《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合77⃝

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『无(ん)/无(ん)/无(ん)』
 指喰い鼠は齧歯類
『无/无/无』哺乳類の中でも随分と
『无/无/无』繁殖力に優れた雑食性
『无/无/无』ときにはひとのにくすら
『无/无/无』雑煮で煮込んで喰うてしまふ
『无/无/无』美姫の指,先端部分を
『无/无/无』舐め噛り咀嚼する也

『无(ん)/无(ん)/无(ん)』
 花林糖のやうな産毛は
『无/无/无』攫われ拐われ臓腑の中へ
『无/无/无』鼠は本能のままに生き
『无/无/无』彼女から剥離した角質を喰う
『无/无/无』同行為の路端に痛みは若干
『无/无/无』僧侶的感覚/美的才覚に拠れば
『无/无/无』痛みと快感に区別はなく
『无/无/无』同一経路の微差に過ぎぬ
『无/无/无』媚薬はすっかり効いており
『无/无/无』指先の痺れも,疼痛も然り
『无/无/无』脳内媚薬が性的刺激に変換す

『无(ん)/无(ん)/无(ん)』
 右の突起を御覧なさひな
『无/无/无』左の突起も御覧なさひな
『无/无/无』随分尖ってしまっております
『无/无/无』存分感じてしまっております
『无/无/无』中央突起は刺激せずとも
『无/无/无』皮剥け,秘剥け,桃色無垢を
『无/无/无』露わに顕(あらわ)に,屹立す
『无/无/无』赤鼠,責めに興じて,涅槃筋
『无/无/无』他鼠,何だ何だと,寝ぼけの眼

『あはは。おもしろいねえ。美姫。生態系逆転現象を素直に受け入れるっていうんだね。』『このままじゃ。本当の餌になってしまうかもよ。いいのかい。いいんだ。ね。』

 老婆は遠慮の補助輪を外す。じわじわと。じわじわと。ひとを喰らふ獣の眼が伝染病として蔓延する部屋の匂い。扇状に広がっていく匂い。ベッドから最も離れた角に在る燭台の炎が揺らめいている。

『それ。それ。』老婆の御囃子に鼠は好調(こうちょう)で高調(こうちょう)な広聴(こうちょう)で応じる。美姫の手指を狙い啄む上顎と下顎から「かち。かち。」と不吉な音が鳴る度に快楽中枢の単位が変わっていくらしい。女性は耳で感じると何処かの誰かが何かに記載していたのを今,思い出したが正にそのとおり。『あ…あ…あ…っ』と鳴く鶯(うぐいす)は谷底で翼を失うのが運命。

『駄/目』右の突起が疼く
『駄/目』左の突起が疼く
『駄/目』中央突起も同様で
『駄/眼』滴る液は増すばかり
『駄/目』陰核から伸びる神経
『駄/目』頑なに直線な国道
『駄/目』名前を付せば16号

『駄/目』電柱の影に誰かが居る
『駄/目』ふくよかな女性が独り
『駄/目』ミドルネームを叫ぶ女性
『駄/目』ファーストもラストもなく
『駄/目』噂話に夢中/霧中/夢虫らしいぜ

『駄/目』同女性は首に鋭いナイフを
『駄/目』自慢氣に突き立ててみせる
『駄/目』周囲は無知蒙昧な一般人で
『駄/目』ポリスの到着を只,待っていた
『駄/目』その女性は夕のニューズにも
『駄/目』夜明けのニューズにも載り
『駄/目』誰かの口から誰かの口へと
『駄/目』尾ひれとともに口伝される

『駄/目』同女性はナイフを突き立てた
『駄/目』それ自体は大した事態じゃない
『駄/目』見窄らしい身形に相応しくない
『駄/目』高級鞄の中身が問題であったと
『駄/目』高級鞄の中身が問題であったと
『駄/目』ソーシャルメディアが騒ぎだす
『駄/目』同鞄の中には/びっしりと
『駄/目』鼠の群れが詰められていたと
『駄/目』そんな猟奇的な小話ヲ,ひとつ

 ワンピースが揺れる。「ぴく。ぴく。ぴくり。」赤鼠が指先を啄んでいるからだ。その度に跳ね揺れる身体。前菜に相応しい前妻(ぜんさい)の指先サラダ。「ぴくん。」そして「ぎし」そして「じゃらり」彼女の慟哭はベッドに伝導し末端緊結具に響く。どうせ縄縛りを放免されることはないのだ。不自由な身体と鼠の動きに委ねる他はないのだ。涙を拭いて諦めなさいな。おっと。涙も被虐的な瞬間のドレッシング。涙は加虐心を擽るエッセンス。やはり手拭を渡すのは止めにしやう。

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