オメガになってみたんだが

琉希

文字の大きさ
上 下
76 / 79

第76話

しおりを挟む
サキが食べ終えると、レイは休むことを勧めてきた。

部屋はサキが寝起きしていたときのままだった。

サキも言われた通りに休むことにしたのだが、目が冴えて眠れない。

頭の中では、レイが助けに来てくれたあの瞬間が何度も甦って、胸が熱くなっていた。

久我を失神させるほど喧嘩が強いなどとは知らなかった。

温厚なレイの意外な一面に、胸の高鳴りがやまなかった。

眠れずに何度も寝返りを打っていたが、いても立ってもいられなくなり、サキは起き上がった。

携帯の時刻を見ると、午前一時を過ぎていた。

そっと部屋のドアを開けるとリビングの電気は消えていたので、レイの部屋に行った。
 
声を掛けると、すぐに返事があった。まだ起きていたようだ。

顔を覗かせると、机に向かっていた。

薄い液晶パネルの前にキーボードがあったので、何か作業をしているようだ。

サキの視線に気づくと、レイは液晶パネルの画面を真っ黒にした。

見られたくないものらしい。

「どうしたの?」
 
レイが言った。

「話しがしたくて」
 
サキが答えるとレイは椅子に座ったまま、ベッドを指した。

サキは掛け布団の上に浅く腰かけた。

「あのな」

「うん」

「おれ、あいつにヤられそうになって……」
 
サキは一旦言葉を切り、指をくるくる回しながら小声で言った。

「レイを呼んだんだ」

「知ってる」

真顔で答えられ、サキは恥ずかしくなった。

「声、外まで聞こえてた?」

「それもあるけど」
 
レイは一呼吸置いた。

「匂いがしたから」

「?」

サキが首を傾げると、レイは椅子から立ちあがり、サキの隣に腰をおろした。

「おれを呼ぶ匂い。エレベーターに乗る前から、サキの匂いがしてたんだ」

「なにそれ!?」
 
サキは驚きの声を上げると、レイは微笑んだ。

「アルファはね、自分のオメガの匂いに敏感なんだよ。嗅覚が異常に鋭くなるんだ」
 
レイは鼻頭に人差し指をつけた。

「といっても、おれもそういう話を聞いたことがあるだけで、半信半疑だったけど」
 
レイはサキの片頬を触った。

「本当だったよ。サキがおれを呼んでる匂いだってわかった」
 
ふわっとレイの甘い香りがした。

サキは鼓動が速くなり、真っ赤になった。

「呼んでくれて、うれしかった」
 
サキは膝の上で、両拳を握った。顔が熱い。

恥ずかしさ満載だった。

(匂いでわかるなんて、これじゃあ、レイが好きだって言ってるようなもんじゃないか!)
 
サキは第二性の特殊事情を呪いたくなった。が、はたと思った。
 
レイはさっき、サキのことを自分のオメガと言わなかったか。
 
その意味するところを考える前に、レイはサキに向き直り、唐突に言った。

「おれは、あなたが好きだ」
 
サキの心臓が大きく跳ねた。

時が止まったかのようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

冴えない大学生はイケメン会社役員に溺愛される

椎名サクラ
BL
第10回BL小説大賞 「現代BL賞」をいただきました 読んでくださった皆様、応援くださった皆様、本当にありがとうございます‼️ 失恋した大学生の朔弥は行きつけのバーで会社役員の柾人に声を掛けられそのまま付き合うことに。 デロデロに甘やかされいっぱい愛されるけれど朔弥はそれに不安になる。 甘やかしたい年上攻めと自分に自信のない受けのエッチ多めでデロ甘ラブラブを目指しています。 ※第二章に暴力表現があります、ご注意ください。 ※ムーンライトノベルズに投稿した作品の転載となっております。 ※Rシーンのある話数には☆マークがついてます。

処理中です...