《瞑想小説 狩人》

瞑想

文字の大きさ
上 下
511 / 585
美姫の場合

美姫の場合67⃝

しおりを挟む

:::::::::

『乾いているんだろう。首を縦に振ればいいじゃあないか。渇いているんだろう。川辺で旦那と手を繋ぎたいんだろう。もう一度。口吻に酔いしれたいんだろう。』

『皮剥責(かわはぎぜ)めは嫌なんだろう。躱(かわ)しきれる身分じゃあないのも識っているんだろう。為替相場に少しでも尽力したと思わないのかい。その為にこの水分を摂るといいのに。何故,首を縦振りしないんだい。美姫。甘い。甘い。甘いねえ。』

 老婆は透明のグラスを右手に掲げ美姫に肉迫する。肉を剥ぐか水を飲むかの選択は強引な短歌(たんか)であり幽宮(ゆうきゅう)の長靴(ちょうか)。無益なものと断ずる価値(かち)。其れを断ずるのは本阿弥が研ぐ長物の太刀(たち)。老婆の手背部により撫(ぶ)ぜられた薄衣越しの素肌は明らかに性的に感じていた。

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼』咽び泣きひとつ。腰が絞られる。『嗚呼/嗚呼/嗚呼』勾留配置の訴件でふたつ。

 突起が屹立している。『嗚呼/嗚呼/嗚呼』訴訟案件のボイコット。俺の弁護士は非常に優秀であるのでな。『嗚呼/嗚呼/嗚呼』師走末日までの招待状。

 奈良からのものが一通。京都からのものが二通。便利な世の中に手紙といふのが趣深い。便箋は所謂,茶封筒であり文面は簡素。結局修行の成果を見,少しながらの指導をして欲しいという内容だった。

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼』美姫のキャミソール上で往復する老婆の手。美しい方の女は手枷及び足枷で風樹(ふうじゅ)の封呪(ふうじゅ)。富傑(ふうじゅ)の艀綬(ふうじゅ)。俺はそのうちの一つを一級河川の左岸で燃やす。向上心のない上辺口上(うわべこうじょう),恒常性(こうじょうせい)に戻る一時の厚情(こうじょう)。古城は孤城となり落日を迎えるだろうな。師が居らねば死が在るのみ。空海殿の残渣を追っているがいいさ。甲状の違和感に同情の鉤爪を突き立ててやる。

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼』美姫の体幹が体感を引き摺り込んでいく。右回りの螺旋は重力操作及び身体操作の血漿(けっしょう)にして結晶(けっしょう)。

 俺は手紙の左辺と右辺の書人が違うことが氣にいらなかった。内容もしかり。昨年と何ら変わり映(ばえ)がない。之で人が動くと思うのなら大間違いだ。金塊を積まれたとて俺は行かない。意味が見いだせない。直接の使者を寄越せ。俺はそんなに暇じゃあない。

 貴様等しかり著名な観光者しかり。『先ずはやってみて。それから。』そんな芯のない言葉で人が動くとでも思うのか。そうだな。そうだな。御住職。貴方の思う一番美しい女を俺に差し出せよ。

 膻中には『膻中。此処也。』と筆書きしてやる。臍下丹田には『臍下丹田。未熟者。』と付す。会陰には『陰の印にして因の韻。同封された陰画と同様の姿勢にし同箇所を射ん。』とHBペンシルにて。百会には怪かしの水を被ってもらおう。手紙を添えてやるよ。

 『少し剃らせて頂いた。氣にいらなくば俺を殺しに来い。残念ながらレールガンの開発者に何を差し向けても無為に終わるとは思うがね。嗚呼。嗚呼。もうひとつ加えておこう。彼女は俺を咥えようと随分と躍起だったよ。あんたの命令だな。なあ。御前達(おまえたち)。なあ。雄前舘(おまえたち)。なあ。金町(こがねまち)。育ち盛りの仔犬が腹を空かせているぞ。橋の蘭干下(らんかんした)で醜いアヒルの仔が群れて歩いている。両動物とも肋骨(あばらぼね)が浮いたままだ。其れを喰うて天変地異に備えるなどど云うな。25年に備えるなどと云うな。』長くなるが百会にはそう記載させて頂く。

 無礼には真実でお答えしやう。精一杯の皮肉を込めて。だが安心しろ。君にその勇気はないだろう。外面では意気がっていても。本当に粋だった頃とは違うもんな。体裁がさ。訂正できぬ定際がさ。文脈から意図も周波数も読み込めぬ愚者め。

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼』小説の内容に呪符とともに封じ込めてやる。之が俺の答えだ。表現の自由万歳。日本海の真実に乾杯。何のことか解らんだろう。『嗚呼/嗚呼/嗚呼』美姫。少し黙っていろ。老婆の用意した謎水(なぞみず)でも飲んでろ。溜飲獄(りゅういんごく)の語句は蒼白の顔貌(がんぼう)。其れが俺の願望(がんぼう)であり怠惰への復讐心。昨年のやうにはいかんぞ。楽しみ。だ。

:::::::::
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

処理中です...