《瞑想小説 狩人》

瞑想

文字の大きさ
上 下
528 / 600
美姫の場合

美姫の場合82⃝

しおりを挟む

:::::::::::

 脆弱な静寂。同雰囲気に囚われた巫女の囁きを聴く。『いいじゃあない。私は玩具。只の玩具。どんな性的趣向にも応える玩具。淫猥な玩具。』溜息ひとつ。これは私じゃない。『いいじゃあない。私は患苦。治り得ない病気に両腕を拿捕された患苦。住まいは丸ノ内の三区。高級絵画の集まる場所よ。其処の底に人類の業ってものが集っているという訳。罠の中で身悶える咬躯。』溜息ふたつ。これは私じゃない。『いいじゃあない。鼠の餌になって終える人生であっても。私は寒苦の短軀。私は木菟(みみずく)のかしづく電線の断片。』溜息みっつ。これは。これは。これは私じゃあない。

 『ひ。ひ。ひ。楽しいねえ。おいで。おいで。』老婆の言葉に集う二匹の鼠。美姫の眼前に映るのは鼠達の食事。人為的に四角形にされた餌を口いっぱいに頬張る姿。食欲を満たす。睡眠欲を満たす。性欲を満たす。刻まれたアイデンティティのままに情欲の翼を広げて何が悪いというのだ。鼠達は幾つかの餌を『ごくり』溜飲音とともに飲み込んだ。

 『ひ。ひ。ひ。』老婆は笑っている。燭台に点った蝋燭の炎が揺らめく。右手を助詞として彼等を振り払えればいいのに。同手指は緊縛の虜。左手を間投詞として振り払えればいいのに。同手指は心拍数の鶏処(とりこ)。食すれば排するものもある。飲すれば排するものもある。公然の事実に気づくと彼女は肩をすくめ眼(まなこ)に涙。

 赤鼠は身体全体を震わせる。橙鼠も其れに続く。所謂排出作業のうち液体的なものが先ずは髪を濡らすのだ。「しゃー」といふ音とともに。鼠達は彼女を見下ろすようにしている。町田駅西口のHOTEL街に佇む娘を狙う獣男と同じ視線だ。井の頭公園は夜に本性を顕にする。俺は知っているぜ。金属金具の落下により損傷したライニングと一緒だ。俺は知っているぜ。外部からは視認できない故に始末の悪い粗相(そそう)。其れは髪を濡らし。次に健気(けなげ)な睫毛(まつげ)を。次に愛娘の眼(まなこ)を濡らすのだ。「しゃー」そんな音とともに。

 『嫌・嫌・嫌・嫌』彼女は其れをおおひに嫌がった。動く範囲が狭いのは致方(いたしかた)なし。緊縛旅団に拿捕されてしまっているのだから。BDSMに同様のプレイが在るのは知っている。放尿とか飲尿とか。いけなひものを存分に撒き散らすこととか。隠したいものの全開放を快感会館の門扉(もんぴ)とする術とか。VHSで確認するがいいぜ。どんな頭文字解釈でも構わない。VICTIM of HELLISH SHIBARIとかどうだい。今の彼女にフィットするだろ。DVDで確認するがいいぜ。どんな頭文字でも構わないと云っているだろ。DISATRACTIVE VISITORS are DEMONSとかどうだい。今の彼女にフィットするだろ。

 『嫌・嫌・嫌・嫌』『屈辱を感じな。美姫。ひ。ひ。ひ。』殆ど知識の宿らない非人語を操る身体が二つ。醜い方は鼠達のPEEINGに御満悦。美姫の諦めと屈辱の表情に御満悦。寒さに身体を震える女満別。恥辱に外れそうになる股関節。美しい方は目を閉じる。尿の進入を許すまいと閉じられた瞼。
 
 同瞼の凹凸部を越えて周るタービン・ティース。円錐状に細かい粒子となった色付きの水分は鼻に至る。『そんな…っ』と適切な発言も出るわな。出るわな。鼠達の排出を教授する器になり給へ。轡になり給へ。桜よ咲き給へ。今年の暖冬は雰囲気が悪い。季節不知の桜よ咲き給へ。

::::::::::
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...