《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合75⃝

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『ぎー。』狂った鼠が檻の中に居る。複数匹が互いの尻尾を噛み合っている。随分と腹を空かしているものと確信できる佇まい。

『ぎー。』彼らは初めから居たのだろう。意識の園へ登壇出来ぬ程にひっそりとしていたのだろう。氣づかれぬ事を好む隠密探偵の如く。鼠のうち一匹が寝起きの頭を擦っている。同鼠の体毛は赤色。辛苦(しんく)象徴の色である真紅(しんく)。赤の鼠は首輪のようなものを着装している。正確には着装させられている。受動的な存在。老婆の玩具。老婆の上位者である正体不明な御主人様の玩具。愛玩動物であり拷問器具の一つ。

『ぎー。』赤頭が自らの毛髪をかなりの分量,引き抜いた。自虐的に見える同行為に対し老婆は頷く。まるで「何時ものことさね。」そう云っているかのよう。同鼠の隣には橙(だいだい)の鼠が一匹。すやすやと氣持ちよさそうに眠っている。背後には複数の色毛並。色毛並。艶怪浪(いろけなみ)。最も目立つのは紫色の体毛に包まれた鼠。最も大きな牙を体外に延伸させつつ/最も優雅に/最も無防備な眠りについている。

『ぎー。』赤頭が最初に眼(まなこ)を開放し状況を確認する。鼠達の中では尖兵のやうな存在価値。剣道で云う先鋒さん。「決して次鋒にはならないぜ。勢いをつけるのは。俺だ。」目付きは鋭く生物としての意義を貫こうという意欲満点。血走る程の三白眼。臨戦体制の牙。波立つ毛並み。同存在は赤(あか)/赫(あか)/朱(あか)。

『ぎー。』老婆は液体の滴下を停止する。美姫の身体がたっぷりと/しっかりと従順になってきたのを確認したからだ。ワンピース越しにでも両突起の屹立が確認できる訳であるし。同衣越しになにやらが溢れているのを確認できる訳であるし。

 格別な楽観主義者は云うだろう。『そうだな。彼女の準備はすっかり整っているといえる。何故って屹立しているし濡れているからだ。他に証拠立てなど要らないだろう。違うかい。』そのやうに。

 ベーグル・サンド専門店「モーメント」のスタッフも云うだろう。(高名な女性だ。)『私はナツと申します。よろしくお願い致します。そうですね。彼女は充分に濡れていると思います。嗚呼。嗚呼。嗚呼。私が見分したのは合計3つ在る突起でも/若干の油分と水分を含みつつあるキャミソールでもありません。声。声。声です。随分と音程が低くなってきたでしょう。淫靡な車の燃料は高燃費で且つ低速度。本気の女姓(にょしょう)はそのような声を挙げるものなのです。察するに彼女はフローの風呂に挿入っているのでしょう。望んでいるかどうかは別問題ですが。』そのやうに。

 相方の精神科医は云うだろう。『ふぉ。ふぉ。ふぉ。彼女はもう完全な太刀魚(たちうお)になっておるよ。此の私が云うのだから間違いはない。右。左。右。左。呼吸の度に衣擦れで感じてしまう身体を呪っておる。ふぉ。ふぉ。ふぉ。呼吸は意識の錨(いかり)。右。左。右。左。交互に舐められることを求めてもおる。右。左。右。左。どんなに誤魔化しても無駄じゃよ。美姫(みき)とやら。君に乾杯を。性的な拷問がきっかけとはいえ涅槃に近づけたのだから。こんなに素晴らしいことはなかろう。』そのやうに。

『ぎー。』キャミソールは隙間だらけ。何処から侵入するかが先ず問題となる訳だ。トマトに成りたいと申すのならば彼女の首筋(くびすじ)から這入ればいい。同付近の肉は柔らかく果肉の甘み満点。野菜室になりたいと申すのならば袖口から這入ればいい。同付近を探訪する前に左手薬指の邪魔な指輪を外すよろし。ボタンが邪魔ならば喰い千切ればいい。

『ぎー。』最短距離を目指す四字熟語が本質ならば苦肉之策を用いればいい。フレアしたスカートの裾部分。同箇所には穴が2つ在る。暗がりを好む鼠達には格好の遊技場だ。

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