《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合78⃝

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 「ぴくん」赤鼠が噛む度に美姫の身体が跳ねる。「ぴくん」ほら。ほら。「ぴくん」何度でも。何度でも。前歯には巧妙な罠が仕込まれており強度を自在に操ることができる。「ぴく。ぴく。ぴくり。」上顎骨と下顎骨が接点を得る度に。神経を走行するものが在る。

 痛み。痛み。痛みと快感。『はあ…っ』快感と痛み。痛み。痛み。痛み。快感と痛み。快感。『はあ…っ』赤鼠の責める小指の先に鮮紅色の滴下液。春雷(しゅんらい)の如く。秋雨(あきさめ)の如く。冬椿(ふゆつばき)の如く。

 『ぎー。』咆哮が一つ。トランスレーターもイラストレーターも居ない部屋での同時通訳は困難。鼠は将棋駒を表面にして進む。一番好みの駒は「銀」だと云う。特に斜め後方へ戻ることもできるのがお気に入りだとかぬかしてやがる。歩(ほ)は進む。穴熊の中に居座る王将を美姫と見立て/攻撃的な布陣で夫人を横取りするのが目的の勝負。恐怖と痛みの分圧を表示しながら敵陣へと。やがて同駒は成(なり),不成(ならず)の選択肢を持つこととなる。表のままじっくりと胸ぐらを責めるも吉。裏返り信託と快楽の無双劇を繰り広げるのもよし。

 『ぎー。』噛み,噛み。啄(ついば)み,啄(ついば)み。波味(はみ),波味(はみ)。小指から順番に/舌,口,牙を本能のままに操れば恍惚。小指をひとしきり舐め回す。都度都度(つどつど)の反応及び呼応にリズムをつけ『…あ,あああ,あ』美姫は喘ぐ。花弁開ききらぬもどかしさとともに。神経回路を前頭葉に結びつけつつ。

 薬指。鼠は非常に邪魔なものが纏わりついているの感じる。婚約指輪(エンゲージリング)。固い契により交わされた安全との等価交換の指輪。市町村単位で届け出る婚姻届けの複々線。プラチナと鋼炭素の塊に何度も牙を突き立てる。

『だめ…だめ…。あ。あ。』被食体の快楽帯。節目がちの睫毛は哀しみとともに垂れ下がる。眉毛は中央に寄っており苦悶の表情。痛みは半分。快感も半分。恥辱が半分。屈服感/征服感/被虐心は心の全文を埋めている。

 「春には桜がさくのかしら。」現状に粗ぐわぬ独り言,ひとつ。「子供達にみられたらどうなってしまうのかしら。」独り言,ふたつ。「夫が見たらどう思われるかしら。」独り言,みっつ。三つ目の言葉の羅列が脳内に浮かぶとき,美姫の頬は更に赤くなる。鼠の毛色と一緒の色だ。鼠は薬指をしきりに噛んでいる。獲物を細やかに破砕し飲み込む為。

『あ…ん。』甘い吐息。マーマーレードよりも感じているんだろうな。解るぜ。BDSMの框(かまち)に足を踏み入れた女性の声だ。零度の隷奴にしてやらうぞ。凍えるマイナス小屋の冷奴(ひややっっこ)にして喰うてやる。そうだな。灼熱の蝋燭を垂らしながら部屋の温度上昇を測定してやる。以下のやうに言わせてやる。まるで烏賊のやうにな。「鼠様。鼠様。御願いで御座います。」

「もう。もう。啄む箇所がないのでしたらば。」「いっそ逝かせてくださいまし。散らしてくださいまし。花弁は貴方様のもの。」「前も勿論,貴方様のもの。奥乃院までも責めてくださいまし。」「後ろも無論,貴方様のもの。性の捌け口として御自由にお使ひくださひませ。」「必要であるのならば開放器具を御使用くださひ。穴たる穴が満足いくやうな大きさになるまで。」「我慢致します。我慢いたします。」「そう決めたのです。そう生きると。投げキッスよりも嘆きの巣を好む習性に染めてくださひ。染めてくださひ。」そのやうに言わせてやる。

 『ひ。ひ。ひ。いい氣味だねえ。鼠責めが氣持ちいいんだね。そうなんだね。美姫。』老婆の問いかけに答えない彼女。その余りにも細い腰骨は一所懸命に「嫌,嫌,嫌」を表現しようと捩れる。反対に動くのは舌であり上顎であり下顎であり内圧。『ん…ん…ん…っ。』悶絶言葉は嬉々とも危機とも鬼気とも伺える。薬指に纏わりつく涎。鉄塊を溶かし誓ひを撤回させ鉄拐男の欲望に身を浸す。

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