《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

監獄烈車へようこそ⑨

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『にゃあ………ん。』どこかで猫の啼き声が聞こえる。誰かが車内に飼い猫を連れてきているのだろうか。鼻につく獣的な匂いは緊縛された人妻を一段階未熟な華(はな)にする。緊縛師の手捌きに見惚れる一人の男は云う。『私は何でも屋です。頼まれれば何でもやる。溝(どぶ)の中に沈んだ誰かのゴールドを探していたのが昨日。御主人様の靴磨きを一日中していたのが一昨日。隣人に恨みを持つ人から頼まれれば・隣家の屋根によじ登り穴を開けることもする。私は何でも屋です。でも。でも。ああ。でも。今はその気になれない。何故って。こんなにも美しい人妻さんの緊縛ショーを見ることができるのだから。』彼は美姫の左側に立ち・首筋(くびすじ)と呼ばれる部分のうち敏感な部分をひと舐め。『ああ…っ』そう。

 その反応だ。丁寧に反応しないと何でも屋さんに失礼だらう。御客様には従うべきだ。同バスは監獄烈車也。

『にゃあああ…ん』猫が鳴いている。何度か聞こえるその声は・初めての発情期を知った若い雌猫に違いない。声は左から。声は右から。次は前から。そして後ろから。春之熊よりも所在の定まらぬ声。四坊(しぼう)が餌台に「いけないもの」を付帯させてしまったが為・現世のものではなくなった亡霊の声。亡骸が恋に焦がれているのだろう。骸骨が骨の接点を外したがっている。陰国ドリルを右手にとり・設置点を極小とし・北半球に居るのだから右回しでねじねじと何かを挿れてしまえばいいのに。

『にゃあ……っん』どこかで猫が鳴いている。清涼飲料水を飲みつつ・右手にケーキを・甘く白いCAKEを持つ男が云う『私は美食家です。甘いものには特に目がない。マヌカハニーは常に携帯しておりますし・朝食代わりにグラブジャムンを毎日頂く。ルグズナムというものを御存知ありますかな。人間の二元的味覚を全て焼き尽くす程の甘さ・砂糖の22万倍の甘さ・其れを3時の定時菓子として提示させております。しかし。しかし。今はそれらに魅力を感じませんな。世界で最も甘いのは…人妻の喘ぎ声。世界で最も甘いのは…亜の御主人様に飼われることになった新米雌奴隷の股から垂れる蜜。蜜。密(みつ)の蜜。満つる月と欠ける盈(みつる)。早く垂れ流しなさい。美味しい蜜を。早く。』

 そのやうに美食家(グルメ)は告げる。左鎖骨に際どく残ったワンピースの残渣を口で振り解く。そして露(あらわ)になった肌を舐め『…ああっ』美姫から漏れる嗚咽を空気ごと飲み込んで満足そうに頷いた。

『にゃあ…にゃ。にゃあ…にゃあ…。』猫が確かに鳴いている。鉛を飲み込んだような声質は睦み合っている男女のうち女が出すやうな声。丁度・今の・美姫が吐き出したような声だ。

 バスの中央では緊縛之宴。何人もが集結し彼女を取り囲みつつある。『私は女豹と呼ばれる女よ。たくさんのお金を稼いできたわ。どうやって稼いだか教えてあげましょう。監獄烈車の獲物になる人妻さんに。私は。私は。私はね。同性を苛めるのがとっても好きなの。鞭とか。蝋燭とか。お尻いじめとか。首いぢめとか。肩甲骨を懲(こ)らしめるのも好き。それがお金になるんだから不思議よね。…ねえ。…ねえ。貴女はどっち?…ねえ。…ねえ。SADHISTにとことんいぢられて天空に登る素養があるって聞いているんだけれど。ああ。ああ。ぞくぞくしちゃうわ。今までで一番いけないことをしちゃおうかしら。ねえ。ねえ。答えて・よ』

 女豹は黒いバンブー・ブーツで美姫を何度か虐(しいたげ)げる。緊縛師は徐々に上がるボルテージに対し相応しい結びを想像しながら次手を読む。監獄烈車へようこそ。監獄烈車へようこそ。どこかで猫が鳴いている。多分。

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