オメガになってみたんだが

琉希

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第57話

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店内の客はサキと立石だけだった。

マスターは洗い物をし、食器を拭いている。BGMが緩やかな弦楽器の音色に変わった。

「久我が生粋のアルファだってのは知ってるな?」
 
声を低めた立石に、サキはうなずいた。

「久我は幼稚舎から祥華に入ってて、名門久我家の子がいるって有名だったんだ。中等部から入ったおれらもすぐにその噂を聞いたよ」
 
立石はコーヒーをひとくち飲んだ。

「祥華では中等部で第二性ごとにクラス分けされるんだ。オメガが初めてのヒートを迎えるのは中等部からが多いからな。授業中ヒートを起こしてもクラス分けされてたら安心だろ。性教育も第二性の話をクラスメートで共有できるから、悩みを打ち明けやすい。そういう特徴の学校なんだけど、でも、誰がオメガなのかわかるってことでもある」
 
立石は一度言葉を切った。

「久我は学園内でオメガとヤりまくってたんだ」

サキは目を剥いた。

「久我は周到でさ。ヒートを起こしたオメガを相手にしてたけど、オメガのフェロモンにやられて襲ったわけじゃない。ほぼ合意だったんだ」
 
立石は悩まし気な表情を浮かべた。

「おまえもオメガだからわかると思うけど、ヒートを起こしたときに近くにアルファがいたら、なんとかして欲しいって思うだろ」
 
その言葉にどきっとした。サキの脳裏にレイが浮かんだ。

「だから、オメガクラスの奴はあいつに鎮めてもらってよかったって言ってる奴もいた。しかも生粋のアルファだから、関係が持てて喜んでるやつもいたくらいなんだ」
 
立石は複雑な顔をして言った。

「けど、みんながみんな、そういう奴ばかりじゃない。アルファのフェロモンに抗えなくて、仕方なく抱かれた奴もいるんだ。でも、そういう声ってなかなか上げられないだろ。クラスの仲間内で話す程度だった。中等部のクラスでずっとそんな話をしてたんだけどな。高等部に上がったときにレイが言ったんだ。なんか、おかしくないかって」
 
サキは首をかしげた。なぜそこにアルファのレイが出て来るんだと思ったが、立石は続けていた。

「そんなに久我の前でだけ、発情するものなのかって。おれもレイも高等部に上がっても、まだヒートを迎えてなかったから、そこんとこがわからなくて。それで、何人かに訊いてみたんだ。どういう風に久我の前でヒートを起こしたのかって。そしたら、久我のフェロモンを嗅いで誘発されたって」
 
サキはハッとした。

「まさか」

「そう。久我はフェロモン抑制剤を飲んでなかったんだ。で、オメガに近づいた」

サキは舌打ちしたくなった。
 
アルファは日常的にオメガを惹きつけてしまうフェロモンを出しているという。

第二性がアルファだと認定されたときから、フェロモンを抑制するための薬を飲む義務があった。

それを知ったのはレイがよく薬を飲んでいたので、気になって何の薬か訊いてみたときに教えてもらったのだ。

オメガをむやみに発情させないために必要なことだというのに。

「学校で急にヒートを起こしてパニックになってるところを久我に鎮めてやるって言われたら、合意するよな」
 
立石の苦々しい言葉にサキはうなずくしかなかった。自分も近くにいるアルファのレイに鎮めてほしいと何度も思ったからだ。立石はサキの顔を見た。

「けど、それを知ったレイは久我を許せないと言って、クラスの奴がいなかったりすると授業中でも探しに行って、久我との行為を止めてたんだ」
 
サキはそこで何故レイがまた出てくるのか、と再び疑問に思った。

サキが口を開きかけたとき、立石の携帯がブルと震えた。
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