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第一章 灰姫と魔王
episode.01 目覚めと過去
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「あはははは……あーっははははははっ!!!」
生きとして生きる者を容赦なく飲み込む漆黒の暗闇、この静寂な森の中で私は高らかな産声を上げた。私は今日、この世界で生まれ変わる。そう実感してからか、体を撫でる風が心地良よく周囲が光り輝いている様に感じ、全身を巡る血流や高鳴る鼓動でさえ生まれ変わったと思える。
それに、辺りを漂う死臭が不覚にも生きていることを実感させていた。そうして抑えつける事の出来ない感情を解き放つ。
「お継母様も、異母妹も、全員この世界から居なくなってしまえばいい!あいつらを取り巻く人間は皆、死ねばいいっ!苦しんで、追い込まれて、絶望するがいい!!」
声を荒げ、抑えていた本音を吐き出した。私は今までずっと我慢してきた、我慢して我慢して我慢して、いい娘であろうと良き婚約者であろうと、全てを捨ててでも我慢して耐え続けてきた。もうこれから私を縛るものはない、私は自由だ。生まれて初めての自由だ。
「ふふっ、エレナじゃったか?余程の事があったようじゃのぉ」
この森の中には私以外にもう一人だけいる、妖艶な声をかけてきた彼女な声が私の耳を撫でる、不思議な雰囲気を纏いながらもどこか懐かしさも覚えていた。そんな彼女が私に興味を向けるように訪ねてきた。溜まっていたものを全て吐き出し、かけられたその声で少しだけ冷静さを取り戻す。
「ありがとう、【魔王オルタナ】。そうね……長いようで短いような、そんな日々だったわ」
「その、唯一抱きかかえておる人は…」
多数の死体が周囲に転がる中、私は一人の男性を抱きかかえていた。自然と零れ落ちる涙が頬を伝い、抱きかかえている男性の目元に落ちていく。
「さようなら……お父様」
「それがお前の父親かの?」
「えぇ。でもね、父親らしい事は何一つしてくれなかったわ」
「父親として何もしとらんのか?」
「えぇ、文句の一つでも言いたくなるほどね」
それでも唯一無二の父親と呼べる存在。にも関わらず私に対しては父親らしい事は生まれてこの方何もしてもらえなかった、怒りとは別に激しい悲壮感を覚えた事も多々あった。ずっと助けて欲しかったのに、本当に傍にいて欲しい時に傍にいてくれない、この瞬間だってそう。「大丈夫だ」ただその一言を言って、ただ抱きしめてくれたらいいのにそんな事もしてくれない。
「静かな夜は長い故、妾と少し話さんか?」
「えぇ、そうね」
そう言われ、私はお父様の体を抱き上げながらさらに深く暗い森の中へと歩いていく。オルタナが落ち着ける場所に案内してくれると言うので、言われるがままについて行き、案内されたのは森の中にぽつかりと穴が空いたように広がる空間だった。
その中心に一軒の小屋が建てられておりその傍にあったベンチに二人で腰掛ける。先程までの喧騒が嘘みたいに感じる静かな場所だ、本来ならば恐怖すら覚えてしまいそうな暗い森の中だというのにこの場所だけは安らぎを感じさせてくれた、外界と断絶させてくれるような雰囲気がそう感じさせてくれるのだろうか。
「ここなら落ち着くじゃろうし、誰も来んよ」
「そう、失礼するわね」
ベンチのそばにお父様を寝かし、オルタナに今までの事を話す。あの日、この国の王太子殿下から婚約を言い渡されてから今日を迎える日までの最低最悪な話を。
ーーあの日、この国の王太子殿下から婚約の申し出を受ける少し前から思い返す。
「おはようございます、お継母様」
私の一日はお継母様への挨拶で始まる、返されたことは今までに一度もないが挨拶をしなければ後からどんな仕打ちを受けるか、一度この身で体感すればそんな事を考えなくなる。そんないつもと変わらない一日の始まりに朝食をいただく事にする。
「お母様っ!おはようございます」
そう言いながら扉から入ってきたのは異母妹の【ソフィア・オーエンス】。といってもこの中で血が繋がっていないのは私だけだ、その証拠に二人は黄金色に輝く髪をなびかせて、ガラス玉のような美しいサファイア色の瞳を輝かせる、対する私は似ても似つかない灰色の髪色と、どす黒い血のようで不気味だと言われたルビー色の瞳だ。
一方で私はこの容姿も相まって周囲からは"灰かぶり姫"などと揶揄されている。
「あら、お異母姉様もいらっしゃったのね」
「おはようございます、ソフィア」
「ふんっ、朝からやめてよ気分が滅入るわ」
「も、申し訳ございません」
「こっちまで灰がかぶりそうで本当に嫌な気分」
そう言いながら口元を扇子で隠している、その奥は私の事を嘲笑っているのだろう。隣にいたお継母様も私を擁護する事はない、それどころか同じように口元を隠しこちらを睨みつけてくる。
その視線は怨嗟にも似たもので、あの目で見られるたびに全身が強張ってくる。私は目線を合わせないようにして出された朝食の方へと目を向けられれる、ありがたい事に食事などは同じものを出されている、これはお父様の影響のおかげだろう。二人もそれを分かった上で嫌味を言ったり軽く暴力を加えてくるだけに留めている。
だとしてもこの家に私の味方はいない唯一血の繋がっているお父様はこの国で重要な要を任せられている役職のため、遠方に行ったっきりになる事が多くこの家に帰って来る事はほとんど無い。それでもこの頃はまだ幸せな日々だったと思う、十分なほどに衣食住を与えてられて周囲の人間も過干渉する事もなく自分の時間も沢山もてていたのだから。
あの日を迎えるまでは。
この日、数カ月ぶりにお父様がご帰宅なされると知らせが入ったので、私は溢れ出る嬉しい気持ちを抑えながらも到着時刻前にお出迎えする為、屋敷の外でお父様をお待ちする事にした。そうして外に出たところで後ろから声をかけられた、今は聞きたくない声に。
「あらお異母姉様、こんなところで何を?」
「お父様のお出迎えです」
「ふーん、殊勝な事ね。そんなに我が身が可愛いのかしら?」
「どういう意味でしょうか?」
「あら、言わないと分からないのかしら?お姉様がこの家で暮らせているのもお父様のおかけでしょう、その為の点数稼ぎに必死になっているのかと」
「娘がお父様をお迎えするのに理由などいりまして?」
私は少しムッとした表情を浮かべながらも、ソフィアの方へと向き直る。この顔が面白くなかったのか、目元が少しだけつり上がり、続く言葉に少し感情がこもっていた。
「生意気なお異母姉様、どうせお継父様はすぐに遠くに行ってしまいますわ、いい加減この家の在り方と言うものを教えて差し上げないとですね」
「あら、ソフィアが教えてくださるのですか?それは楽しみにしております」
昔からそう、ソフィアは守りたくなるような小動物的可愛らしい言動を繰り返し、その見た目と相まって自身の武器というものを理解している。その武器を上手く使い、周囲に味方を作りながら自身の望む結果に運ぶのが上手い。そのせいか、私の周囲ではよく物がなくなったり壊されたりする事が多く、よっぽど私の事が邪魔で嫌いなんだと伺える。
その異母姉が率先してお父様のお出迎えをしようとしているのだから、ソフィアからすれば面白くないのだろう。
「名前気な口を利きますね、お継父様が帰って来るとなれば強気にもなるのですか」
「いえ、ただ…勉学や舞踊、魔学などをあれだけサボり続けているソフィアから教わる事などあるのかと」
お父様をお出迎えする事があたかも計算で、打算的に動いていると言われた事に対して自分で思っているより苛ついていたのだろうか、少々言葉に棘がでた。
「そんな…私はお異母姉様の為にって…」
突然ソフィアが泣き崩れるような動きを始めた、いつも悲劇を演じれば何でも解決すると思っている節があり、それを私に見せられたところで何も感じないと分かっているはずなのに。
そんな事を思いながら何をしているのかと呆然としていたら、屋敷の門が開かれた音がする、振り返った先には待ち望んだお父様が帰ってこられていた。私はソフィアを置いてお父様の元へと駆け寄り声をかける。
「お父様、お帰りなさいませ」
本当はこのまま飛びついて抱きしめたい、昨日こんな事があったよって、お父様がいない間にこんな事ができるようになったよって少女のように話しかけたい。でも、今までそんな事をしたところで関心を寄せられることは無かった、あるのは業務的なやり取りだけ。本当に自分の父親なのかと疑ってしまうほどに。
「ただいま戻った……が、何をしている?」
冷たい声と冷たい視線が突き刺さる、私がその言葉の意味を理解するのに時間はかからなかった。
「お父様、お帰りなさい!」
ソフィアが勢いよくお父様の元へと駆け寄り抱きついた、先程までうずくまっていたのが嘘のように甘え声を出しながら私が我慢していることを躊躇なく。
「聞いてお父様、お姉様が私の事をいじめるのよ?」
「本当か?エレナ」
「いえ、そのような事は」
本当の事を言っているのにいつも私が嘘をついているように思われる、お父様だって何を言われるか。
「そうか、ならいい」
「えっ、お父様っ!?」
そう言い残しお父様は足早に屋敷の奥へと歩いていった、甲高い声を出しながら不満たらたらなソフィアを連れながら。思いがけない言葉ではあったが、残された私は大きなため息を吐き安堵する、こうして無事にお父様が戻ってきたくれたことが何よりだから。
「エレナお嬢様、只今戻りました」
「あらセブンス、お帰りなさい」
後ろから声をかけてきたのはお父様の秘書であり執事でもあもある【セブンス・レーン】。先代、私からすればお祖父様から長年仕えている最も信頼のおける人物らしく、私にとっても分け隔てなく接してくれる数少ない人物でもある。
「この後、旦那様より大事な話があるかと思いますので大部屋にお集まり頂ければと」
「分かったわ、ありがとう」
セブンスから知らされてなければ気づかないで部屋にこもっていたでしょう、と悲しくも思いながら大部屋に向う。お父様は去り際にそんな事一言も言わなかったし、この家にいる人間は私に益のある話を持ってくることはないのだから。
生きとして生きる者を容赦なく飲み込む漆黒の暗闇、この静寂な森の中で私は高らかな産声を上げた。私は今日、この世界で生まれ変わる。そう実感してからか、体を撫でる風が心地良よく周囲が光り輝いている様に感じ、全身を巡る血流や高鳴る鼓動でさえ生まれ変わったと思える。
それに、辺りを漂う死臭が不覚にも生きていることを実感させていた。そうして抑えつける事の出来ない感情を解き放つ。
「お継母様も、異母妹も、全員この世界から居なくなってしまえばいい!あいつらを取り巻く人間は皆、死ねばいいっ!苦しんで、追い込まれて、絶望するがいい!!」
声を荒げ、抑えていた本音を吐き出した。私は今までずっと我慢してきた、我慢して我慢して我慢して、いい娘であろうと良き婚約者であろうと、全てを捨ててでも我慢して耐え続けてきた。もうこれから私を縛るものはない、私は自由だ。生まれて初めての自由だ。
「ふふっ、エレナじゃったか?余程の事があったようじゃのぉ」
この森の中には私以外にもう一人だけいる、妖艶な声をかけてきた彼女な声が私の耳を撫でる、不思議な雰囲気を纏いながらもどこか懐かしさも覚えていた。そんな彼女が私に興味を向けるように訪ねてきた。溜まっていたものを全て吐き出し、かけられたその声で少しだけ冷静さを取り戻す。
「ありがとう、【魔王オルタナ】。そうね……長いようで短いような、そんな日々だったわ」
「その、唯一抱きかかえておる人は…」
多数の死体が周囲に転がる中、私は一人の男性を抱きかかえていた。自然と零れ落ちる涙が頬を伝い、抱きかかえている男性の目元に落ちていく。
「さようなら……お父様」
「それがお前の父親かの?」
「えぇ。でもね、父親らしい事は何一つしてくれなかったわ」
「父親として何もしとらんのか?」
「えぇ、文句の一つでも言いたくなるほどね」
それでも唯一無二の父親と呼べる存在。にも関わらず私に対しては父親らしい事は生まれてこの方何もしてもらえなかった、怒りとは別に激しい悲壮感を覚えた事も多々あった。ずっと助けて欲しかったのに、本当に傍にいて欲しい時に傍にいてくれない、この瞬間だってそう。「大丈夫だ」ただその一言を言って、ただ抱きしめてくれたらいいのにそんな事もしてくれない。
「静かな夜は長い故、妾と少し話さんか?」
「えぇ、そうね」
そう言われ、私はお父様の体を抱き上げながらさらに深く暗い森の中へと歩いていく。オルタナが落ち着ける場所に案内してくれると言うので、言われるがままについて行き、案内されたのは森の中にぽつかりと穴が空いたように広がる空間だった。
その中心に一軒の小屋が建てられておりその傍にあったベンチに二人で腰掛ける。先程までの喧騒が嘘みたいに感じる静かな場所だ、本来ならば恐怖すら覚えてしまいそうな暗い森の中だというのにこの場所だけは安らぎを感じさせてくれた、外界と断絶させてくれるような雰囲気がそう感じさせてくれるのだろうか。
「ここなら落ち着くじゃろうし、誰も来んよ」
「そう、失礼するわね」
ベンチのそばにお父様を寝かし、オルタナに今までの事を話す。あの日、この国の王太子殿下から婚約を言い渡されてから今日を迎える日までの最低最悪な話を。
ーーあの日、この国の王太子殿下から婚約の申し出を受ける少し前から思い返す。
「おはようございます、お継母様」
私の一日はお継母様への挨拶で始まる、返されたことは今までに一度もないが挨拶をしなければ後からどんな仕打ちを受けるか、一度この身で体感すればそんな事を考えなくなる。そんないつもと変わらない一日の始まりに朝食をいただく事にする。
「お母様っ!おはようございます」
そう言いながら扉から入ってきたのは異母妹の【ソフィア・オーエンス】。といってもこの中で血が繋がっていないのは私だけだ、その証拠に二人は黄金色に輝く髪をなびかせて、ガラス玉のような美しいサファイア色の瞳を輝かせる、対する私は似ても似つかない灰色の髪色と、どす黒い血のようで不気味だと言われたルビー色の瞳だ。
一方で私はこの容姿も相まって周囲からは"灰かぶり姫"などと揶揄されている。
「あら、お異母姉様もいらっしゃったのね」
「おはようございます、ソフィア」
「ふんっ、朝からやめてよ気分が滅入るわ」
「も、申し訳ございません」
「こっちまで灰がかぶりそうで本当に嫌な気分」
そう言いながら口元を扇子で隠している、その奥は私の事を嘲笑っているのだろう。隣にいたお継母様も私を擁護する事はない、それどころか同じように口元を隠しこちらを睨みつけてくる。
その視線は怨嗟にも似たもので、あの目で見られるたびに全身が強張ってくる。私は目線を合わせないようにして出された朝食の方へと目を向けられれる、ありがたい事に食事などは同じものを出されている、これはお父様の影響のおかげだろう。二人もそれを分かった上で嫌味を言ったり軽く暴力を加えてくるだけに留めている。
だとしてもこの家に私の味方はいない唯一血の繋がっているお父様はこの国で重要な要を任せられている役職のため、遠方に行ったっきりになる事が多くこの家に帰って来る事はほとんど無い。それでもこの頃はまだ幸せな日々だったと思う、十分なほどに衣食住を与えてられて周囲の人間も過干渉する事もなく自分の時間も沢山もてていたのだから。
あの日を迎えるまでは。
この日、数カ月ぶりにお父様がご帰宅なされると知らせが入ったので、私は溢れ出る嬉しい気持ちを抑えながらも到着時刻前にお出迎えする為、屋敷の外でお父様をお待ちする事にした。そうして外に出たところで後ろから声をかけられた、今は聞きたくない声に。
「あらお異母姉様、こんなところで何を?」
「お父様のお出迎えです」
「ふーん、殊勝な事ね。そんなに我が身が可愛いのかしら?」
「どういう意味でしょうか?」
「あら、言わないと分からないのかしら?お姉様がこの家で暮らせているのもお父様のおかけでしょう、その為の点数稼ぎに必死になっているのかと」
「娘がお父様をお迎えするのに理由などいりまして?」
私は少しムッとした表情を浮かべながらも、ソフィアの方へと向き直る。この顔が面白くなかったのか、目元が少しだけつり上がり、続く言葉に少し感情がこもっていた。
「生意気なお異母姉様、どうせお継父様はすぐに遠くに行ってしまいますわ、いい加減この家の在り方と言うものを教えて差し上げないとですね」
「あら、ソフィアが教えてくださるのですか?それは楽しみにしております」
昔からそう、ソフィアは守りたくなるような小動物的可愛らしい言動を繰り返し、その見た目と相まって自身の武器というものを理解している。その武器を上手く使い、周囲に味方を作りながら自身の望む結果に運ぶのが上手い。そのせいか、私の周囲ではよく物がなくなったり壊されたりする事が多く、よっぽど私の事が邪魔で嫌いなんだと伺える。
その異母姉が率先してお父様のお出迎えをしようとしているのだから、ソフィアからすれば面白くないのだろう。
「名前気な口を利きますね、お継父様が帰って来るとなれば強気にもなるのですか」
「いえ、ただ…勉学や舞踊、魔学などをあれだけサボり続けているソフィアから教わる事などあるのかと」
お父様をお出迎えする事があたかも計算で、打算的に動いていると言われた事に対して自分で思っているより苛ついていたのだろうか、少々言葉に棘がでた。
「そんな…私はお異母姉様の為にって…」
突然ソフィアが泣き崩れるような動きを始めた、いつも悲劇を演じれば何でも解決すると思っている節があり、それを私に見せられたところで何も感じないと分かっているはずなのに。
そんな事を思いながら何をしているのかと呆然としていたら、屋敷の門が開かれた音がする、振り返った先には待ち望んだお父様が帰ってこられていた。私はソフィアを置いてお父様の元へと駆け寄り声をかける。
「お父様、お帰りなさいませ」
本当はこのまま飛びついて抱きしめたい、昨日こんな事があったよって、お父様がいない間にこんな事ができるようになったよって少女のように話しかけたい。でも、今までそんな事をしたところで関心を寄せられることは無かった、あるのは業務的なやり取りだけ。本当に自分の父親なのかと疑ってしまうほどに。
「ただいま戻った……が、何をしている?」
冷たい声と冷たい視線が突き刺さる、私がその言葉の意味を理解するのに時間はかからなかった。
「お父様、お帰りなさい!」
ソフィアが勢いよくお父様の元へと駆け寄り抱きついた、先程までうずくまっていたのが嘘のように甘え声を出しながら私が我慢していることを躊躇なく。
「聞いてお父様、お姉様が私の事をいじめるのよ?」
「本当か?エレナ」
「いえ、そのような事は」
本当の事を言っているのにいつも私が嘘をついているように思われる、お父様だって何を言われるか。
「そうか、ならいい」
「えっ、お父様っ!?」
そう言い残しお父様は足早に屋敷の奥へと歩いていった、甲高い声を出しながら不満たらたらなソフィアを連れながら。思いがけない言葉ではあったが、残された私は大きなため息を吐き安堵する、こうして無事にお父様が戻ってきたくれたことが何よりだから。
「エレナお嬢様、只今戻りました」
「あらセブンス、お帰りなさい」
後ろから声をかけてきたのはお父様の秘書であり執事でもあもある【セブンス・レーン】。先代、私からすればお祖父様から長年仕えている最も信頼のおける人物らしく、私にとっても分け隔てなく接してくれる数少ない人物でもある。
「この後、旦那様より大事な話があるかと思いますので大部屋にお集まり頂ければと」
「分かったわ、ありがとう」
セブンスから知らされてなければ気づかないで部屋にこもっていたでしょう、と悲しくも思いながら大部屋に向う。お父様は去り際にそんな事一言も言わなかったし、この家にいる人間は私に益のある話を持ってくることはないのだから。
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