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守ってくれる人

疑心

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 訓練を続けながら日々を過ごしていると、この日常も当たり前になってくる。私が数週間前までこことは違う世界でつまらなく暮らしていたことを思うとなんだか不思議な気持ちだ。
 実際どれだけの時間がかかるかもわからない。作中では何年経っていたのか。まだ完結していないから終わらないのか?でも私が緑のエトンを持っているからそれも早まるかもしれない。予想はしてもしきれない。
 私がいる第3アカデミー以外のルートのストーリーは変わっていないのだろうか?天使たちが現実から連れてこられた人で増やされているというのならば私以外にもこうして天使になった人が物語に影響を与えているということだろう。
 そうなるとグリぐりに詳しい私でもその先を知ることはできない。イカサマだけど未来予知みたいなことができる特権は失われるのだ。
「うーん…元の世界…かぁ…」
 でも実際は少し揺らいでいた。元の世界に戻れなくてもいいんじゃないかって。だって、この世界の子たちはみんないい子で、私の全てを肯定してくれる。これまでの人生はどうか?あらゆることは否定されいつも肩身を狭めながら言いたいことも言えずにいた。そんな私が今はエトンに選ばれた資格を持つ天使。あまりにも天秤にかけるには軽すぎるのだ。
「私は…リリィ…だから…」
 それは小百合として生きてきた私が自らをも否定してしまった一言かもしれない。

「リリィ。今いいか?」
 私が教室で自問自答を繰り返していると、ダイヤに声をかけられた。
「えっと…どうしたの?」
「少し話がある。時間をもらいたい」
「うん。いいよ」
「ここに座らせてもらうぞ」
 ダイヤは私の隣の席に座り、一つ深い息を吸うと私に問いかけた。
「単刀直入にきこう。…お前は何かを隠しているな?」
「えっ…」
 心臓が跳ねそうになった。ダイヤは鋭い天使だ。私の挙動不審さを見て遂に私がこの世界の住人ではないことに気づいたのだろう。
「それは…どういう意味…?」
 しかしここで口を滑らせてはいけない。ダイヤの勘違いかもしれない。
「もちろんそのままの意味だ。…私たちは友だちだろう?ならば隠す必要はないんだ」
「友だち…」
「そうだろう?」
 そう言って私に白状を促すダイヤには、違和感を感じた。私がボロを出していたのは違いない。アミィに対しても疑念を隠さず伝えたダイヤの真っ直ぐで慎重な性格からすればそれもありえる話だ。だが…だからこそ私はこの促し方に納得がいかない。友だちだといいながらも突きつけられるその鋭い眼光からはまるでこちらを探るような気味の悪さを感じる。
「ダイヤってさ…そんなこと言うんだね」
「気を悪くさせたか…。だが私も黙ってはいられないんだ。仲間たちもそうだが、お前自身にも私は無事でいて欲しい。だからこそ話して欲しい。お願いだ」
「ダイヤ…。話す方が危険だとしたら?」
「どういうことだ?」
「そのままなんだよ。だから話せない…。話したくないんじゃないの」
「……そうか。お前はいいやつだと思ったんだがな…」
「それって…それってどういうこと?」
「……リリィ。もう訓練には来ないでくれ」
「なんで!?なんでそうなるの!?」
「私はみなを守らなければならない。そのためにはお前を信じる必要がある。だが同時にお前にも信じてもらわなければならない。話をしてくれないということは、私を信じていないということだ」
「違うって言ってるじゃない…。危険なんだって…」
「だから…何がだッ!」
「わかってよ!私だって話したい!でも話せないんだから!」
「その危険からも全部まとめて私が護ってやると言っているのがわからないか!」
「ダイヤ…!」
 感情的になった2人は気づけばぶるぶると震えながら涙ぐんでいた。第3天使アカデミーの主役である4人に事情を話してしまったら運命が変わるのは明らかだろう。だからこそ私は容易に口を割ってはいけないと思っていた。
「わかった……話すよ」
 しかし私の口から出てきてしまったのはあれほど言うまいと決めた肯定の言葉だった。
「そうか…ありがとう」
「でもここではちょっと…誰もいないところがいい」
「もちろんだ。そうだ、放課後時間を作ろう。みなが訓練している時間ならば聞かれる心配もあるまい」
「ありがとう…ダイヤ」
「……すまんな。無理強いしてしまって」
「ううん…仕方の無いことだもん。それにいつかは言わなきゃとは思ってた」
「……また、後でな」
「…うん」
 ダイヤは頼りになる。こういう他人がやりたがらない様なこともしてくれる。私が裏切り者だったならあの5人は本当に守られるんだから、この行為自体には非常に価値があるんだ。
 でも、万が一のための確認とはいえ、自分が疑われているということを突きつけられるというのは、体感してみるとこうも気が沈むものか。
「放課後までに…覚悟しなくちゃか」
 私は全て打ち明けることを覚悟し、ダイヤとの約束の時を待つのだった。
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