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第24話
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「久我さんだっけ? おれに何の用ですか」
サキがあごを引くと、久我は口元の笑みを深くした。嫌な笑い方だ。
「おまえに訊きたいことがあったんだが」
久我は流し目でレイに視線を送った。
「霧島は、いない方がいいんじゃないか?」
「レイに知られてまずいことなんて、ありませんから」
間髪入れずに返すと、久我は面白そうに口を歪めた。クッと肩を揺らし「まあ、いい」とひとりごちた。
「ソフィアを辞めたんだってな」
「!」
サキは表情を険しくした。
「だから?」
言うと、久我はねっとりと笑みを浮かべた。
「客に腰振って荒稼ぎしてたのになあ」
遠巻きに通り過ぎようとしていた男子学生が、ぎょっとしたように振り向いた。
サキは久我をにらみつけた。レイを掴んだ手に自然と力が入る。
「嘘を言うな。おれは店ではカウンターから出ないようにしてた。客の間でも有名な話だ」
思い出したくもないが、サキを押し倒した客の大河内が言っていた。
サキは、はったりをかました。すると久我は肩をすくめた。
「なんだ、そこは覚えてんのか。記憶喪失らしいが、どこまで覚えてんだ?」
サキは試されたことに、むかっ腹が立った。聞こえないように舌打ちし、目を眇めた。
「話はそれだけですか」
「いや、なんでソフィアを辞めたのかと思ってな」
「あんたに関係ないだろ」
久我はくっくと喉を鳴らした。サキが答えるたびに、愉快そうに肩を揺らす。
サキは、こいつは嫌いだ、と思った。取り合うほどイラつくなら、去るのみだ。
「行こう」
棒立ちになっているレイの腕を引き、久我の横を通り過ぎようとした。そのとき、呼び止めるように声が掛かった。
「関係ならある」
サキは足を止め、胡乱げに久我を見た。
「たしかに、サキは客の指名を受けてもカウンターからは出なかった」
顔だけ向けると、久我は勝ち誇ったように笑っていた。
「けどな。おれが呼んだときだけは、出てきてたんだよ」
「嘘だ」
「嘘じゃない。霧島に訊いてみろよ」
久我は顎でレイを示した。レイは口を真一文字に結んでいた。その表情に、本当なのかと、内心動揺した。サキは掴んだままのレイの腕を握り直した。
「そうだとしても」
サキは語調を強めた。
「おれはあの店を辞めたんだ。あんたとも、もう関係ない」
吐き捨て、別館に足を向けた。昼時の食堂に向かう人混みに紛れる。
レイは黙ったまま、歩調を合わせてくれた。ずんずん歩いていると、背後で久我が声を大きくした。
「サキ。おまえいつまで霧島と付き合うつもりだ」
通りすがりの学生たちの視線が二人に刺さった。
サキがあごを引くと、久我は口元の笑みを深くした。嫌な笑い方だ。
「おまえに訊きたいことがあったんだが」
久我は流し目でレイに視線を送った。
「霧島は、いない方がいいんじゃないか?」
「レイに知られてまずいことなんて、ありませんから」
間髪入れずに返すと、久我は面白そうに口を歪めた。クッと肩を揺らし「まあ、いい」とひとりごちた。
「ソフィアを辞めたんだってな」
「!」
サキは表情を険しくした。
「だから?」
言うと、久我はねっとりと笑みを浮かべた。
「客に腰振って荒稼ぎしてたのになあ」
遠巻きに通り過ぎようとしていた男子学生が、ぎょっとしたように振り向いた。
サキは久我をにらみつけた。レイを掴んだ手に自然と力が入る。
「嘘を言うな。おれは店ではカウンターから出ないようにしてた。客の間でも有名な話だ」
思い出したくもないが、サキを押し倒した客の大河内が言っていた。
サキは、はったりをかました。すると久我は肩をすくめた。
「なんだ、そこは覚えてんのか。記憶喪失らしいが、どこまで覚えてんだ?」
サキは試されたことに、むかっ腹が立った。聞こえないように舌打ちし、目を眇めた。
「話はそれだけですか」
「いや、なんでソフィアを辞めたのかと思ってな」
「あんたに関係ないだろ」
久我はくっくと喉を鳴らした。サキが答えるたびに、愉快そうに肩を揺らす。
サキは、こいつは嫌いだ、と思った。取り合うほどイラつくなら、去るのみだ。
「行こう」
棒立ちになっているレイの腕を引き、久我の横を通り過ぎようとした。そのとき、呼び止めるように声が掛かった。
「関係ならある」
サキは足を止め、胡乱げに久我を見た。
「たしかに、サキは客の指名を受けてもカウンターからは出なかった」
顔だけ向けると、久我は勝ち誇ったように笑っていた。
「けどな。おれが呼んだときだけは、出てきてたんだよ」
「嘘だ」
「嘘じゃない。霧島に訊いてみろよ」
久我は顎でレイを示した。レイは口を真一文字に結んでいた。その表情に、本当なのかと、内心動揺した。サキは掴んだままのレイの腕を握り直した。
「そうだとしても」
サキは語調を強めた。
「おれはあの店を辞めたんだ。あんたとも、もう関係ない」
吐き捨て、別館に足を向けた。昼時の食堂に向かう人混みに紛れる。
レイは黙ったまま、歩調を合わせてくれた。ずんずん歩いていると、背後で久我が声を大きくした。
「サキ。おまえいつまで霧島と付き合うつもりだ」
通りすがりの学生たちの視線が二人に刺さった。
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