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第12話『リウとの出会い』
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クオンと知り合うことができた翌日、レヴィンはレイトンの街の開門と同時に南門を出た。張り切って林道を歩く。出て行く人よりも入ってくる人の方が多い。その大半が近隣の村から朝市で食料品を買うためだ。人の流れに逆らってレヴィンはクオンの家に向かう。
二又の道を左に曲がり、昨日ナイフで目印をつけた木を探した。幹に横傷が入っているそれはすぐに見つかったが、レヴィンはその場に立ち止まった。
ロッドはなぜこの場所がわかるのか、考えてみる。
自分がつけた切り跡以外の傷はない。周辺を眺めていると、この木だけ種類が違うことに気がついた。
細く長い、秋に色づく葉の木が並ぶ中、目印の木だけは幹が白く、他の木より太かった。
納得し、昨日と同じように林道を外れて森に入る。厄介だったのは、石のある広場から草むらに入ってからだ。進入を阻むかのように枝葉が跳ね返り、顔にあたる。ひとりで進んでいるとずいぶん遠くに感じた。やっとの思いで抜け出し、クオンの家に辿り着いた。
森の中にひっそりとたたずむ家。しかし寂し気に見えないのは、手入れされた畑があるからだろうか。
レヴィンは木造家屋に近づき、玄関扉を叩いてみた。反応がない。そこで思い切って名を呼んだ。
「クオン!」
玄関前でしばらく待ってみたが、やはり反応がない。扉に手をかけると、鍵はかかっていなかった。そっと覗いてみるが、人の気配はしない。出かけているようだった。
レヴィンはため息をつき、帰ってくるのを待つことにした。
家の周りを見回すと、畑の横に背もたれにちょうど良い木があった。フードを取り、もたれかかって片膝を立てた。
陽光が柔らかい。鳥の声を聴きながら、レヴィンは目を閉じた。
五年前を思い返していた。
こうやって木の下で本を読みながら、リウが来るのを待っていた。
宮廷にいた頃は肩身が狭かった。第六王子として生まれ育てられたが、母親の身分は低かった。富豪の屋敷で下女をしていた母は、その美貌が噂になり、国王の目に留まった。母は自分よりもさらに燃えるような紅い髪をしており、白い肌と相まって美しかった。
国王は夢中になり、後宮に招き、囲った。
母は正妃や貴族である愛妾たちの妬みを買っていたようで、幼いレヴィンの手をひき、彼女らの傍を通るときは、いつも嘲笑を受けていた。やがて、母は病にかかり、レヴィンが七歳のときに亡くなってしまった。
レヴィンの髪は母の紅い髪と国王の黄金の髪が混ざり、奇妙な朱色をしていた。
下女の子は目障りなのか、不吉な色だ、下賤の子だと心無い言葉を浴びせられた。父である国王は母には興味を持っていたが、自分には目をかけてくれなかった。
五人の兄と三人の姉、二人の妹がいるが、身分でいえば自分が一番低い。兄弟のあたりは強かった。それでも国王の実子に違いはない。王位継承権は与えられ、教育は受けさせられた。
レヴィンは勉強が好きだった。知らない世界を学ぶことが面白かった。教育係に質問をすると、とても喜んでくれた。褒めてくれるのがうれしくて、たくさん勉強していると、そのうち兄たちから嫌がらせを受けるようになった。
体の大きな兄たちから肩をぶつけられたり、足を引っかけられて転ぶことなど、日常茶飯事だった。嘲笑を浴び、本を踏まれて泣きながら庭の隅に逃げていた。
優しく抱き締めてくれる母はもういなかった。
兄たちの影に潜むように生きていた、そんなときだった。
いつものように彼らから隠れていたところに、見知らぬ子がひょっこり現れたのだ。
黒い髪で黒い瞳をしていた。くりくりした大きな目をしていたが、顔立ちから異人だと思った。それがリウだった。
二又の道を左に曲がり、昨日ナイフで目印をつけた木を探した。幹に横傷が入っているそれはすぐに見つかったが、レヴィンはその場に立ち止まった。
ロッドはなぜこの場所がわかるのか、考えてみる。
自分がつけた切り跡以外の傷はない。周辺を眺めていると、この木だけ種類が違うことに気がついた。
細く長い、秋に色づく葉の木が並ぶ中、目印の木だけは幹が白く、他の木より太かった。
納得し、昨日と同じように林道を外れて森に入る。厄介だったのは、石のある広場から草むらに入ってからだ。進入を阻むかのように枝葉が跳ね返り、顔にあたる。ひとりで進んでいるとずいぶん遠くに感じた。やっとの思いで抜け出し、クオンの家に辿り着いた。
森の中にひっそりとたたずむ家。しかし寂し気に見えないのは、手入れされた畑があるからだろうか。
レヴィンは木造家屋に近づき、玄関扉を叩いてみた。反応がない。そこで思い切って名を呼んだ。
「クオン!」
玄関前でしばらく待ってみたが、やはり反応がない。扉に手をかけると、鍵はかかっていなかった。そっと覗いてみるが、人の気配はしない。出かけているようだった。
レヴィンはため息をつき、帰ってくるのを待つことにした。
家の周りを見回すと、畑の横に背もたれにちょうど良い木があった。フードを取り、もたれかかって片膝を立てた。
陽光が柔らかい。鳥の声を聴きながら、レヴィンは目を閉じた。
五年前を思い返していた。
こうやって木の下で本を読みながら、リウが来るのを待っていた。
宮廷にいた頃は肩身が狭かった。第六王子として生まれ育てられたが、母親の身分は低かった。富豪の屋敷で下女をしていた母は、その美貌が噂になり、国王の目に留まった。母は自分よりもさらに燃えるような紅い髪をしており、白い肌と相まって美しかった。
国王は夢中になり、後宮に招き、囲った。
母は正妃や貴族である愛妾たちの妬みを買っていたようで、幼いレヴィンの手をひき、彼女らの傍を通るときは、いつも嘲笑を受けていた。やがて、母は病にかかり、レヴィンが七歳のときに亡くなってしまった。
レヴィンの髪は母の紅い髪と国王の黄金の髪が混ざり、奇妙な朱色をしていた。
下女の子は目障りなのか、不吉な色だ、下賤の子だと心無い言葉を浴びせられた。父である国王は母には興味を持っていたが、自分には目をかけてくれなかった。
五人の兄と三人の姉、二人の妹がいるが、身分でいえば自分が一番低い。兄弟のあたりは強かった。それでも国王の実子に違いはない。王位継承権は与えられ、教育は受けさせられた。
レヴィンは勉強が好きだった。知らない世界を学ぶことが面白かった。教育係に質問をすると、とても喜んでくれた。褒めてくれるのがうれしくて、たくさん勉強していると、そのうち兄たちから嫌がらせを受けるようになった。
体の大きな兄たちから肩をぶつけられたり、足を引っかけられて転ぶことなど、日常茶飯事だった。嘲笑を浴び、本を踏まれて泣きながら庭の隅に逃げていた。
優しく抱き締めてくれる母はもういなかった。
兄たちの影に潜むように生きていた、そんなときだった。
いつものように彼らから隠れていたところに、見知らぬ子がひょっこり現れたのだ。
黒い髪で黒い瞳をしていた。くりくりした大きな目をしていたが、顔立ちから異人だと思った。それがリウだった。
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