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第36話 クズだしヒモだし、ゴミだから社会に要らないだろ?①

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「……えっと、何これ? ドッキリ? ハロウィン……にはちょっと早くな~い?」

 1LDKのアパートの一室。
 異形の者達に囲まれた一人の男が、ビール片手にピントの外れた声を上げる。
 
 こいつがダイスケか。確かに顔は確かに良い。爽やかな感じだ。
 マッシュルームみたいな髪型も洒落ている。年齢は二十代後半くらいか。
 身体つきにも無駄が無い。
 Tシャツにスウェットというラフな服装だが、頑張っていない感が逆にスマートに見えるのは素材が良いからだろう。
 と、こう羅列していくと、パッと見は貶すところなど無い好青年に見えるのだが……。

 だが、何というか……。
 その表情と態度から、無責任感とか、アホっぽさとか、能天気さとか――そういった〝クズ男感〟が、これでもかという程に滲み出ていた。

「――なになに? サプライズ的な? 何かの記念日? 誰かのバースデイだったっけ? まぁ、俺ちゃん的には毎日が記念日でサプライズみたいな~?」

「何言ってんだコイツ。つーかこのメンバーに囲まれてよくビール飲んでられるな」

 お前を囲んでるの、助けを求めるメイド彼女に、目が逝っちゃってるコスプレ男。それに謎の一角獣と、男声の魔法少女二人だぞ。
 だというのに今も、

「あ、ごめーん。見たいドラマあるから録画だけしちゃうわ~」

 とか言って、リモコンをポチポチやっている。
 
「コイツ、ある意味、凄い大物なのもしれないな……」
「いや違うだろう杉田。コレは何も考えてないだけだと思うぞ」
「やっぱそうか? だなコイツ、頭空っぽ系THEヒモ男って感じだもんな」
「やれやれ、貢いだ女の彼氏がコレって……この下野って暴走魔法少女、余計に闇落ちするんじゃないのかい?」

 俺と中村、オノディンから下される評価は、散々足るものだった。

 ちなみにここは、絶賛人質中のメイド――シャロの自宅だ。
 メイド喫茶での一悶着の後、俺達は総武線に揺られここまでやって来たのだった。

 シャロ家の最寄り駅は、千葉県の津田沼駅だったので、時間にすれば大した旅路ではなかったのだが、その道中は大変の一言に尽きるモノだった。
 日の暮れかけた夕暮れ時の秋葉原を、我が物顔で闊歩する異形の集団。
『助けて』『放せ』『頭おかしいんじゃないの』『ぶっ殺す』等々、ピー音交じりの呪いの言葉を叫び続けるロリメイドに、そのメイドを捕らえて放さない魔法少女コスプレ男。
 男は男で『ダイスケぶっころーす』と延々と叫んでいる。
 最後尾には、俯いたまま恥ずかしそうにしているピンクと紫の魔法少女ふたり。
 そして、そのおかしな四人を引き連れているのは、角の生えた馬のぬいぐるみだ。
 三角旗をその手に「はいはーい、はぐれないで下さいねー」などと言って、尻をフリフリ、添乗員気分で歩いていた。

 はいおかしい。狂ってる。

 あんな百鬼夜行が、よく警察に通報をされず、駅員にも声を掛けられずに無事ここまで辿り着けたものだ。まさしく奇跡だった。
 まぁ、これだけ異常な集団だ。
 何かのドッキリやらテレビの撮影、ユーチューバ―の悪ふざけかなんかだと勘違いされたのかも知れない。

 というわけで、無事目的地に着いたのはいいが――。

「おい中村。ほいほい着いて来ちまったけども。この後どうすんだよ? 魔法少女の弱点って一体何なんだよ?」

 ここに来る途中、中村の言う〝弱点を突く〟というのがどういうことなのか、色々と頭をひねってみたものの、全く見当も付かないままだった。

「〝弱点を突く〟というのは、簡単に説明すれば、〝ガス抜きをさせる〟ということだ」
「あ? ガス抜き?」
「理解できないのか、鈍い奴だな。いいか、オノディンが言っていただろう。『暴走魔法少女は魔法少女力の代わりに、個人的な恨みつらみをエネルギーに代えている』と――」
「そういえば……そんなことを言っていたような?」
「だからその〝個人的な恨みつらみ〟とやらを解消させてやったとしたら、どうなると思う?」
「恨みを解消……ってことは、そうか! 暴走魔法少女は力の源を失って弱体化するってことか!?」

 なるほど、だからガス抜きってわけだな。でもこの場合、下野の恨みを解消させるために、必要なことって……。

「――って、まさか中村、お前本当にダイスケを殺させてやるつもりじゃねえだろうな?」
「ん? 駄目か? 名案だと思ったんだが? クズだしヒモだし、ゴミだから社会に要らないだろ?」
「美少女の顔でとてつもなく酷いことを言うな、お前」

 何か問題でもあるのか、と小首をかしげる中村に俺はため息を吐く。

「つーか確かにその方法なら、恨みが晴れて力は弱まるかもだけどな、魔法少女としてさすがに人死にはダメだろ!」

 大事のために小事を切り捨てる――間違ってはいないのかもしれないが、到底許容できない。そんなのは俺の目指す魔法少女じゃない。
 確かにダイスケは死んだ方が世のため人のためになるかも知れない。
 でも、だからって見殺しにするのは間違っている。
 魔法少女は誰にだって手を差し伸べるものだ。たとえ相手が悪だろうと、魔法少女の救いは平等でなくてはならないのだ。

「何を本気になって考えているんだ? 冗談に決まってるだろうが。さすがの俺もそこまではせんぞ」
「て、てめえ……」

 ははは、とか爽やかに笑いやがって、マジでムカつくな。

「じゃ、どうすんだよ? このままじゃ、ダイスケ本当に殺されちまうぜ」
「その辺はダイスケに土下座でもさせて、指の一~二本でも落とせばけじめになるだろう?」
「それ、どこの極道映画だよ!?」

 今度は冗談じゃなくて本気で言ってるぞ中村のやつ。

「――ちょ、ちょっと待ってよ。黙って聞いてたらなんかおかしくない? さっきから俺が殺されるとか、指落とすとか何言っちゃってんの? これサプライズパーティなんじゃないの? ちょっとイミフなんだけど?」

 俺たちの会話を聞いていたのか、困惑の声を上げるダイスケ。
 この馬鹿、やっと自分の立場に気付いたのか――と思い、ダイスケを見てみると。
 いつの間にやら下野の触手に頭を掴まれたその身体は、ぷらんぷらんと宙吊りになっていた。

「…………えっと、ダレカタスケテ」
「ちょ、ダイスケーーーっ!?」

 俺と中村が話している内に、ダイスケの命は面白い感じに風前の灯火と化していたのだった。
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