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第3話

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あのあと。
僕は、何もなかったかのように、
病室にいて、朝食を食べていた。
何を話していたのかは、聞かないことにした。
きっと僕には、関係のないこと。
僕が知って、カナさんが得することはない。
そう思った。

「焼き鮭だ。おいしそう」
「こっちは、だし巻きか」
つい独り言が、口からこぼれてしまう。
すると、カナさんが。
「奏斗くん、面白い。独り言が多いんだね」
と言って、クスクスと笑っていた。
その笑顔に、ドキッとした。
彼女は、こんなにも可愛く笑うのか。
今のカナさんがあることが、ますます分からない。
こんな良い人が、こんな所にいては、勿体ない。
そう思ってしまうほどだ。
「今のは、ついだよ」
「ううん。なんか羨ましいな。
私、奏斗くんみたいに自然体でいたい」
と言われ、ふいをつかれた。
奏斗くんみたいに。
そんなこと、初めて言われた。
やっぱり、カナさんは良い子だ。
どうして、今の彼女があるのだろう。
「えへへ。なんか、ありがと」
今日の朝食は、いつもより美味しい気がした。


朝食が終わり、自由時間に。
お昼までは、4時間もある。

その間、どうしよう。
せっかくカナさんが、勉強しているから、
僕も、勉強しようかな。
入院してて、不登校になってるから、
きっと穴があいているだろう。
それに、課題とか宿題とか、
色々と溜まっているに、違いない。
そう思いながら、病室を出た。
この病院内の公衆電話は、カードのみが使える。
そのカードは、入院者だけが持つ。
確か、ポケットに入れたはず。
ズボンの右ポケットから、カードを取り出した。

あった。
カードは、意外にオシャレで、マリンブルーのしましま。
その柄を、僕は気に入っていた。


「あ、もしもし。お母さん?」
「もしもし。どうかしたの?」
「お母さんに頼み事があるんだけど。ちょっといい?」
「いいわよ。あ、メモ取るから、ちょっと待ってて」
と言い、電話の向こうで物音がした。

数分が経って、お母さんが戻ってきた。
「はい。どうぞ。言って」
「うん。明日、数学の教科書とノートに参考書も持ってきて。あと、筆箱も」
「それだけね?」
「うん」
「分かったわ。明日、持っていくわね」
「うん。じゃあ、また明日」
「あ、ちょっと待って。奏斗」


ふぅ。
ベッドに座って、ふとため息をついたとき。
「あ、カナさん。今日、お家の人が来るんだけど。大丈夫かな?」
と言うと、カナさんは勉強をする手を止めた。
「どうして、私に?」
そう僕に聞くカナさん。
当たり前かな。
「いや、それがさ…」
と言いかけたとき。

ガラリ。
病室の扉が開いた。
「奏斗!来たわよ!」
と僕の母が、元気にやってきた。
というか、元気過ぎ。
母のテンションに、僕もカナさんも
固まった。
「お、お母さん……」
「え…?奏斗くんのお母さん…?」
と聞いてくるカナさん。
「うん。そうだよ。僕のお母さん」
「そうなんだ。あ、あの!」
とカナさんは、そう言った。


「あの!私、宮本 カナって言います!
奏斗くんとは、同じ病室で!お世話になってます!」
とお辞儀をしたカナさん。
なんて、良い子なんだろう。
やっぱり、ここにいるのは、勿体ない。
僕じゃない誰かと、付き合っているんだろう。
彼氏とかいないほうが、可笑しい。
「いえいえ♪こちらも、お世話になっております♪奏斗の母です♪」
「お母さん。頼むから、そのテンションはやめて」
おどおどと、そう言った。

「良いじゃない♪せっかくの彼女さんだもの♪」

と言った瞬間、僕とカナさんは固まった。
僕の彼女?
つまり、好き同士?
は、はい?
お母さんは、一体何を言って…。
母の言っていることが、理解できなかった。
「あ、あの!違うんです!奏斗くんとは、ただの患者同士で…」
僕が黙っていると、カナさんはそう言ってくれた。
「はい?」
と今度は、母が固まった。
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