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第5話『クオン』  

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 陽当りの悪い店内の窓から、わずかに陽光が射し込んでいる。

「御友人の名前は、なんとおっしゃるんですか」

 店主はレヴィンの素性を察したようで、言葉遣いが丁寧になった。貴族と思われたか、使用人と思われたか、今はどちらでもかまわない。

 レヴィンは顔を半分隠した状態で、

「リウです」

と、答えた。それを聞いた店主は「あー」と言いながら禿げ上がった頭をなでた。

「どうやら、お客様の御友人ではないようです」

 眉を寄せて、いかにも残念そうに言った。

「あいつの名前は『クオン』ですから」

 クオン、とレヴィンは口の中でつぶやいた。
 店主が答えてくれそうなので、レヴィンはさらに訊いた。

「彼は昔からこちらに来ているのですか」
「いや、昔馴染みというわけでも……」

 店主は口ごもったが、レヴィンがじっと待つので、観念したようだった。

「二年くらい前から来てますよ」

 はげた頭をなでながら、首筋をなでた。

 貴族という身分が功を奏したようだ。隠し立てして、後々面倒になることを避けたのかもしれない。これ幸いと、レヴィンは問いを重ねた。

「よく来るのですか」
「二か月に一度くらいですね」
「彼がどこに住んでいるか、ご存知ないですか」

 レヴィンは先ほど店主が答えてくれなかった質問をもう一度してみた。しかし、店主は首を振る。

「南門を出た先のどこかの村のようだが、詳しくは知らないんですよ」

 嘘をついているようには見えなかった。レヴィンは内心、ため息をついた。

 これ以上は何もわからないだろう。

 礼を言い、レヴィンが踵を返したとき、「お待ちを」と呼び止められた。

「せっかくだから、クオンが作った香草茶でも持っていきませんか」

 振り返ると、店主がカウンターから出てきた。
 並んである瓶のひとつを開け、茶葉を紙に包みだした。

「あいつが作るお茶は、ご婦人方に人気でして。これとか、すぐに売り切れる」

 差し出された包みに、レヴィンは頭を振った。

「申し訳ない。今日は持ち合わせがないので」

 実は財布を持っていなかった。忘れたのではなく、持ち歩く習慣がなかった。
 断ったが、店主は構わず包みを押し付けた。

「お代はいりません。気に入ったら次は買ってください」

 大工の棟梁を思わせる迫力のある顔がにっこりとする。
 店主の厚意を無下にはできないと思ったレヴィンは、包みを受け取った。フードの端を少し上げて、軽く頭を下げる。顔は見えたはずだ。

 店主は少し驚いた顔をしていた。

 フードを取ることはできなかったが、レヴィンなりの誠意を見せ、店を出た。
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