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私の命はもうすぐ終わる。愛する人の腕の中で。
「もしあなたが……私を……少しでも好いてくれるなら……どうか私の体を……あなたの僕に……変えて……下さい」
「意志も感情もなく、俺の意のままに動く傀儡となるのだぞ?」
「それでも……構わない……あなたのそばにいられる……から……」
「お前は……」
「飽きたら……捨ててくれていい……だからどうか……お願い……」
目を開けていられなくなる。喉を震わせる事もできない。吐く息も少なくなっていく。寒くて寒くて仕方ない。
でも、これだけは、どうしても伝えたい。私は必死で声を発する。
「あい……して……る……」
息を飲む音が聞こえたような気がする。鈍い感覚の中、瞼や頬、そして首筋に、彼の熱を感じる。囁くような優しい声が、甘く私の耳に響く。
「俺も、愛している」
そして、首筋に鈍く、痛みが走る。その痛みは、私が彼のものになれる証。その喜びに体が震え、涙が流れる。
「うれ……しい……」
そこで私の命は、終わった。
――
腕の中にいる、小さく愛おしき者。残りわずかな命が、牙を突き立てた首筋から、俺の喉を通っていく。
腕の中から、少しずつ熱が消えていくのを感じる。そして、人であったその体は、白く美しい毛並の狼と変わっていく。狼の閉じていた瞳が開き、感情のない瞳が俺を見つめている。俺の腕の中から抜け出すと、狼は服従するように地に伏せる。
そこにいるのはもう、俺に生意気な口を聞く人間の女ではない。俺の為だけに生き、死ねと命じればすぐに命を捨てられる、感情のない操り人形となったのだ。
――
屋敷のあちこちに、あの女の痕跡を見つける。それと同時に、まるで幻覚のように、その姿を感じる。初めはあんなに鬱陶しいと感じていたというのに、今は。
そばにいる狼が小さく鳴く。感情などないはずなのに、まるで俺に悲しむなと叱っているように聞こえる。
俺は、知らず知らずのうちに、唇を強く噛んでいた。
あの女に出会わなければ知らずに済んだ。愛し慈しむ気持ちも、失う悲しみも。
「人間などに関わった俺が愚かだった」
愛などという不確かな言葉に惑わされず、そのまま朽ち果てさせてしまえばよかったのだ。
俺は、傍らの狼を見下ろす。窓から差し込む月の光が、狼の白い毛を、柔らかく輝かせていた。
「もしあなたが……私を……少しでも好いてくれるなら……どうか私の体を……あなたの僕に……変えて……下さい」
「意志も感情もなく、俺の意のままに動く傀儡となるのだぞ?」
「それでも……構わない……あなたのそばにいられる……から……」
「お前は……」
「飽きたら……捨ててくれていい……だからどうか……お願い……」
目を開けていられなくなる。喉を震わせる事もできない。吐く息も少なくなっていく。寒くて寒くて仕方ない。
でも、これだけは、どうしても伝えたい。私は必死で声を発する。
「あい……して……る……」
息を飲む音が聞こえたような気がする。鈍い感覚の中、瞼や頬、そして首筋に、彼の熱を感じる。囁くような優しい声が、甘く私の耳に響く。
「俺も、愛している」
そして、首筋に鈍く、痛みが走る。その痛みは、私が彼のものになれる証。その喜びに体が震え、涙が流れる。
「うれ……しい……」
そこで私の命は、終わった。
――
腕の中にいる、小さく愛おしき者。残りわずかな命が、牙を突き立てた首筋から、俺の喉を通っていく。
腕の中から、少しずつ熱が消えていくのを感じる。そして、人であったその体は、白く美しい毛並の狼と変わっていく。狼の閉じていた瞳が開き、感情のない瞳が俺を見つめている。俺の腕の中から抜け出すと、狼は服従するように地に伏せる。
そこにいるのはもう、俺に生意気な口を聞く人間の女ではない。俺の為だけに生き、死ねと命じればすぐに命を捨てられる、感情のない操り人形となったのだ。
――
屋敷のあちこちに、あの女の痕跡を見つける。それと同時に、まるで幻覚のように、その姿を感じる。初めはあんなに鬱陶しいと感じていたというのに、今は。
そばにいる狼が小さく鳴く。感情などないはずなのに、まるで俺に悲しむなと叱っているように聞こえる。
俺は、知らず知らずのうちに、唇を強く噛んでいた。
あの女に出会わなければ知らずに済んだ。愛し慈しむ気持ちも、失う悲しみも。
「人間などに関わった俺が愚かだった」
愛などという不確かな言葉に惑わされず、そのまま朽ち果てさせてしまえばよかったのだ。
俺は、傍らの狼を見下ろす。窓から差し込む月の光が、狼の白い毛を、柔らかく輝かせていた。
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