《瞑想小説 狩人》

美姫の場合

美姫の場合85⃝

：：：：：：：：：：：：：

『起きたら動く』現実を受け止めるには元日を模倣する。同時期の氣持ち。同日の志。綻びはないだろうか。凹凸はないだろうか。内なる氣持ちは略帽の中に埋め込む。カオスヘッジの為の３％を保持するのは重要なことだ。旦那様。山登りが苦手な貴方は途中で失敗したのさ。残念だったな。君の愛妻は種穴となる。

『肌感は』最高だ。茶道及び華道で稼働した美しい仕草。鼠に喰われる様は最高だ。少量の浪風を立てる産毛までも美麗。粗相のない肩甲骨の動き。怒涛のナイフに刻まれる鎖骨。小便まみれの顔面までも上昇気流の中。君の愛妻は蜘蛛の巣に囚われた。

『声色は』そそるぜ。音階は感じれば感じる程に低くなる。無我の境地で悦に浸っているのが良く解る。何処ぞの売女が出すものとは異なる性質。処女膜の破瓜から捻り出される痛声(つうせい)とは異なる性質。『葉…っ』『嫌…嗚呼』早熟になれる素養を無理矢理,引き摺り出すのは楽しき事。この上なし。至上の市場でオレンジベッドに寝かされる女に成りな。

『昼は交感神経優位に』基本だな。街灯が意味を無くし太陽が優位になってゆく。ホルモンバランスが闘争を求めている。逃走する気持ちを排他する。ここ一週間といふもの殆ど眠ることをしなかった。現実の俺の話だ。ナップで少量の回復をしたら限界まで動く。浅眠者は暁を覚えず。賤民舎の赤月は酷い色。琥珀色を台無しにする小説家のパレット。働きには対価が必要だ。メンタルヘルスさえ良好に保つことができれば肉体はその状態に追従してくる。コーザル。アストラル。その上位のものを意識的に操作する。冷静沈着。泰然自若。森に潜む獣のやうに。深海で生きる鮟鱇(あんこう)のやうに。

『指先は』見てみろよ。鼠の歯型が幾つも残っているだろう。少量の血液が付着しているだろう。上等な絹のやうな素肌が。さ。このやうにされるのは悲しいことだ。そして美しいことだ。上層の傷を与えてやる。噛傷を縫い合わせてやる。それを繰り返してやる。接着剤は此の手にあるのでな。何度でも。何度でも。

『眠りとは』もう一つの現実の世界だ。人は眠る為に生きていると誰かが云っていたが…。概ね間違いではないという肌感を持つ。眠りで何が回復しているのだろう。眠りは何と繋がっているのだろう。意識をはっきりさせつつ眠りを獲得することができれば謎が解けるのだろうか。俺の今の興味は其処に在る。何日生きるのか≪よりも≪何度眠るのか。更に云えば何の為に眠るのか。逆転思考も時にはいいだろう。

『逆も真なり』『虐も芯なり』痛む心を歓迎したまへよ。痛む身体を歓迎したまへよ。君が楽をしている分/誰かが辛酸を舐めているのを知り給えよ。君が道楽に興じている時間と反比例する右肩上がりの方程式。魂は呪縛とともに病んでいくだろう。そう。そう。云っておくが「マインドフルネスを極めたならばペインフルネスをも知るべきだ」違うか。違うか。違うのか。

『成長』老いも若きも聞いておけ。耳の穴。鼓膜にこびりついた一種の黴(かび)を削ぎ落として聞いておけ。身体は何もかも知っているぞ。何が本当の事なのか。何が嘘で誰が嘘をついているのか。身体は何もかも知っているぞ。ミスタイピングから始まる本当の喜びを。諸行無常。諸法無我。一切皆苦。涅槃寂静。何とも素晴らしい言葉達の乱舞。卍文字。東へ向かおう。寺子屋で学ぼう。何時でも成長を手に入れることができるのだから。嗚呼。此の世は素晴らしい。

『その瞳には』涙。涙。涙の粒。愛妻は哀妻となり開催された狂祭の餌食。『嗚呼//嗚呼//嗚呼』何度も慟哭しながら震えているぜ。胸を御覧よ。屹立しているだろう。ワンピース越しに股座を御覧よ。濡れているだろう。濡れているだろう。鼠は気づいているだろうな。其処に挿れるべき穴があることを。這入るべき穴があることを。

：：：：：：：：：：