《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

監獄烈車へようこそ⑫

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 『葉…っ』酸素が随分と薄いらしい。『葉…っ』。二酸化炭素はその逆ベクトル。緊縛師はひととおりの役割を終えた吊革への緊縛を解く。先ずは半結びを、最終部位の結着が解けぬ防御線の結びを解く。『葉…っ』。続いて解絡(かいらく)されるのは本結び。とても手慣れた手捌き。右が上・左が下から開始された結目(ノット)は否定(ノット)の水流速(ノット)を加速させる湯沸かしポッド。

 『ああ…っ』同時進行形で美食家(グルメ)が左耳朶に噛み付いた。『甘し。甘し。甘露よりも。マヌカハニーよりも。』そのやうに告げた言葉は外耳に纏わりつき過牛を振動させ、鼓膜に淫靡な涎(よだれ)を到達させる。

 反対面には女王様。人を嬲(なぶ)るのが大好きで、特に同性を嫐(なぶ)るのが大好きな助奥(じょおう)なる様(さま)。彼女は美姫の臍下丹田部分までスカートを捲り上げてみる。純白無垢な足。というよりも脚が露(あらわ)になる。同じく純白の下着の色を全乗員が確認したところで下方へ戻す所作。そして捲り上げる。そして戻す。巧みな上下動に乗客のうち「男性性」に属する者は勃起ていたし、女は下腿に血流のリズムを感じ、又座が大胆に濡れてしまい座席(シート)で嫉妬を拭くような仕草。女性を女性たらしめる使途不明な液体は流れ、妙な匂いが大きな密室を包み込む。

 緊縛師は多重巻結(たじゅうまきむす)びを解き美姫の両手を開放する。『あ……っつ』『さて』そのように交わされた言葉の裾野で、その手首は素早く腰後ろへ回され所謂「後手縛り」へと変換される。

 彼女には右手が上で左手が下の後手縛りが良くお似合いだ。無駄縄を胸の膨らみの上方に一本。下方に一本、追縛すれば被虐妻の御座り姿勢(アーサナ)の完成に半歩近づくのを感じて欲しい。飼い猫にしてやる。飼い猫にしてやるぜ。誰も彼もが不可解な表情から涎(よだれ)を垂らすのは・紫の煙が車内に漂っているからだ。監獄烈車へようこそ。監獄烈車へようこそ。皆様ようこそ。監獄烈車へようこそ。

 あいつは云っていたぜ。『金の力を舐め過ぎだ。福利は20世紀最大の発明だとかの天才科学者も太鼓判を押していただろう。』『更に云わせてもらう。豊かさの定義を自分に持たぬ者達が多すぎる。そして。その者達は総じて急ぎ足で金持ちになろうとしている。落とし穴が其処彼処(そこかしこ)に掘られていることも知らずに。』至極真っ当な意見に首を振る瞑想探求者。

 あいつは云っていたぜ。『お前のことは認めている。少なくとも精神世界の住人としては。何事に於いても「禅的思考」は必要になってくるんだ。マネーサイコロジーの最上級は禅に似たりと語る百万長者は多い。』ファイナンスは現実世界に於いて、木造家屋の東西南北に居住する住民のような働きをしている。

 あいつは最期にこうも云っていた。『結局のところ「どう使用するか」に充分な注意を払うべきだ。悪雲を払う為に使用するも善し、どんな盾をも両断する日本刀をこしらえるも善し。どんな天候にも濡れぬ傘(アンブレラ)を盾として悪夢(ナイトメア)を遮断するも善し。』

 美姫は床に膝を着く。ニーリング・オンの姿勢と後手縛り。あいつが生きていたらこう云うだろうな。『生きる意味なんて考える無駄。本当にそう思うんだ。ファイナンスの世界線から飛び移るのは切り立った三角ビルの突端だ。其処から落ちないようにするには…もっと高いビルの突端に飛び移るしかない。行動心理学を学べば学ぶほど意味が解らなくなってくるんだよ。』『ところで。なあ。この奴隷妻の脚を達磨状態にしてしまえばいいと思うんだがどうだ。その方が時流に相応しいだろう。其処にBETして頂ける輩(やから)が大多数だと思うんだがどうだい。』過去からの提案に拍手喝采。彼の魂に鎮魂歌を捧げておこう。逆質問になるがどうなんだい。高いビルから降りる術は見つからなかったのか。

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