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第一章 灰姫と魔王
episode.07 虚像と仮面
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リュシアン様と軽い雑談を交わした後、お父様と話すことがあると言い私の部屋を後にした。
部屋を出ていった後も幸せの余韻に身を寄せている、それでも油断は許されないのでしょう、婚約者とはいえこの国の王妃になる為には様々な教育をこなしていかなければならなく、今の私に足りない事は何なのか、必要とされてる事は何なのかと分かっていない事も多すぎる。
リュシアン様はこれから王妃教育としての予定は組んでいくと仰っていた、私は今の状況に甘んずる事なく一生懸命にやり遂げよう。
そう考えてしばらくした頃、ふいに部屋の扉が開かれたのに気がついた。リュシアン様が戻ってきたともお父様が入ってきたとも思えない、ノックもせずに一体誰が。
「こんにちは、お異母姉様」
「ソフィア……」
大人しくしているかと思えば未だかつてこの部屋に近づいた事すら無いソフィアが、私の部屋の扉を開け中に入ってきていた。その目はどこか狂気を感じさせるような雰囲気を帯び、気の間違いでなければ昨日から服装も変わっていないようにも思える。
「何、私が来ると不味いわけですか?」
「いえ、貴女がここに来ることなんて「来ちゃ駄目なんですか!?」
突然ソフィアが声を荒げた、その様子から正常でない事は容易に伝わってきた。ただ何をしでかすか分からない、この屋敷にはまだリュシアン様もいらっしゃるはず。
このまま事を荒立ててはいけないと思い、私は冷静にやり過ごすために話を続ける。
「落ち着いて、先ずは座って話を」
その瞬間、手に持っていた扇子を私に向かって投げつけてきた。体に当たりはしたがそこまで痛みはない。
「偉くなったものねエレナ。何ですか、この国の王太子殿下に婚約者として選ばれたら、偉くなるんですか!?下等な私なんかは相手にしないと、そう言いたいんですかぁっ!?」
「落ち着いてソフィア、そんな事一言も「煩い、うるさい、五月蝿い、ウルサァァァイッ!!」
頭を抱えながら甲高い声で叫び始めた、私は身の危険を感じ手のひらを突き出し魔法の準備をする。
「何でエレナなの……何で私じゃないの、あれだけ何度もお話したじゃない、この屋敷に何度も足を運んで楽しく愛し合ったじゃない。あんな灰かぶりとは一度も言葉を交わさなかったじゃない……」
「それは私が決める事ではありません、リュシアン様が選んで頂いたからこそです」
「リュシアン様ぁ??馴れ馴れしく人の男の名前を呼んでんじゃないわよ!!灰かぶりがぁぁっ!!」
そう叫びながら胸元から短剣を取り出しこちらに向かって襲いかかってきた。振りかざされる短剣は拙いもので、子供が刃物を振り回すように単純なもので躱すのも容易い。
何度か声を掛けるが反応は無い、近づいて気がついたがソフィアの瞳は私を見ていなく生気が宿っていないように思える。このままではお互いに危険だと感じた私は魔法を唱える。
《フレアボム》
その瞬間、ソフィアの下へと放たれた炎の玉は着弾とともに爆音を響かせながら激しく爆ぜる。その衝撃で後方へと吹き飛ばされ部屋の外の廊下で横たわっていた。
扉はその衝撃で吹き飛ばされ周囲は少し焦げていた、威力はかなり抑えたので牽制のつもりだったが、当たりどころが悪かったのか気を失っているようにも思える。気になった私は側まで近づいていきソフィアに声を掛けるが反応がなく、やはり私の魔法で気を失ってしまったようだ。
うわ言で何かをブツブツと呟いているので死んでは無いことを確認して安堵する。
「もう、お異母姉様とも呼んでくれなくなったのね」
思いがけなくも漏れ出した言葉に、少なからず異母妹としての愛着はあったのだと自分でも驚いた。それよりもソフィアを介抱しようと人を呼びに行かなくては、走り出そうとすると廊下の先から視線を感じ、反射的にその方向に顔を向ける。
その先にいたのはお継母様だった。
「エレナ、何をしているのかしら?」
不気味なほど冷静にも感じてしまったその言葉に少し恐怖を感じてしまった、この状況を見て戸惑うこともなければ糾弾する訳でもなく、ただただ冷静にこの状況の確認を求めてきた。今までならこれを理由に、何かしらを要求するか愛する娘の元へと駆け寄るはずだが。
「お継母様、ご説明させていただきますと取り敢えずは気を失っているだけなのでご安心下さい」
「………」
「えぇっと、信じれないかもしれませんがソフィアが半狂乱状態で私の部屋に入ってきたので、自衛のためとはいえこのような事になりました」
「そう……」
「取り急ぎ医師と動ける者を呼んでまいります」
「その必要はありませんよ」
「は、はい?」
その視線には一切の母親らしい温かさが感じられなかった、まるで狙いを定めた獣のように恐ろしいほど冷淡な反応で、私には理解が出来なくその言葉を聞き返す。
ソフィアが私の部屋に来たのもお継母様の差し金だったのではと疑いたくなる程に。
「その必要はありませんと言いました」
「それは一体どういう……」
その言葉の意味は教えてもらえずとも理解できてしまった、お継母様の後ろからはお父様とリュシアン様、そして屋敷の者が数名こちらに向かって走ってきていた。
状況を確認したお父様は周囲の者に命令を下し、ソフィアを介抱させていた。
「お父様、リュシアン様……これは、私は」
「お黙りっ!この灰かぶりが…私の娘に何てことをしてくれたのですか!!婚約者としてあるべき姿を問うと、部屋を出たので気になって来てみればこれですか!?」
「違います、私はっ!」
「自身が納得するためだと、諦めをつかせる為にお異母姉様と話をしてくると言っていたソフィアになんという仕打ちをっ!!」
「だから先ほど説明を…「自分のことを棚に上げて、どうせ痛いところを突かれた腹いせに今までの恨みも含めてやり返した気になっているのですか!?」
駄目だ、私が何を言おうがお継母様が遮ってくる、先ほどまでと違って全ての責任を私に塗りつけるつもりらしい。その証拠に集まった屋敷の者達はソフィアに憐れみを、私には無情な眼差しを向けてくる。いつもの慣れた視線ではあるがいつもと違うのは、この場所にお父様とリュシアン様がいらっしゃるという事。
この状況を利用してやろうという懇談が私には目で見て取れるが、それを反論させてくれる余地を残してはくれない。
そうして俯き始めていた私の顔を持ち上げてくれたのはリュシアン様だった、彼はただ真っすぐに私を見つめ、その瞳には疑いではなく信頼と深い優しさが宿っていた。
「大丈夫かい、さっきの話は本当?」
その言葉に涙が溢れそうになる、今まで一人で耐えてきたがこのように優しい言葉を向けられると一気にすがりたくなってしまう。それではいけないと、涙を堪えて力強く目線を上げる。
「いえ、私は自衛のためにやりました」
「自衛?」
「半狂乱のまま自室に入ってきたソフィアから身を守るためにです」
「そうか……」
震えそうになる声を必死に抑える、堪えていた涙が溢れそうになる。それでも今だけはこの人の前だけは気高く力強くありたい、そう思わせてくれる気持ちだけが私を支えていた。
「との事だが、オーエンス伯爵、夫人。どうする?」
「王太子殿下、ここは私に預からせてもらえないでしょうか」
お父様も同じくしてお継母様に同調することは無かった、何を考えているかは分からないがリュシアン様がいる手前下手な事は出来ないのだろう。
「夫人はどうする?」
「そ、そんなの嘘に決まっているわ!デタラメよ!」
お継母様が声を上げた瞬間、ほんの僅かではあるが空気が少しだけ震えた気がした。その迫力に気圧されただけなのかと感じたが、何か違和感が拭えない。
でも今は気にしている場合じゃない、呑まれてしまえばたちまち私の置かれている状況は悪くなる。
「夫人、そうは言うが当人が気を失っ……うっ、」
突然リュシアン様が頭を押さえ、めまいを覚えたかのようにふらつき始めた。私はとっさに腕を伸ばし体ごと支える。
「リュシアン様っ、大丈夫ですか!?」
「ごめん、大丈夫。ちょっと疲れが出てたかな?」
その表情は確かに疲れているようにも思える、先ほどまでお父様と話し込んでいたと思うがそれほどの内容だったのだろうか。
「ルーゼン、それ以上はやめろ。王太子殿下の御前であるぞ、この場は私が預かる……いいな?」
「ちっ、納得いきませんが仕方ありません。皆さん、早く私の可愛いソフィアを部屋に運んで下さい!」
その声と共に背を向けながら廊下を歩き出した、数人の者がソフィアを抱きかかえてお継母様の後を追いかけていった。
「王太子殿下、大丈夫ですか?」
「あぁすまない……もう大丈夫だ」
「あまりご無理をなさらないよう」
「大丈夫だ…大丈夫だから」
そう言いながら私の腕から離れて一人で立った、先ほどと同じく表情には疲れが見えるがこれ以上私から何か言う事は出来ない。
「リュシアン様、お疲れの所申し訳ございません。このような身内のいざこざに巻き込んでしまい」
「構わないよ、私の婚約者の為だ。この身はいくらでも犠牲にしてやるさ」
「そんな事言わないで下さい。私に削るぐらいなら、民のためにその身を賭して下さい」
「ははっ、これは厳しいな。好きな人の前では格好をつけたいだけなのだが」
「それを支えるのが私の役目です」
「頼もしいな」
「いえ、まだまだ足りないものが多くこれからリュシアン様を支えるだけの力をつけたく存じます」
「頼りにしている「おぉっほんっ」
二人で話しているとお父様が、わざとらしい咳払いをして間に入ってきた。リュシアン様は苦笑いを浮かべながらお父様を睨みつけていた。
「王太子殿下、お帰りの時間かと。私がお見送りいたしましょう」
「……不敬であるぞ」
「我が忠心は国王に捧げています故」
「ははっ、言うではないか」
そう言いながら二人は廊下を歩いていった、私もお見送りをと伝えたが先程の事があるので部屋で休みなさいと、同時に強く言われてしまった。さすがに言い返せなかったたので大人しく自室に戻る事にした。
静かになった部屋の中では冷静に頭の中が整理できる。突然とはいえソフィアがあんな行動に出るとは思いもしなかった、それを上手く利用しようとしたお母様の目論見はソフィアを婚約者に据える事でしょう。
だが、それは図らずもお父様とリュシアン様によって阻まれてしまった。それでも中途半端な状態である事に変わりはないので、まだまだ油断ならない。
それに加えて思い出したことが一つある、あの夜会の日にお母様が呟いていた「こんなはずじゃ、ここまでは聞いていない」この言葉が先程のやり取りで浮かんできたのだ、関係ないとは思いたいが何か繋がりが。
いえ、これ以上考えようにも材料がなさすぎる。このまま何事もなく、平和になれることを願うしかない。
部屋を出ていった後も幸せの余韻に身を寄せている、それでも油断は許されないのでしょう、婚約者とはいえこの国の王妃になる為には様々な教育をこなしていかなければならなく、今の私に足りない事は何なのか、必要とされてる事は何なのかと分かっていない事も多すぎる。
リュシアン様はこれから王妃教育としての予定は組んでいくと仰っていた、私は今の状況に甘んずる事なく一生懸命にやり遂げよう。
そう考えてしばらくした頃、ふいに部屋の扉が開かれたのに気がついた。リュシアン様が戻ってきたともお父様が入ってきたとも思えない、ノックもせずに一体誰が。
「こんにちは、お異母姉様」
「ソフィア……」
大人しくしているかと思えば未だかつてこの部屋に近づいた事すら無いソフィアが、私の部屋の扉を開け中に入ってきていた。その目はどこか狂気を感じさせるような雰囲気を帯び、気の間違いでなければ昨日から服装も変わっていないようにも思える。
「何、私が来ると不味いわけですか?」
「いえ、貴女がここに来ることなんて「来ちゃ駄目なんですか!?」
突然ソフィアが声を荒げた、その様子から正常でない事は容易に伝わってきた。ただ何をしでかすか分からない、この屋敷にはまだリュシアン様もいらっしゃるはず。
このまま事を荒立ててはいけないと思い、私は冷静にやり過ごすために話を続ける。
「落ち着いて、先ずは座って話を」
その瞬間、手に持っていた扇子を私に向かって投げつけてきた。体に当たりはしたがそこまで痛みはない。
「偉くなったものねエレナ。何ですか、この国の王太子殿下に婚約者として選ばれたら、偉くなるんですか!?下等な私なんかは相手にしないと、そう言いたいんですかぁっ!?」
「落ち着いてソフィア、そんな事一言も「煩い、うるさい、五月蝿い、ウルサァァァイッ!!」
頭を抱えながら甲高い声で叫び始めた、私は身の危険を感じ手のひらを突き出し魔法の準備をする。
「何でエレナなの……何で私じゃないの、あれだけ何度もお話したじゃない、この屋敷に何度も足を運んで楽しく愛し合ったじゃない。あんな灰かぶりとは一度も言葉を交わさなかったじゃない……」
「それは私が決める事ではありません、リュシアン様が選んで頂いたからこそです」
「リュシアン様ぁ??馴れ馴れしく人の男の名前を呼んでんじゃないわよ!!灰かぶりがぁぁっ!!」
そう叫びながら胸元から短剣を取り出しこちらに向かって襲いかかってきた。振りかざされる短剣は拙いもので、子供が刃物を振り回すように単純なもので躱すのも容易い。
何度か声を掛けるが反応は無い、近づいて気がついたがソフィアの瞳は私を見ていなく生気が宿っていないように思える。このままではお互いに危険だと感じた私は魔法を唱える。
《フレアボム》
その瞬間、ソフィアの下へと放たれた炎の玉は着弾とともに爆音を響かせながら激しく爆ぜる。その衝撃で後方へと吹き飛ばされ部屋の外の廊下で横たわっていた。
扉はその衝撃で吹き飛ばされ周囲は少し焦げていた、威力はかなり抑えたので牽制のつもりだったが、当たりどころが悪かったのか気を失っているようにも思える。気になった私は側まで近づいていきソフィアに声を掛けるが反応がなく、やはり私の魔法で気を失ってしまったようだ。
うわ言で何かをブツブツと呟いているので死んでは無いことを確認して安堵する。
「もう、お異母姉様とも呼んでくれなくなったのね」
思いがけなくも漏れ出した言葉に、少なからず異母妹としての愛着はあったのだと自分でも驚いた。それよりもソフィアを介抱しようと人を呼びに行かなくては、走り出そうとすると廊下の先から視線を感じ、反射的にその方向に顔を向ける。
その先にいたのはお継母様だった。
「エレナ、何をしているのかしら?」
不気味なほど冷静にも感じてしまったその言葉に少し恐怖を感じてしまった、この状況を見て戸惑うこともなければ糾弾する訳でもなく、ただただ冷静にこの状況の確認を求めてきた。今までならこれを理由に、何かしらを要求するか愛する娘の元へと駆け寄るはずだが。
「お継母様、ご説明させていただきますと取り敢えずは気を失っているだけなのでご安心下さい」
「………」
「えぇっと、信じれないかもしれませんがソフィアが半狂乱状態で私の部屋に入ってきたので、自衛のためとはいえこのような事になりました」
「そう……」
「取り急ぎ医師と動ける者を呼んでまいります」
「その必要はありませんよ」
「は、はい?」
その視線には一切の母親らしい温かさが感じられなかった、まるで狙いを定めた獣のように恐ろしいほど冷淡な反応で、私には理解が出来なくその言葉を聞き返す。
ソフィアが私の部屋に来たのもお継母様の差し金だったのではと疑いたくなる程に。
「その必要はありませんと言いました」
「それは一体どういう……」
その言葉の意味は教えてもらえずとも理解できてしまった、お継母様の後ろからはお父様とリュシアン様、そして屋敷の者が数名こちらに向かって走ってきていた。
状況を確認したお父様は周囲の者に命令を下し、ソフィアを介抱させていた。
「お父様、リュシアン様……これは、私は」
「お黙りっ!この灰かぶりが…私の娘に何てことをしてくれたのですか!!婚約者としてあるべき姿を問うと、部屋を出たので気になって来てみればこれですか!?」
「違います、私はっ!」
「自身が納得するためだと、諦めをつかせる為にお異母姉様と話をしてくると言っていたソフィアになんという仕打ちをっ!!」
「だから先ほど説明を…「自分のことを棚に上げて、どうせ痛いところを突かれた腹いせに今までの恨みも含めてやり返した気になっているのですか!?」
駄目だ、私が何を言おうがお継母様が遮ってくる、先ほどまでと違って全ての責任を私に塗りつけるつもりらしい。その証拠に集まった屋敷の者達はソフィアに憐れみを、私には無情な眼差しを向けてくる。いつもの慣れた視線ではあるがいつもと違うのは、この場所にお父様とリュシアン様がいらっしゃるという事。
この状況を利用してやろうという懇談が私には目で見て取れるが、それを反論させてくれる余地を残してはくれない。
そうして俯き始めていた私の顔を持ち上げてくれたのはリュシアン様だった、彼はただ真っすぐに私を見つめ、その瞳には疑いではなく信頼と深い優しさが宿っていた。
「大丈夫かい、さっきの話は本当?」
その言葉に涙が溢れそうになる、今まで一人で耐えてきたがこのように優しい言葉を向けられると一気にすがりたくなってしまう。それではいけないと、涙を堪えて力強く目線を上げる。
「いえ、私は自衛のためにやりました」
「自衛?」
「半狂乱のまま自室に入ってきたソフィアから身を守るためにです」
「そうか……」
震えそうになる声を必死に抑える、堪えていた涙が溢れそうになる。それでも今だけはこの人の前だけは気高く力強くありたい、そう思わせてくれる気持ちだけが私を支えていた。
「との事だが、オーエンス伯爵、夫人。どうする?」
「王太子殿下、ここは私に預からせてもらえないでしょうか」
お父様も同じくしてお継母様に同調することは無かった、何を考えているかは分からないがリュシアン様がいる手前下手な事は出来ないのだろう。
「夫人はどうする?」
「そ、そんなの嘘に決まっているわ!デタラメよ!」
お継母様が声を上げた瞬間、ほんの僅かではあるが空気が少しだけ震えた気がした。その迫力に気圧されただけなのかと感じたが、何か違和感が拭えない。
でも今は気にしている場合じゃない、呑まれてしまえばたちまち私の置かれている状況は悪くなる。
「夫人、そうは言うが当人が気を失っ……うっ、」
突然リュシアン様が頭を押さえ、めまいを覚えたかのようにふらつき始めた。私はとっさに腕を伸ばし体ごと支える。
「リュシアン様っ、大丈夫ですか!?」
「ごめん、大丈夫。ちょっと疲れが出てたかな?」
その表情は確かに疲れているようにも思える、先ほどまでお父様と話し込んでいたと思うがそれほどの内容だったのだろうか。
「ルーゼン、それ以上はやめろ。王太子殿下の御前であるぞ、この場は私が預かる……いいな?」
「ちっ、納得いきませんが仕方ありません。皆さん、早く私の可愛いソフィアを部屋に運んで下さい!」
その声と共に背を向けながら廊下を歩き出した、数人の者がソフィアを抱きかかえてお継母様の後を追いかけていった。
「王太子殿下、大丈夫ですか?」
「あぁすまない……もう大丈夫だ」
「あまりご無理をなさらないよう」
「大丈夫だ…大丈夫だから」
そう言いながら私の腕から離れて一人で立った、先ほどと同じく表情には疲れが見えるがこれ以上私から何か言う事は出来ない。
「リュシアン様、お疲れの所申し訳ございません。このような身内のいざこざに巻き込んでしまい」
「構わないよ、私の婚約者の為だ。この身はいくらでも犠牲にしてやるさ」
「そんな事言わないで下さい。私に削るぐらいなら、民のためにその身を賭して下さい」
「ははっ、これは厳しいな。好きな人の前では格好をつけたいだけなのだが」
「それを支えるのが私の役目です」
「頼もしいな」
「いえ、まだまだ足りないものが多くこれからリュシアン様を支えるだけの力をつけたく存じます」
「頼りにしている「おぉっほんっ」
二人で話しているとお父様が、わざとらしい咳払いをして間に入ってきた。リュシアン様は苦笑いを浮かべながらお父様を睨みつけていた。
「王太子殿下、お帰りの時間かと。私がお見送りいたしましょう」
「……不敬であるぞ」
「我が忠心は国王に捧げています故」
「ははっ、言うではないか」
そう言いながら二人は廊下を歩いていった、私もお見送りをと伝えたが先程の事があるので部屋で休みなさいと、同時に強く言われてしまった。さすがに言い返せなかったたので大人しく自室に戻る事にした。
静かになった部屋の中では冷静に頭の中が整理できる。突然とはいえソフィアがあんな行動に出るとは思いもしなかった、それを上手く利用しようとしたお母様の目論見はソフィアを婚約者に据える事でしょう。
だが、それは図らずもお父様とリュシアン様によって阻まれてしまった。それでも中途半端な状態である事に変わりはないので、まだまだ油断ならない。
それに加えて思い出したことが一つある、あの夜会の日にお母様が呟いていた「こんなはずじゃ、ここまでは聞いていない」この言葉が先程のやり取りで浮かんできたのだ、関係ないとは思いたいが何か繋がりが。
いえ、これ以上考えようにも材料がなさすぎる。このまま何事もなく、平和になれることを願うしかない。
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