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第6話 おバカ双子と抱き枕カバー
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――俺と中村の紙袋が入れ替わったかもしれない、という衝撃的事実に気付いた翌日。
こそこそ。
そろりそろり。
そんな擬音が聞こえそうな動きで、俺は放課後の校舎を徘徊していた。
もちろん両腕には例の紙袋が携えられている。
目的は言うまでもなく、あのいけ好かない生徒会長――中村だ。
「あんにゃろー。いつもはしつこく追い回して来るくせに、どうして今日に限って、どこにもいねえんだよ……」
授業が終わってから一時間は経つ。
その間、ずっと探しているにもかかわらず、中村の影も形も見当たらない。
「……いつもなら生徒会の連中と偉そうに学校を巡回してる頃合いなんだけどな……」
その〝巡回の対象〟に自分が含まれているせいで、生徒会の動きに詳しいってのは皮肉なものだ。
きょろきょろと視線を動かしながら、まだ調べていない校舎裏へと足を踏み入れた時、
「「兄貴? どうしたんすかキョロキョロして?」」
「うおぉぉあああぁぁぁぁっっ!?」
背後からの二重奏に飛び上がる。
慌てて振り返ると、そこには見知った顔が二つ。
「ハァハァ……なんだユウとマヤかよ……。ビビらせやがって」
「「ビビらせるって、別に普通に声掛けただけっすよ~」」
「いやいや、お前ら絶対ワザとだろ。いつも気配消して背後からいきなり声掛けてきやがって。異常なシンクロ率でハモってるから、ちょっとしたホラーなんだよ」
「「えへへ、照れるなぁ……」」
「褒めてねえよ! 今の会話のどこに照れる要素があったよ!」
だが、何を言われても、目の前のふたりは、えへらえへらと笑って、懲りる様子は微塵もない。
華奢な体つき、子猫を思わせるくりっとした顔立ち。性別は違えども、ふたりの容姿と雰囲気は非常によく似ていた。
ま、双子なんだし似てるのは当たり前だけどな……。
双子の名は、内田ユウと内田マヤ。
ウルフヘアという、アイドルがよくやってる無造作ヘアの金髪が兄のユウ。
腰まで伸びた緩いウェーブの金髪に、ピンクのメッシュを入れているのが妹のマヤだ。
二人はひとつ下の後輩で、入学当初から俺の事を『兄貴』と慕ってくれる、俺の数少ない〝不良仲間〟だった。
誰も彼もが俺を恐れる中、平然とまとわりついてくるこの双子を、初めはウザったく思ったりもしたが、なんやかんやで今では一緒に過ごす時間が最も多くなっている。
それにしても、この二人……相変わらず不良と言うにはルックス整い過ぎてる。
どこぞの外国の血が入っているらしく、天然の金髪に、美形ハーフタレントみたいな顔してるくせに、何故か二人揃って不良に憧れを抱いているというのだから不思議なものだ。
「兄貴、何やってんすか? 尾行っすか? 忍者っすか? 中忍試験の修行っすか?」
と、兄のユウ。
「馬鹿だなぁ、兄ちゃん。中忍試験て……アニキがそんなの受けるわけないじゃん。もちろん、上忍試験の方っすよね?」
と、妹のマヤ。
説明不要だとは思うが、この双子、見ての通りどっちもお馬鹿である。
一応本人たちも頑張って不良ぶっているのだが、どうしても無理があるというか……。周囲からも、怖がられるどころか、可愛がられているところしか見たことがない。
以前、クラスメイトと全力で缶蹴りをしているこいつらを目撃した時は、不良って何だろうと、真剣に考えさせられたものだ……。
「「兄貴、兄貴♪」」
「な、何だよ……」
双子が飼い犬のように笑顔ですり寄って来る。
こいつらがこういう笑顔の時って、大抵何かやらかすんだよなぁ。
正直面倒だとしか思えなかった。
普段ならまだいいが、今はマズイ。なにしろこの紙袋の中には、絶対運命即死ブツが入っているのだから。
いいか聞いてくれるなよ、触れるなよ。
『その紙袋なんすか?』とか絶対言うんじゃないぞ――という念を、俺は全身から発する。
「「――で、その紙袋なんすか?」」
ダメだった! 念なんか全然通じねえ!
やっぱり馬鹿は空気なんか読まないんだよ!
触れて欲しくない所に、平然と手を伸ばしてくる……なんて恐ろしい双子。
「こ、これは、その………………極秘任務だ……」
「「極秘任務!?」」
あ、やばい。
余計な事を口走ったと、慌てて口元を抑えるが、時すでに遅し。
案の定、曇りない瞳をキラキラさせて、
「Aランク任務ってやつっすかね?」
「いやいや、これはSランク任務に違いないっすよ~」
と、おバカのバカ騒ぎが始まる。
極秘任務なんて言ったら、この二人が目を輝かせないわけがないだろ、俺のバカ。これ『何か手伝えることはないっすか!?』って聞いて来るパターンじゃん。
「「何か手伝えることはないっすか!?」」
ほら来た。お前らに手伝えることはねえよ。早く帰って麦茶でも飲んでろよ。
と、その時、
「なっ!」
偶然にも視界の端に中村の姿を見つける。
「……あの野郎、あんな所に」
中村はひとり、校舎のはずれの林の中を歩いていた。
「――あの方向は旧校舎か……でも、あいつ何でそんなところに……」
旧校舎は築七十年を越える木造三階建て、五年ほど前まで部活棟として使われていた建物だ。だが新しい部活棟が完成し、取り壊しが決まって以降は誰も近寄らず、手入れされることもなく、ただひっそりと敷地の隅に佇んでいる。
言ってしまえば廃墟同然の建物だった。
なので一瞬見間違いかとも思ったが、あのムカつく後ろ姿は間違いなく中村だった。
あいつ、旧校舎なんかに何の用があるってんだよ……。
だが、これはチャンスだ。中村は取り巻きを連れていない。問い詰めるなら、これ以上のタイミングはない。
そうこうしているうちに旧校舎へと消えていく中村。
早く追いかけねえと……でも、こいつらを連れて行くわけには……。
目の前の双子は、しっぽをフリフリ構って欲しそうにこちらを見つめている。
……むう……仕方ないか……。
意を決して、俺はふたりの肩を手を置く。
「ユウ、マヤ、お前らに手伝って欲しいことがある」
「「な、何すか?」」
俺の真剣な表情に、ただ事ではないと身を硬くする双子。
「学園内に不審者が紛れ込んだ、という情報が入った。だからお前らにも、その不審者を見つけ出す協力をして欲しい……」
「「おお、不審者……」」
何がそんなに嬉しいのか、双子が目を輝かせる。
「不審者ってあれっすか? 宇宙人とか未来人とか超能力者とか?」
ユウよ。どうしてお前の不審者像はSF限定なんだ? 好きなのか?
「不審者を見つけたら、やっぱりサーチ&デストロイっすよね!」
「誰もそんな物騒な事言ってねえよ!」
楽しそうに『動くものはすべて殺せ』と宣言するマヤ。
SFから急に血生臭くなったな。
どこで覚えて来るのか、お馬鹿のくせに、変な言葉だけは不思議とよく知ってるんだよな。
「いいか、お前らは不審者を探すだけでいい。もし怪しいやつを見つけても絶対手を出すな。かなり危険人物らしいからな、まず俺に連絡するんだぞ」
と言っておかないと、こいつら誰彼構わず特攻しそうだからな。
「「らじゃっす!」」
元気良く敬礼する双子。そして、そのまま校庭の方へキーンと走り去っていく。
「騙して悪いな、ユウ、マヤ……」
後ろ姿を見送りながら、静かに合掌する。
不審者情報など、もちろん口から出まかせだ。双子をこの場から遠ざける為に咄嗟に吐いた嘘に過ぎない。少し罪悪感も感じたが、背に腹は代えられなかった。
「さてと……」
気を取り直して旧校舎の方へ向き直る。
中村が消えてから、そう時間は経っていない。急いで後を追わなくては……。
俺は手の中にある紙袋を抱きしめてから、伸び放題の雑草をかき分けて旧校舎へと向かうのだった。
こそこそ。
そろりそろり。
そんな擬音が聞こえそうな動きで、俺は放課後の校舎を徘徊していた。
もちろん両腕には例の紙袋が携えられている。
目的は言うまでもなく、あのいけ好かない生徒会長――中村だ。
「あんにゃろー。いつもはしつこく追い回して来るくせに、どうして今日に限って、どこにもいねえんだよ……」
授業が終わってから一時間は経つ。
その間、ずっと探しているにもかかわらず、中村の影も形も見当たらない。
「……いつもなら生徒会の連中と偉そうに学校を巡回してる頃合いなんだけどな……」
その〝巡回の対象〟に自分が含まれているせいで、生徒会の動きに詳しいってのは皮肉なものだ。
きょろきょろと視線を動かしながら、まだ調べていない校舎裏へと足を踏み入れた時、
「「兄貴? どうしたんすかキョロキョロして?」」
「うおぉぉあああぁぁぁぁっっ!?」
背後からの二重奏に飛び上がる。
慌てて振り返ると、そこには見知った顔が二つ。
「ハァハァ……なんだユウとマヤかよ……。ビビらせやがって」
「「ビビらせるって、別に普通に声掛けただけっすよ~」」
「いやいや、お前ら絶対ワザとだろ。いつも気配消して背後からいきなり声掛けてきやがって。異常なシンクロ率でハモってるから、ちょっとしたホラーなんだよ」
「「えへへ、照れるなぁ……」」
「褒めてねえよ! 今の会話のどこに照れる要素があったよ!」
だが、何を言われても、目の前のふたりは、えへらえへらと笑って、懲りる様子は微塵もない。
華奢な体つき、子猫を思わせるくりっとした顔立ち。性別は違えども、ふたりの容姿と雰囲気は非常によく似ていた。
ま、双子なんだし似てるのは当たり前だけどな……。
双子の名は、内田ユウと内田マヤ。
ウルフヘアという、アイドルがよくやってる無造作ヘアの金髪が兄のユウ。
腰まで伸びた緩いウェーブの金髪に、ピンクのメッシュを入れているのが妹のマヤだ。
二人はひとつ下の後輩で、入学当初から俺の事を『兄貴』と慕ってくれる、俺の数少ない〝不良仲間〟だった。
誰も彼もが俺を恐れる中、平然とまとわりついてくるこの双子を、初めはウザったく思ったりもしたが、なんやかんやで今では一緒に過ごす時間が最も多くなっている。
それにしても、この二人……相変わらず不良と言うにはルックス整い過ぎてる。
どこぞの外国の血が入っているらしく、天然の金髪に、美形ハーフタレントみたいな顔してるくせに、何故か二人揃って不良に憧れを抱いているというのだから不思議なものだ。
「兄貴、何やってんすか? 尾行っすか? 忍者っすか? 中忍試験の修行っすか?」
と、兄のユウ。
「馬鹿だなぁ、兄ちゃん。中忍試験て……アニキがそんなの受けるわけないじゃん。もちろん、上忍試験の方っすよね?」
と、妹のマヤ。
説明不要だとは思うが、この双子、見ての通りどっちもお馬鹿である。
一応本人たちも頑張って不良ぶっているのだが、どうしても無理があるというか……。周囲からも、怖がられるどころか、可愛がられているところしか見たことがない。
以前、クラスメイトと全力で缶蹴りをしているこいつらを目撃した時は、不良って何だろうと、真剣に考えさせられたものだ……。
「「兄貴、兄貴♪」」
「な、何だよ……」
双子が飼い犬のように笑顔ですり寄って来る。
こいつらがこういう笑顔の時って、大抵何かやらかすんだよなぁ。
正直面倒だとしか思えなかった。
普段ならまだいいが、今はマズイ。なにしろこの紙袋の中には、絶対運命即死ブツが入っているのだから。
いいか聞いてくれるなよ、触れるなよ。
『その紙袋なんすか?』とか絶対言うんじゃないぞ――という念を、俺は全身から発する。
「「――で、その紙袋なんすか?」」
ダメだった! 念なんか全然通じねえ!
やっぱり馬鹿は空気なんか読まないんだよ!
触れて欲しくない所に、平然と手を伸ばしてくる……なんて恐ろしい双子。
「こ、これは、その………………極秘任務だ……」
「「極秘任務!?」」
あ、やばい。
余計な事を口走ったと、慌てて口元を抑えるが、時すでに遅し。
案の定、曇りない瞳をキラキラさせて、
「Aランク任務ってやつっすかね?」
「いやいや、これはSランク任務に違いないっすよ~」
と、おバカのバカ騒ぎが始まる。
極秘任務なんて言ったら、この二人が目を輝かせないわけがないだろ、俺のバカ。これ『何か手伝えることはないっすか!?』って聞いて来るパターンじゃん。
「「何か手伝えることはないっすか!?」」
ほら来た。お前らに手伝えることはねえよ。早く帰って麦茶でも飲んでろよ。
と、その時、
「なっ!」
偶然にも視界の端に中村の姿を見つける。
「……あの野郎、あんな所に」
中村はひとり、校舎のはずれの林の中を歩いていた。
「――あの方向は旧校舎か……でも、あいつ何でそんなところに……」
旧校舎は築七十年を越える木造三階建て、五年ほど前まで部活棟として使われていた建物だ。だが新しい部活棟が完成し、取り壊しが決まって以降は誰も近寄らず、手入れされることもなく、ただひっそりと敷地の隅に佇んでいる。
言ってしまえば廃墟同然の建物だった。
なので一瞬見間違いかとも思ったが、あのムカつく後ろ姿は間違いなく中村だった。
あいつ、旧校舎なんかに何の用があるってんだよ……。
だが、これはチャンスだ。中村は取り巻きを連れていない。問い詰めるなら、これ以上のタイミングはない。
そうこうしているうちに旧校舎へと消えていく中村。
早く追いかけねえと……でも、こいつらを連れて行くわけには……。
目の前の双子は、しっぽをフリフリ構って欲しそうにこちらを見つめている。
……むう……仕方ないか……。
意を決して、俺はふたりの肩を手を置く。
「ユウ、マヤ、お前らに手伝って欲しいことがある」
「「な、何すか?」」
俺の真剣な表情に、ただ事ではないと身を硬くする双子。
「学園内に不審者が紛れ込んだ、という情報が入った。だからお前らにも、その不審者を見つけ出す協力をして欲しい……」
「「おお、不審者……」」
何がそんなに嬉しいのか、双子が目を輝かせる。
「不審者ってあれっすか? 宇宙人とか未来人とか超能力者とか?」
ユウよ。どうしてお前の不審者像はSF限定なんだ? 好きなのか?
「不審者を見つけたら、やっぱりサーチ&デストロイっすよね!」
「誰もそんな物騒な事言ってねえよ!」
楽しそうに『動くものはすべて殺せ』と宣言するマヤ。
SFから急に血生臭くなったな。
どこで覚えて来るのか、お馬鹿のくせに、変な言葉だけは不思議とよく知ってるんだよな。
「いいか、お前らは不審者を探すだけでいい。もし怪しいやつを見つけても絶対手を出すな。かなり危険人物らしいからな、まず俺に連絡するんだぞ」
と言っておかないと、こいつら誰彼構わず特攻しそうだからな。
「「らじゃっす!」」
元気良く敬礼する双子。そして、そのまま校庭の方へキーンと走り去っていく。
「騙して悪いな、ユウ、マヤ……」
後ろ姿を見送りながら、静かに合掌する。
不審者情報など、もちろん口から出まかせだ。双子をこの場から遠ざける為に咄嗟に吐いた嘘に過ぎない。少し罪悪感も感じたが、背に腹は代えられなかった。
「さてと……」
気を取り直して旧校舎の方へ向き直る。
中村が消えてから、そう時間は経っていない。急いで後を追わなくては……。
俺は手の中にある紙袋を抱きしめてから、伸び放題の雑草をかき分けて旧校舎へと向かうのだった。
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