【2話完結】私が愛した結末

donguri

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後編 雄太さん

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話を戻すが、テレビっ子だった私は、毎日好きなアイドルたちを見るたびに、自分の悲惨な
現実を少しだけ忘れる事が出来た、唯一の気持ちの拠り所と言っても過言では無い。
アイドルのグループ名、曲名などは忘れてしまったが、好きなアイドルが"雄太"と言う人だけは覚えている。

短い黒髪に、童顔、誰も引き寄せないような目つきが悪い瞳に、細身の体形。明るい性格では、無い。
想像していたアイドルとは、ほど遠い人間だ。
特別顔立ちが良いと言う訳でも無く、誰よりも目立つ特技を持っている訳でも無い。
でも彼は、グループのリーダーでありメンバーからも尊敬されている。
ファンからも愛されている。
どこか私と似ている彼が、好きだった。憧れでもあった。

「おばあちゃん!このドラマ見たいからチャンネル変えないで!」

「好きな俳優さんでもいるのかい?」

「うん!雄太さん!」

彼は、アイドルという枠に留まらず俳優としても輝き始めた。
恋愛ドラマで演技が抜擢され、新人男優賞を取るなど、事は順調に進み映画撮影も予定されていたとニュースで聞いた。

彼は、人が見えて無い所で努力し夢を掴んだ。

だが、突如として雄太さんは両親と妹と同じ不慮の事故で亡くなった。
新聞一面に取り上げられ、報道にもなった。

雄太さんが好きだった。

好きで好きで溜まらなく愛おしいと感じた。

でも、努力で必死に磨きあげた雄太と言う輝きは、犯人によって一瞬で奪われた。
犯人は、警察に捕まらず逃走を好き勝手し自殺した。

私は、いつもそうだ、愛した物は一瞬で命が尽きる。
初めて買ってもらったおもちゃも、家族も友人も思い出も、そして私が愛した"雄太さん"もすべて一瞬で消えて行った。

そして私の人生もすべて消えて行った。

これは、すべて過去の話であって現在の話では無い。
もうこの世界に、雄太を愛した木之元優香という人間は、存在していない。

努力で必死に磨きあげた”雄太”と言う輝きは、
私の手によって一瞬で奪ってしまった。
私は、警察に捕まらず逃走を好き勝手した
挙句、部屋で太い紐を首に通し自殺した。

私は、無理に自分を隠さず、全うに人生を終え
この世から消えた。

雄太も両親も妹も友人もみんな"死"という形で
私の愛を受け止めてくれた。

自分で選んだ結末、きっとこれで良かった。

私は、微笑みながら、ピクリとも動かない雄太にこう言った。

“雄太さん、私が愛してあげる。これからも
ずっと”

私の側で寝ていてね。



※この物語はフィクションです。
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