13 / 51
第13話 学校は変態が来たら一番ダメな所③
しおりを挟む
ただの変質者だと思っていたコスプレ男の正体は、大木すら平然とへし折る触手の化け物だった。
その姿を見た俺と中村は、必死にその場から逃げる。
そして――。
俺と中村は、息を殺し、木陰からコスプレ男――今となっては触手男と言い換えた方が良いかも知れない――の動向を探っていた。
「追って来ねえな……」
「ああ、それどころか空中に浮いたままピクリとも動く様子がないぞ……」
「近づいたら動き始めるとかか? 近距離パワー型のスタンドなのか……?」
「スタンド? 何の話だ? 電気か? ガソリンか?」
中村が的外れなことを言う。
「何だよ中村、ジョジョも知らねえのかよ」
どこにでもジッパー付けるイタリアンマフィアみたいな声してるくせに意外だな。
「そうか……何かアニメの話だとしたら残念だったな。俺は『魔法少女みくる☆ミラクル』のアニメしか見たことがないんだ……」
「『みく☆ミラ』しか見たことないって……お前……」
他のアニメには目もくれないなんて、真性の変態さんじゃねえか……。
「口に出さなくても、今お前が酷く失礼なことを考えているのが分かるぞ」
「いやだって、アニメは『みく☆ミラ』しか観たことないって、そんな奴いるか? ちびでか子ちゃんとかツーピースとか普通に生活してりゃ、多少は目に入ってくるもんだろ? お前、今までどんな生活してたんだよ?」
うっわ睨み付けてきやがった。
そんなイラつかせるようなこと、聞いたか俺?
「――俺は妹が観たいと言ったアニメを隠れて一緒に観ていただけだ。それ以外は、テレビ自体ほとんど見る機会は無かった」
「え、妹ってマジでいたのか? てっきり、抱き枕カバー誤魔化すためだけの大嘘だと思ってたぞ。エア妹じゃなかったのか!」
「いるに決まっているだろうが! エア妹って何だ!?」
「空気入れると膨らむ、着せ替えできる妹みたいな――って痛え!」
こいつまた殴りやがった。妹にしか殴られたことないのに!
「お前、思考が最低だぞ!」
余計なお世話だ。
それにしても、妹が実在してるってことは、『みく☆ミラ』観てんのはマジで妹の趣味ってか。深夜枠の微エロ魔法少女アニメだぞ?
「随分変わ――素敵な妹さんですね……」
なんか敬語になってしまった。
いやまあ、うちの妹も他人のこと言えないからね。
この前の連休も、朝から晩まで『みく☆ミラ』一挙放送を自前でやってたくらいだしな。しかも自宅リビングで。
「つーか、隠れてテレビ観てたってどういうことだよ?」
「家の教育方針が厳しくてな。自由になる時間がほとんど無かったんだ。それで妹が欲しがったり観たがったりした物は、俺がこっそり調達――って、何で俺がお前にこんな話をしなければならないんだ!」
「知らねえよ! 嫌なら話さなきゃ良かったじゃねえか!」
にしても、隠れて魔法少女か……。
よくわからねえけど、相当厳しい家なんだろうな。そんで妹と観る魔法少女アニメが唯一の息抜きだった……的な?
だとしたら、こいつの魔法少女愛、そして魔法少女によって培われた性癖は、かなり業が深いと予測されるな。
圧政を受けた欲望は際限なく増大するもんだ。マニアってのは大抵、子供の頃に欲しいものを手に入れられなかった反動だって言うしな。
三つ子の魂百までもってやつだ。
「ふーん。華麗なる一族ってやつも結構大変なんだな」
「馬鹿にしているのか貴様。余計なお世話だ。そんなことより杉田……」
「あん?」
「お前、いつまで俺の手を握っているつもりだ?」
視線を下げると、未だしっかりと握られた二人の手が目に入る。
「うぉぉぉぉおおっ!」
弾けるように、大慌てでその手を放す。
「俺は握ってねえよ! 握ってねえし! ってか、そう、そうだよ、お前が先に握ったんじゃねえか!」
「逃げるときはな。だが、俺は何度も放そうとしたが、お前が強く握り続けるから、手が放せなかったんだ……」
「ちっげーし。中村が怖がってると思ったからだし! 仕方ねえから握ってやってただけだから!」
うっわー、今気付いたけど何か手のひら湿ってるよ。これどっち? どっちの手汗? それとも混ざってんの? いやだマジ気持ち悪い。
「――って、一人で手ぇ消毒してんじゃねえよ! 失礼な奴だな! 準備いいな!」
いつの間にか取り出したウェットティッシュで、手を拭いている中村。
「汚物に触れたらすぐに消毒出来るように普段から持ち歩いているんだ。気にするな」
「汚物扱いされて気にしない奴がいるか! ほとんどいじめじゃねえか!」
クラスで誰からも目を合わせてもらえない(先生も含め)俺にとって、そういうのが一番グサッと来るんだからな!
などと、学校内に化け物が居るという緊急事態も忘れて睨み合う俺と中村。
だが、その時――。
「――いちゃついているところ、邪魔して悪いんだけど、そろそろボクの存在にも気付いて欲しいな……」
背後に茂る森の中から突然声がしたのだった。
その姿を見た俺と中村は、必死にその場から逃げる。
そして――。
俺と中村は、息を殺し、木陰からコスプレ男――今となっては触手男と言い換えた方が良いかも知れない――の動向を探っていた。
「追って来ねえな……」
「ああ、それどころか空中に浮いたままピクリとも動く様子がないぞ……」
「近づいたら動き始めるとかか? 近距離パワー型のスタンドなのか……?」
「スタンド? 何の話だ? 電気か? ガソリンか?」
中村が的外れなことを言う。
「何だよ中村、ジョジョも知らねえのかよ」
どこにでもジッパー付けるイタリアンマフィアみたいな声してるくせに意外だな。
「そうか……何かアニメの話だとしたら残念だったな。俺は『魔法少女みくる☆ミラクル』のアニメしか見たことがないんだ……」
「『みく☆ミラ』しか見たことないって……お前……」
他のアニメには目もくれないなんて、真性の変態さんじゃねえか……。
「口に出さなくても、今お前が酷く失礼なことを考えているのが分かるぞ」
「いやだって、アニメは『みく☆ミラ』しか観たことないって、そんな奴いるか? ちびでか子ちゃんとかツーピースとか普通に生活してりゃ、多少は目に入ってくるもんだろ? お前、今までどんな生活してたんだよ?」
うっわ睨み付けてきやがった。
そんなイラつかせるようなこと、聞いたか俺?
「――俺は妹が観たいと言ったアニメを隠れて一緒に観ていただけだ。それ以外は、テレビ自体ほとんど見る機会は無かった」
「え、妹ってマジでいたのか? てっきり、抱き枕カバー誤魔化すためだけの大嘘だと思ってたぞ。エア妹じゃなかったのか!」
「いるに決まっているだろうが! エア妹って何だ!?」
「空気入れると膨らむ、着せ替えできる妹みたいな――って痛え!」
こいつまた殴りやがった。妹にしか殴られたことないのに!
「お前、思考が最低だぞ!」
余計なお世話だ。
それにしても、妹が実在してるってことは、『みく☆ミラ』観てんのはマジで妹の趣味ってか。深夜枠の微エロ魔法少女アニメだぞ?
「随分変わ――素敵な妹さんですね……」
なんか敬語になってしまった。
いやまあ、うちの妹も他人のこと言えないからね。
この前の連休も、朝から晩まで『みく☆ミラ』一挙放送を自前でやってたくらいだしな。しかも自宅リビングで。
「つーか、隠れてテレビ観てたってどういうことだよ?」
「家の教育方針が厳しくてな。自由になる時間がほとんど無かったんだ。それで妹が欲しがったり観たがったりした物は、俺がこっそり調達――って、何で俺がお前にこんな話をしなければならないんだ!」
「知らねえよ! 嫌なら話さなきゃ良かったじゃねえか!」
にしても、隠れて魔法少女か……。
よくわからねえけど、相当厳しい家なんだろうな。そんで妹と観る魔法少女アニメが唯一の息抜きだった……的な?
だとしたら、こいつの魔法少女愛、そして魔法少女によって培われた性癖は、かなり業が深いと予測されるな。
圧政を受けた欲望は際限なく増大するもんだ。マニアってのは大抵、子供の頃に欲しいものを手に入れられなかった反動だって言うしな。
三つ子の魂百までもってやつだ。
「ふーん。華麗なる一族ってやつも結構大変なんだな」
「馬鹿にしているのか貴様。余計なお世話だ。そんなことより杉田……」
「あん?」
「お前、いつまで俺の手を握っているつもりだ?」
視線を下げると、未だしっかりと握られた二人の手が目に入る。
「うぉぉぉぉおおっ!」
弾けるように、大慌てでその手を放す。
「俺は握ってねえよ! 握ってねえし! ってか、そう、そうだよ、お前が先に握ったんじゃねえか!」
「逃げるときはな。だが、俺は何度も放そうとしたが、お前が強く握り続けるから、手が放せなかったんだ……」
「ちっげーし。中村が怖がってると思ったからだし! 仕方ねえから握ってやってただけだから!」
うっわー、今気付いたけど何か手のひら湿ってるよ。これどっち? どっちの手汗? それとも混ざってんの? いやだマジ気持ち悪い。
「――って、一人で手ぇ消毒してんじゃねえよ! 失礼な奴だな! 準備いいな!」
いつの間にか取り出したウェットティッシュで、手を拭いている中村。
「汚物に触れたらすぐに消毒出来るように普段から持ち歩いているんだ。気にするな」
「汚物扱いされて気にしない奴がいるか! ほとんどいじめじゃねえか!」
クラスで誰からも目を合わせてもらえない(先生も含め)俺にとって、そういうのが一番グサッと来るんだからな!
などと、学校内に化け物が居るという緊急事態も忘れて睨み合う俺と中村。
だが、その時――。
「――いちゃついているところ、邪魔して悪いんだけど、そろそろボクの存在にも気付いて欲しいな……」
背後に茂る森の中から突然声がしたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
行くゼ! 音弧野高校声優部
涼紀龍太朗
ライト文芸
流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。
そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!
同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる