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第三章 魔族と令嬢
episode.28 魔族の王たる力量
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オルタナは言ってた、〝平和を望む〟と。それならば魔王の力を受け継いだ私が叶えてみせる、それは私の為でもあるから。
その為にはまず話し合いを設けるための力が必要となる、争い事となればどちらかに遺恨は残る。そうなれば、その平和は仮初めでしかなくなる。その上で、この魔獣族が味方に付いてくれれば心強いのだが。
「おい小娘ぇ、生意ってんなよ」
再びドスの利いた低い声で長老が口を開く、身にまとうその威圧感に身震いを覚えるが、ここで引いては話を聞いてくれるどころか殺されかねない。
「私は本気です、この力を受け継いだ意味を考えて自分なりに考えました」
「甘ぇんだよ」
瞬間、放たれる殺気と共に飛んで来た何かを交差した腕で受け止める。それはとてつもない衝撃でこらえきれずに吹き飛ばされ、そのまま家の壁を突き抜けて外に放り出され受け身も取れずに地面に転がる。
「壁はすまんな!」
「はっ……ごほっ、ごほごほっ」
「おいっ、改めて言うぞ小娘ぇ、生意ってんなよ」
長老は地面に突き立てた杖の上に立ちこちらを見下ろすようにして睨みつけていた、何故バランスよく杖に乗れているのかと不思議に思うがその杖で吹き飛ばされたのだと確信する。杖の頭には血が付着しており、防いだと思っていた私の腕からも血が流れていたから。
「長老っ、おやめください!」
「じゃかぁしぃっ!手ぇ出すんなら、殺すぞ」
「なん……で…っごほっ」
「何か勘違いしとらんか、魔王の力を受け継いだからといって儂ら魔族の王になれるわけ違うぞ」
「それは……」
「儂らの中から最も王に相応しき存在に魔王の力は宿る、それが偶然に受け継いだだけの小娘に務まるわけ無いじゃろうが」
「相応しき者って何ですか」
「自分の脳みそで考えんかい」
そう言いながら今度は杖に乗りながら手を合わせ何かを呟き始めていた、それが何かの魔法を放つ詠唱なのだと理解でき私は距離を取るために離れる。接近戦も考えたが、あの杖が放つ嫌な雰囲気がその選択肢を自然と消していた。
「悪手じゃぞ、それはぁ」
《黒影牙龍崩墜》
唱えられた魔法は、空気を震わせるほどの魔力を練り上げながらその姿を現し始める。あたりに広がる闇の中から蠢く大きな口が這い出るようにして飛び出し、長老の周りを泳ぐように回り始めながら血のような赤い瞳を輝かせる。それはまるで巨大な蛇のような姿をしているが、放たれる威圧感はかのドラゴンを彷彿とさせてくる。
「ドラゴンを喚び出したのですか」
「たわけ、そんな事できるかいな。これはかの〝龍〟がもたらした、災害にも似た力を再現した魔法じゃ」
「龍……」
そんな存在は聞いたことすら無い、ドラゴンとも似ているがまた違う存在なのだろうか。どちらにせよ、あれが私に向けられているのだとしたら命の危機を感じずにはいられない、さきほどからその目は決して冗談めいてるものではなく、真剣に私を殺そうとしているようにも感じられる。
このまま逃げ続けるわけには行かない以上、立ち向かうしか無い。悪手だと言われた意味が少しだけ理解できた気がする、あの瞬間は玉砕覚悟で魔法を中断させていれば、距離を空けることをしなければこの龍とやらを見ることは無かったかもしれない。
長老は左手で何かを祈るような姿勢を取りながらも、右手でこの魔法を操っているのか動かす度に辺りを泳いでいる龍がそれに合わせるようにして動き始めていた。その荘厳さに思わず見とれてしまいそうになっていると、こちらに向かって激しく腕を振り人差し指と中指で私の方を指してきた。
(来るっ)
「無駄じゃ、諦めて儂らの礎として命を捧げよ」
その巨体からは想像できないほどの速度で空気を震わせながら襲いかかってくる、初撃を何とか躱しきるも身を翻しながらもう一度襲ってくる。このままではただ消耗していくだけだと感じてはいるが、反撃の糸口が見えない。必死に体を動かし続けているが、削られるように掠り始め余計な焦りも生まれてくる。
「話をさせてくださいっ!」
「力なき理想は虚しいものじゃ、そんなものに聞く耳など儂は持たん」
これ以上は無駄だと感じ動き回って乱れていたキモノを緩めたまま帯を締め直す、これで先程より少しは動きやすくなり軽やかに躱し続けていく。だが、後ろから迫っていた尾に気づかずそのま上空に向けて跳ね飛ばされる。
「くっ……烈火トナリテ燃エ猛レ、業ノ力ヲ蒼炎ニ変エ裁キヲ与エン」
確証はなかったが、あの憤怒の力に目覚めてから以前の火炎の魔力も思い通りに使えるようになっている気がしていた。混ざりあって一つになっていたはずの二つの魔力が、再び分かれて独立したかのように。
《烈火業蒼炎》
手のひらから溢れる蒼炎は想像以上の力を持っていた。熱が指先を焼くように伝わるが、私はそれを押さえ込むことに全神経を集中させた。以前に師匠から聞いていた蒼く普通の炎より破壊力は格段に上だと聞いていた魔法、練習では中々発現できていなかったが、ここで使うべきだと私の中の何かが訴えかけていたので、それに賭けることにしたが上手くいったようで安心する。
こちらを喰らおうと地面からせり上げるように昇って来た龍と呼ばれる魔法、その巨体全てを包み込むほどの炎を放ち何とか抑え込む。蒼炎の中で黒い影の様ナものが蠢くのが見えているがそれ以上迫ってくる様子も無ければ、そこから抜け出す事もない。しばらくすると目の前にその姿は無く、焼き尽くせたのだと思いそのまま地面に降り立つ。
だが、長老の表情からはまだ終わっていないのだと感じさせられる。その証拠に先程と姿勢が何も変わっていない、変わらずに指を私の方に向けられている。背筋が痺れる様な嫌な予感を感じ、その場を飛び逃げる。と、その瞬間地面から縄の様に細く小さくなった先ほどの龍が無数に現れ始め、私の体を捉えようとしていた。
「甘いわ小娘ぇ、〝影に形無く闇に際限なく〟オルタナに教えてもらなんだかぁ?」
油断した私は躱すことが出来ずにそのまま絡みつくように向かってきた全てに、身動きが取れなくなる程に締め付けられていく。倒れまいと立ってはいるが、一度捕らえられたら最後、増え続けながらも完全に拘束サれてしまった。
向けられていた指は手のひらをこちらに向けるようにし、少しずつその手を閉じるような動作を始める。それに合わせて、締め付けがきつくなっている。
「このまま絞め殺してやろうかの」
「長老、流石に我慢なりませんっ、御免!」
「おめぇさんも黙っとれ」
セブンスが後ろから爪を立てて襲いかかろうとしていたが、地面から現れた私を捕らえてるのと同じ魔法によって拘束されてしまった。必死に振りほどこうとしているが、その抵抗も虚しく抜け出せていない。
「さぁて、最期に残す言葉はあるか?」
「小娘舐めないで頂戴……」
「はっ、それ以上何が」
怒れ、怒りを焚き付けろ。薪をくべて炎を猛らせろ、私の中に宿ったのであれば力を使わせなさい。怒りが原動力になるのであれば、いくらでも。
そうして体を包み込むほどの炎を滾らせる、少しづつではあるが体に巻き付いているものが少しずつ焼けているような音が聞こえる、その証拠に拘束も緩み始めていた。これならいけると、更に火力を上げていくが周りに被害が出ないように静かに燃やし続ける。
「はぁっ」力を込めた瞬間に、拘束は解けた。
「言ったでしょう、舐めないでと」
先ほどまで険しかった表情をしていた長老が、少しだけ解けた様に変わった気がした。それでも何かを仕掛けようとしていたので、私は地面を蹴り今度は接近戦に持ち込もうと駆け寄っていく。
が、魔力を使いすぎたのか気がつけば寸前で力が抜け落ちたかのように倒れ込んでしまっていた。
「ほっほっほっ、儂の勝ちじゃなの」
杖をつきながらこちらに寄ってき、上から覗き込むように笑いかけていた。先ほどまででは考えれない程に、優しそうな笑顔を向けながら。
「なっ、まだまだ……やれる…」
「阿呆ぬかせ、動く事もままならんじゃろ」
「ここで引いたら、私はただの弱い者に戻るだけ。この力を受け継いだ意味を証明するためにも、負けるわけにはいかない。」
ほっほっほっ、少しは骨があるようじゃな……だが、それだけでは王にはなれんぞ、小娘。」
「何をっ……」
「ほいっ、また後でな」
そう言いながら杖を振りかざし私の頭に勢いよく下ろしてきた、その衝撃で意識が飛んだのか視界が真っ暗に落ちていく。「セブンス運んでおけ」と遠くの方で聞こえたと同時に「エレナ様っ!」と焦った声も聞こえていた。
その為にはまず話し合いを設けるための力が必要となる、争い事となればどちらかに遺恨は残る。そうなれば、その平和は仮初めでしかなくなる。その上で、この魔獣族が味方に付いてくれれば心強いのだが。
「おい小娘ぇ、生意ってんなよ」
再びドスの利いた低い声で長老が口を開く、身にまとうその威圧感に身震いを覚えるが、ここで引いては話を聞いてくれるどころか殺されかねない。
「私は本気です、この力を受け継いだ意味を考えて自分なりに考えました」
「甘ぇんだよ」
瞬間、放たれる殺気と共に飛んで来た何かを交差した腕で受け止める。それはとてつもない衝撃でこらえきれずに吹き飛ばされ、そのまま家の壁を突き抜けて外に放り出され受け身も取れずに地面に転がる。
「壁はすまんな!」
「はっ……ごほっ、ごほごほっ」
「おいっ、改めて言うぞ小娘ぇ、生意ってんなよ」
長老は地面に突き立てた杖の上に立ちこちらを見下ろすようにして睨みつけていた、何故バランスよく杖に乗れているのかと不思議に思うがその杖で吹き飛ばされたのだと確信する。杖の頭には血が付着しており、防いだと思っていた私の腕からも血が流れていたから。
「長老っ、おやめください!」
「じゃかぁしぃっ!手ぇ出すんなら、殺すぞ」
「なん……で…っごほっ」
「何か勘違いしとらんか、魔王の力を受け継いだからといって儂ら魔族の王になれるわけ違うぞ」
「それは……」
「儂らの中から最も王に相応しき存在に魔王の力は宿る、それが偶然に受け継いだだけの小娘に務まるわけ無いじゃろうが」
「相応しき者って何ですか」
「自分の脳みそで考えんかい」
そう言いながら今度は杖に乗りながら手を合わせ何かを呟き始めていた、それが何かの魔法を放つ詠唱なのだと理解でき私は距離を取るために離れる。接近戦も考えたが、あの杖が放つ嫌な雰囲気がその選択肢を自然と消していた。
「悪手じゃぞ、それはぁ」
《黒影牙龍崩墜》
唱えられた魔法は、空気を震わせるほどの魔力を練り上げながらその姿を現し始める。あたりに広がる闇の中から蠢く大きな口が這い出るようにして飛び出し、長老の周りを泳ぐように回り始めながら血のような赤い瞳を輝かせる。それはまるで巨大な蛇のような姿をしているが、放たれる威圧感はかのドラゴンを彷彿とさせてくる。
「ドラゴンを喚び出したのですか」
「たわけ、そんな事できるかいな。これはかの〝龍〟がもたらした、災害にも似た力を再現した魔法じゃ」
「龍……」
そんな存在は聞いたことすら無い、ドラゴンとも似ているがまた違う存在なのだろうか。どちらにせよ、あれが私に向けられているのだとしたら命の危機を感じずにはいられない、さきほどからその目は決して冗談めいてるものではなく、真剣に私を殺そうとしているようにも感じられる。
このまま逃げ続けるわけには行かない以上、立ち向かうしか無い。悪手だと言われた意味が少しだけ理解できた気がする、あの瞬間は玉砕覚悟で魔法を中断させていれば、距離を空けることをしなければこの龍とやらを見ることは無かったかもしれない。
長老は左手で何かを祈るような姿勢を取りながらも、右手でこの魔法を操っているのか動かす度に辺りを泳いでいる龍がそれに合わせるようにして動き始めていた。その荘厳さに思わず見とれてしまいそうになっていると、こちらに向かって激しく腕を振り人差し指と中指で私の方を指してきた。
(来るっ)
「無駄じゃ、諦めて儂らの礎として命を捧げよ」
その巨体からは想像できないほどの速度で空気を震わせながら襲いかかってくる、初撃を何とか躱しきるも身を翻しながらもう一度襲ってくる。このままではただ消耗していくだけだと感じてはいるが、反撃の糸口が見えない。必死に体を動かし続けているが、削られるように掠り始め余計な焦りも生まれてくる。
「話をさせてくださいっ!」
「力なき理想は虚しいものじゃ、そんなものに聞く耳など儂は持たん」
これ以上は無駄だと感じ動き回って乱れていたキモノを緩めたまま帯を締め直す、これで先程より少しは動きやすくなり軽やかに躱し続けていく。だが、後ろから迫っていた尾に気づかずそのま上空に向けて跳ね飛ばされる。
「くっ……烈火トナリテ燃エ猛レ、業ノ力ヲ蒼炎ニ変エ裁キヲ与エン」
確証はなかったが、あの憤怒の力に目覚めてから以前の火炎の魔力も思い通りに使えるようになっている気がしていた。混ざりあって一つになっていたはずの二つの魔力が、再び分かれて独立したかのように。
《烈火業蒼炎》
手のひらから溢れる蒼炎は想像以上の力を持っていた。熱が指先を焼くように伝わるが、私はそれを押さえ込むことに全神経を集中させた。以前に師匠から聞いていた蒼く普通の炎より破壊力は格段に上だと聞いていた魔法、練習では中々発現できていなかったが、ここで使うべきだと私の中の何かが訴えかけていたので、それに賭けることにしたが上手くいったようで安心する。
こちらを喰らおうと地面からせり上げるように昇って来た龍と呼ばれる魔法、その巨体全てを包み込むほどの炎を放ち何とか抑え込む。蒼炎の中で黒い影の様ナものが蠢くのが見えているがそれ以上迫ってくる様子も無ければ、そこから抜け出す事もない。しばらくすると目の前にその姿は無く、焼き尽くせたのだと思いそのまま地面に降り立つ。
だが、長老の表情からはまだ終わっていないのだと感じさせられる。その証拠に先程と姿勢が何も変わっていない、変わらずに指を私の方に向けられている。背筋が痺れる様な嫌な予感を感じ、その場を飛び逃げる。と、その瞬間地面から縄の様に細く小さくなった先ほどの龍が無数に現れ始め、私の体を捉えようとしていた。
「甘いわ小娘ぇ、〝影に形無く闇に際限なく〟オルタナに教えてもらなんだかぁ?」
油断した私は躱すことが出来ずにそのまま絡みつくように向かってきた全てに、身動きが取れなくなる程に締め付けられていく。倒れまいと立ってはいるが、一度捕らえられたら最後、増え続けながらも完全に拘束サれてしまった。
向けられていた指は手のひらをこちらに向けるようにし、少しずつその手を閉じるような動作を始める。それに合わせて、締め付けがきつくなっている。
「このまま絞め殺してやろうかの」
「長老、流石に我慢なりませんっ、御免!」
「おめぇさんも黙っとれ」
セブンスが後ろから爪を立てて襲いかかろうとしていたが、地面から現れた私を捕らえてるのと同じ魔法によって拘束されてしまった。必死に振りほどこうとしているが、その抵抗も虚しく抜け出せていない。
「さぁて、最期に残す言葉はあるか?」
「小娘舐めないで頂戴……」
「はっ、それ以上何が」
怒れ、怒りを焚き付けろ。薪をくべて炎を猛らせろ、私の中に宿ったのであれば力を使わせなさい。怒りが原動力になるのであれば、いくらでも。
そうして体を包み込むほどの炎を滾らせる、少しづつではあるが体に巻き付いているものが少しずつ焼けているような音が聞こえる、その証拠に拘束も緩み始めていた。これならいけると、更に火力を上げていくが周りに被害が出ないように静かに燃やし続ける。
「はぁっ」力を込めた瞬間に、拘束は解けた。
「言ったでしょう、舐めないでと」
先ほどまで険しかった表情をしていた長老が、少しだけ解けた様に変わった気がした。それでも何かを仕掛けようとしていたので、私は地面を蹴り今度は接近戦に持ち込もうと駆け寄っていく。
が、魔力を使いすぎたのか気がつけば寸前で力が抜け落ちたかのように倒れ込んでしまっていた。
「ほっほっほっ、儂の勝ちじゃなの」
杖をつきながらこちらに寄ってき、上から覗き込むように笑いかけていた。先ほどまででは考えれない程に、優しそうな笑顔を向けながら。
「なっ、まだまだ……やれる…」
「阿呆ぬかせ、動く事もままならんじゃろ」
「ここで引いたら、私はただの弱い者に戻るだけ。この力を受け継いだ意味を証明するためにも、負けるわけにはいかない。」
ほっほっほっ、少しは骨があるようじゃな……だが、それだけでは王にはなれんぞ、小娘。」
「何をっ……」
「ほいっ、また後でな」
そう言いながら杖を振りかざし私の頭に勢いよく下ろしてきた、その衝撃で意識が飛んだのか視界が真っ暗に落ちていく。「セブンス運んでおけ」と遠くの方で聞こえたと同時に「エレナ様っ!」と焦った声も聞こえていた。
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