37 / 89
第37話『二人三脚』
しおりを挟む
樹木も色付き始め、秋らしさを感じるようになった頃、商人のフレディから紅茶が届いた。
クオンは日々新作づくりに専念している。
その間、薬草茶作りはレヴィンがやっていた。クオンの薬草茶を待っている人は多い。これを疎かにはできないため、レヴィンに作ってほしいと言われた。
ところがクオンが作っている薬草茶の半分ほどしかレヴィンは作らせてもらえなかった。簡単に混ぜるものだけだった。もっと教えてほしいと言ったら、毒草を使うからダメだと言われた。これには驚いた。
「毒も合わせ方によって、薬になるんだ。しかも結構効きが良い。でも量や混ぜる薬草を間違えたら、死ぬことだってある。神経遣うんだよ」
クオンが調合中に声を掛けられるのを嫌がるのはそういう理由からしい。
新作紅茶づくりが始まって、レヴィンは朝からクオンの家に来ていた。
朝は冷え込むようになったので、近頃はフード付きの旅装束のコートを着るようになった。防寒にちょうどよい。
この服を見ると、クオンと出会った頃のことを思い出す。あの頃はフードをかぶっていたが、今はかぶらなくなった。隠していた朱色の髪は、物珍しそうに見られはするが、それだけだ。今思えば、何をそんなに恐れていたのかと思う。
午前中、クオンは薬草の採取に出かけている。彼が留守の間は前日に作られた紅茶の試飲をしたり、薬草茶の調合をしていた。クオンが帰ってくるといつも通り、薬草を洗って干す。最近は花や果実も増えた。これは紅茶に混ぜるためのもののようだ。
レヴィンには日中、面会を求めてくる人がいたが、モーリスに用件を聞いてもらっている。
夜会もすべて断った。モーリスも三か月だけなら、と理解を示してくれた。昼食も毎日二人分、持たせてくれるできた家令だった。
二人三脚の作業がはじまって、一か月。秋も深まり始めた頃、ついに納得のいくものができた。試飲したレヴィンは軽く目を見張った。
「これはすごくいいんじゃないか」
「ほんとか⁉」
「ああ。花のように甘い香りがするのに、飲むと渋い紅茶の味だ。これなら買いたい」
試飲をはじめたレヴィンが初めて「良い」と思えるものだった。売りに出すものだ。レヴィンは妥協しなかった。その自分が太鼓判を押したのだ。
クオンは大層うれしそうに笑った。だが、ミルクを入れたものを試してみないと完成とはいえない。貴族の大半は紅茶にミルクを入れるからだ。
ミルクは明日、レヴィンが持って来ることになった。
クオンは日々新作づくりに専念している。
その間、薬草茶作りはレヴィンがやっていた。クオンの薬草茶を待っている人は多い。これを疎かにはできないため、レヴィンに作ってほしいと言われた。
ところがクオンが作っている薬草茶の半分ほどしかレヴィンは作らせてもらえなかった。簡単に混ぜるものだけだった。もっと教えてほしいと言ったら、毒草を使うからダメだと言われた。これには驚いた。
「毒も合わせ方によって、薬になるんだ。しかも結構効きが良い。でも量や混ぜる薬草を間違えたら、死ぬことだってある。神経遣うんだよ」
クオンが調合中に声を掛けられるのを嫌がるのはそういう理由からしい。
新作紅茶づくりが始まって、レヴィンは朝からクオンの家に来ていた。
朝は冷え込むようになったので、近頃はフード付きの旅装束のコートを着るようになった。防寒にちょうどよい。
この服を見ると、クオンと出会った頃のことを思い出す。あの頃はフードをかぶっていたが、今はかぶらなくなった。隠していた朱色の髪は、物珍しそうに見られはするが、それだけだ。今思えば、何をそんなに恐れていたのかと思う。
午前中、クオンは薬草の採取に出かけている。彼が留守の間は前日に作られた紅茶の試飲をしたり、薬草茶の調合をしていた。クオンが帰ってくるといつも通り、薬草を洗って干す。最近は花や果実も増えた。これは紅茶に混ぜるためのもののようだ。
レヴィンには日中、面会を求めてくる人がいたが、モーリスに用件を聞いてもらっている。
夜会もすべて断った。モーリスも三か月だけなら、と理解を示してくれた。昼食も毎日二人分、持たせてくれるできた家令だった。
二人三脚の作業がはじまって、一か月。秋も深まり始めた頃、ついに納得のいくものができた。試飲したレヴィンは軽く目を見張った。
「これはすごくいいんじゃないか」
「ほんとか⁉」
「ああ。花のように甘い香りがするのに、飲むと渋い紅茶の味だ。これなら買いたい」
試飲をはじめたレヴィンが初めて「良い」と思えるものだった。売りに出すものだ。レヴィンは妥協しなかった。その自分が太鼓判を押したのだ。
クオンは大層うれしそうに笑った。だが、ミルクを入れたものを試してみないと完成とはいえない。貴族の大半は紅茶にミルクを入れるからだ。
ミルクは明日、レヴィンが持って来ることになった。
1
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
焦る獣の妻問い綺譚
晦リリ
BL
白重は焦っていた。十二年ごとに一年を守護する干支神に選ばれたというのに、嫁がいない。方々を探し回るも、なかなか相手が見つからない。そんななか、雪を避けて忍び込んだ蔵で優しい冷たい手と出会う。
※番外編でR18を含む予定です(更新次第R表記を変更します)。
※ムーンライトノベルズにも掲載中
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
溺愛
papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。
※やってないです。
※オメガバースではないです。
【リクエストがあれば執筆します。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる