもいいですよぅ!気を遣わせちゃってるみたいで申し訳ないです!」
「…シャル。」
「はい!」
「じゃあ、そう呼ばせてもらうね…。」
「えへへ、ありがとうございます!」
「うん、またね、シャル。」
「はいぃー!また遊び…じゃなかった、見学させてくださいね!」
「ふふ…またね。」
ー午後3時
「さてさて…ホルホーンちゃんは…。」
「モゥー…。」
「うん、いるね。」
ホルホーンは、のんびりと牧草を噛んでいた。
「名前をつけてあげなきゃねー…。」
「モゥ。」
「そうだなぁ…。モモちゃん…とか…?」
「モー!」
「うん…そうしよう…!」
モモちゃんが仲間になった…!
「こかっ?!」
「あ、タマ。」
「モ?」
「こけこ?」
「……。」
「……。」
「あれ…?」
「モゥモ。」
「ここここ。」
「…挨拶…?」
二匹はしばらくなんか言ってたけどいつのまにか一緒に寝ていた…。仲良くなれたかな…?
ー午後5時
「さ…ごはん…。」
ハングリーラビットにやってきた。
「あ!おい、アル!」
ビットが僕を見るなり叫んだ。まさか…?
「お前ぇー!まさか俺の妹に手を出すとはなー…!」
「な…なんのこと…?」
「とぼけるんじゃねェ!」
「待ってください。全く。頭に血が上ってますよ。」
「ト…トーマス…どういうこと…?」
「はぁ…アレですよ…。」
「でさでさ?!アルのやつぅー!」
「……ミカ…っ!」
「おいアルっ!きいてんのかっ!」
「ちょっと…じゃま…。」
「え…おい…。」
僕はミカのところにまっすぐ歩いて行った。
「あ、アルー!」
「おいアル!ほんとかよお前!」
「アルくん…ほんとなの…?」
「ミカ…。」
「まったくー!アルったらなーんも言わないくせしてやることやってんのねー!」
「逆にちょっと見直しちまったかな!」
「アルくぅ~ん…。」
「ミカッ!」
一瞬うるさかった店内が静かになった。
「勝手に盛り上がらないで…。僕はただ…ビットに引け目を感じてるシャルに仕事を見せてあげただけ…。そういうこと言われると…僕はいいけど…シャルが傷つく…。やめたげて。」
「……はい…。」
「…わ…わりィな…アル…。早とちりしちまったみたいだ…。」
店内に沈黙が続いた。
「……僕…帰る…。」
僕は店を出た。
「アルがあんな声出すの…初めてきいたかも…。」
「う…みんな…ごめんね。ちょーっと勘違いしちゃったみたい…。」
「まったくもぅ~!ミカちゃん!まったくもぅ~!びっくりしたじゃん!」
「はぁ…ったくよう!まぁまぁ気にしないことにしようぜ!それがいい!」
「そうですね…。このことはあまり覚えておくのは良くないです。」
「…だな。……ん?しかしあいつ…なんでシャリーヌのことをシャルって…?」
「え…?」
「いや、あいつのことをシャルって言うやつはあんまりいないんだけど…。」
「……アルくん…まさかほんとに…?」
「いやいやいや!もうやめようぜ!なっ?なんかこう~あったんだろ!いやいや、変な意味じゃないぜ?私だってその…あぁもうとにかくやめだ!あいつは優しいってことでいいな!」
「なんだかその結論は意味がわかりませんが…まあいいでしょう。」
「シャル…。お前まさか…?いや、まさかな…?」
「はいビットも悩まない!」
「もうほんとごめんねみんな!朝アルとそういう話したばっかだったからつい女の子といるところを見て…。」
「はい!もうおしまい!さあ帰ろ!」
「チェリッシュごめんねさっきから…。」
「あーもう謝んなって!はいはい!帰る!」
うるさかった店の中が途端に静かになった。
「まったく…あの子たちは…。青春…だねぇ。」
ー午後6時
「うぅ…。うっ…。」
なんでかわかんないけど悔しかった。
ビットの怒声。
自分勝手なミカの声。
それを信じた女の子たちの声。
僕は耐えられなかった。
我慢しちゃいけないと思った。
「なんでミカは…わかってくれなかったんだろう…。」
僕があの時ちゃんと伝えなかったから?でもすぐ行っちゃったんだもん…。
「シャルも…ビットとの距離感で悩んでた…。偉そうに言ったけど…僕だってそうだよ…。」
とんとん
扉から音がした。
「ごめん…今大丈夫?」
ミカだった。
「今は…会いたくない…。」
「……そっか…。」
「……うん…。」
鼻をすする音は極力抑えたつもりだった。
「アル…泣いてるの…?」
「……ちがうよ…ばか…。」
「ううん…泣いてる…。」
「もう…やめてよ…。」
ミカがドアを開けて僕を抱きしめた。
「ごめん…ごめんね…。」
ミカは僕よりずっとぐしゃぐしゃな顔だった。
「あ…あたし…ほんとに…ひどいこと…うぅ…しちゃったよ…。」
「ミカ…。ずるい…よ…。」
「ごめん…。でも…どう謝ったらいいのか…。わかんなぐでぁぁ…。」
「ぷふふ…ひどいかお…ぐずっ…。」
「あは…ようやぐ笑った…。」
「こっちもごめんね…ミカ…。僕、怒ったことなんてあんまりないもんね…。」
「あたしこそ…今日は調子に乗りすぎちゃった…ごめんね…。」
「いいよいいよ…。でも他の人に迷惑かけるのは…やめようね…。」
「反省します…うぅ…。」
「…ミカ、そろそろ…。」
ミカはまだ離してくれそうにない…。
「大丈夫だよ…嫌いになったりしてないから…どこにも行かないから…。」
「アル…絶対だからね…ぐすっ…。」
やっと離してくれた。
「じゃあもうおやすみね…。」
「あっ待って。」
「ん…?」
「アル…なにも食べてないでしょ…?」
「……いいよ。気にしないで。」
「…そう?ごめんね。」
「…うん。じゃあね。」
「またね!アル!」
「…うん。」
ミカはドアを閉めるまでずっとこっちを見ていた。よっぽど悪いと思ったのかな?僕ももうこういうことはやめてほしいかな。
なんだか今日は色々ありすぎて疲れちゃったよ…。お腹もすいたし…。
でも…シャルが変な誤解されなくてよかった…。モモちゃんも仲間になったし…。うん…よかった…。
明日もしっかりお世話するためにも…今日はもう…おやすみなさい…。
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