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美姫の場合
美姫の場合69⃝
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仲間外れのキーボード。恩知らずなローコード。鉛のかほりがする。成分調整がなされておらぬ純粋な鉛のかほり。美姫は胸往復に喘ぐ愛玩動物よろしく呼気を荒げ表情は苦悶。非庵(ひあん)の帳(とばり)が下りる頃。火餡(ひあん)のやうな水分を含む老婆を横目で見る。二人のうち美しい方の女性は嫌悪感の表情を。二人のうち醜い方の女性はグラスの内容物を口に含む。
用途不明のローテーブル。上質紙と万年筆のない執筆はアンネーブル。目貫通りに灯る街路灯は温故知新と表現できぬ御古(おふる)。禁色(きんじき)は許色(ゆるしいろ)に恋しており仲間に対し漏らしていた。『之が幸せってやつさ。之が仕合(しあわ)せってやつさ。恋をすること。睦み合うこと。繁栄の為ではなく死の為に。だ。』
続けるか。『断ずるが。繁栄の為の恋愛など稚遊(ちぎ)に過ぎんよ。乳木(ちぎ)でも咥えていればいいのさ。何を契(ちぎ)ろうと云うのだ。俺はそんな夢見心地の午後に票を投じない。入口が違うのに一緒になろうと考えるのは尚早時期じゃあないか。死の為の恋をすることさ。之が死合(しあ)わせってやつさ。とりも直さず幸せってやつさ。』
続けるか。『俺は鍛錬場で彼女に恋をした。何万ボルトか知らぬ稲妻に打たれたやうに人生の一大事を迎えた訳だ。それまでの俺は…。それまでの俺は…。生きながらにして半分が死んでいた。その事実に氣づけただけでも幸運と云える。嗚呼。その時の俺は死神のやうな顔をしていたよ。嗚呼。親友はシベリア生まれの元/殺し屋さ。彼の近況は知らない。知る必要もない。彼は本国の射撃鍛錬の指導者にと勧誘されたが断った。その生き様に焦がれるよ。心底。心底。真底。芯底までな。俺には奇特な知り合いが多い。別に困ってはいないが。』
続けるか。『俺は失われた半身を取り戻した。先刻の稲妻は背骨を貫通し細胞の隅々に居場所を作る。『やっと出会えたわね。前世の事を御存知かしら。剣闘士奴隷だった貴方の身体は素敵だったわ。前前世の事を思い出せるかしら。「謙虚」の旗印のもと「赤」と「青」という二人の従者とともに大海を駆けていた貴方も素敵だったわ。もう少し説明が必要かしら。』
もう止めようか。『彼女との同調作業。鍛錬場の片隅で。誰も知らぬ密室で。同作業は名将が守護する難攻不落の攻めと同等の難儀な作業だった。知識が必要だった。(※元グリーンベレーの戦場医との出会いが役に立ったことを思ひ出とともに付す。彼の魂が安らかであるように祈る。)肉体的素養が必要だった。周囲環境が整っている必要があった。会陰から百会まで蛇を操作する技術が必要だった。(俺は精神安定錠剤(※デパスという名称のもの。)を飲みつつも由緒ある仕事を継続する必要があった。適量の10倍以上を海外から仕入れ,頓服的に飲んでいた。当時はそうするしかなかった。縋(すが)るものが必要だった。そのうちの一つが瞑想で。そのうちの一つがクンダリニー/ヨーガだった訳だ。必要は発明の母と云うだろう。)』
止めよう。もういい。俺の昔話などフィクションとして最も切れる刀で両断してくれ。大切なものは今だ。大切なのは今。ところで。美姫はどうしているだろうか。直線上に危篤仲間が居り下顎呼吸に喘いでいる。そう。そう。今の彼女の様相に近似している。『葉/葉/葉』速記(そっき)できぬ突起(とっき)の勃起(ぼっき)は見事也。『葉/葉/葉』杓子定規な否定形(ひていけい)で非提携(ひていけい)な表現。丁度今の彼女のやうだ。指定席に座ろう。彼女の吐息を感じることができる指定席に。
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