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第46話『採取へ』
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寒い、寒いと散々おどされ、防寒対策をしっかりしてきたというのに「荷物多すぎだろ」とひどい一言をレヴィンはくらっていた。
「モーリスさんは過保護だな」
あきれたようなセ台詞とは反対にその横顔は優しい。
クオンは自分の荷物を背負った。いつもより一回り大きな荷物のレヴィンと、いつもレヴィンが背負っているくらいの荷物のクオンは、家の裏手から山に入った。早朝でもないのに鳥のさえずりがけたたましい。
夏に魚釣りをした川があるが、そちらには下りずに、さらに先に行く。
暗くなる前に自生地に着きたいのか、朝からクオンの歩みは速かった。
狭い道を後に続きながらレヴィンは訊いた。
「幽延草というのは何に効くんだ?」
野宿をしてまで取りに行くわけだから、効能は気になるところだ。
「大体のことには効くな。痛み止めにもなるし、熱も下げる。咳も止めるし、腹の調子も良くなるし、眩暈も治るみたいだ。グラハム先生は心臓の病にも効いているようだって言ってたな」
レヴィンは軽く目を見張った。
「それは万能薬だな」
と、感心して言うと、
「……万能ってわけじゃない」
とクオンは沈んだ声で言った。それ以降、口数が少なくなった。
何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか、と不安になったとき、クオンが果実をもぎって、レヴィンに寄越した。
「うまいぞ」
と、いつもの調子で言うので、レヴィンはホッとした。
気落ちしたように感じたのは気のせいだったのかもしれない。山道が険しかったので、しゃべらなかっただけだろう。
レヴィンは橙色の果実を口にした。熟れた山の果実は甘くて、疲れた体に力をくれた。
レヴィンも似たような橙色の果実を採ってみる。食べられるか訊いてみたら「食べてみろ」と言うので食べてみたら、渋くて吐き出した。
渋いことを知っていたのだろう、クオンは笑っていた。
彼はたまに子供みたいなことをする。「ひどいな」と文句を言うと、口直しに果汁たっぷりの果実をくれた。だがそれも楽しかった。
細く狭い崖道を進んでいたとき、レヴィンは小石を踏んで滑りかかった。ひやっとして、息をつくと、振り返った
クオンも安堵した表情を浮かべ、「気をつけろよ」と言った。
神経を尖らせた崖道が終わると、クオンが「急ぐぞ」と足を速めた。
陽が傾きかけている。太陽が沈んでしまったら完全な暗闇になり、動けなくなってしまう。クオンの焦燥を感じながら奥へ進んで行った。
すると突然、目の前が開けた。湖が広がっている。湖面は夕闇の空と同じ色をしている。
クオンが「間に合った」と言った。どうやら到着したようだ。宵闇が訪れる際どいところだった。クオンは辺りを見回し、夜営をする場所を決めた。
湖畔から少し離れた山林の中だ。
レヴィンが荷物を下ろすと、急いで薪を集めるように言われた。集めた枝を持っていくと、近くに黒い炭があることに気が付いた。
「モーリスさんは過保護だな」
あきれたようなセ台詞とは反対にその横顔は優しい。
クオンは自分の荷物を背負った。いつもより一回り大きな荷物のレヴィンと、いつもレヴィンが背負っているくらいの荷物のクオンは、家の裏手から山に入った。早朝でもないのに鳥のさえずりがけたたましい。
夏に魚釣りをした川があるが、そちらには下りずに、さらに先に行く。
暗くなる前に自生地に着きたいのか、朝からクオンの歩みは速かった。
狭い道を後に続きながらレヴィンは訊いた。
「幽延草というのは何に効くんだ?」
野宿をしてまで取りに行くわけだから、効能は気になるところだ。
「大体のことには効くな。痛み止めにもなるし、熱も下げる。咳も止めるし、腹の調子も良くなるし、眩暈も治るみたいだ。グラハム先生は心臓の病にも効いているようだって言ってたな」
レヴィンは軽く目を見張った。
「それは万能薬だな」
と、感心して言うと、
「……万能ってわけじゃない」
とクオンは沈んだ声で言った。それ以降、口数が少なくなった。
何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか、と不安になったとき、クオンが果実をもぎって、レヴィンに寄越した。
「うまいぞ」
と、いつもの調子で言うので、レヴィンはホッとした。
気落ちしたように感じたのは気のせいだったのかもしれない。山道が険しかったので、しゃべらなかっただけだろう。
レヴィンは橙色の果実を口にした。熟れた山の果実は甘くて、疲れた体に力をくれた。
レヴィンも似たような橙色の果実を採ってみる。食べられるか訊いてみたら「食べてみろ」と言うので食べてみたら、渋くて吐き出した。
渋いことを知っていたのだろう、クオンは笑っていた。
彼はたまに子供みたいなことをする。「ひどいな」と文句を言うと、口直しに果汁たっぷりの果実をくれた。だがそれも楽しかった。
細く狭い崖道を進んでいたとき、レヴィンは小石を踏んで滑りかかった。ひやっとして、息をつくと、振り返った
クオンも安堵した表情を浮かべ、「気をつけろよ」と言った。
神経を尖らせた崖道が終わると、クオンが「急ぐぞ」と足を速めた。
陽が傾きかけている。太陽が沈んでしまったら完全な暗闇になり、動けなくなってしまう。クオンの焦燥を感じながら奥へ進んで行った。
すると突然、目の前が開けた。湖が広がっている。湖面は夕闇の空と同じ色をしている。
クオンが「間に合った」と言った。どうやら到着したようだ。宵闇が訪れる際どいところだった。クオンは辺りを見回し、夜営をする場所を決めた。
湖畔から少し離れた山林の中だ。
レヴィンが荷物を下ろすと、急いで薪を集めるように言われた。集めた枝を持っていくと、近くに黒い炭があることに気が付いた。
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