《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合65⃝

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 『…い…や…』恐怖色の髪は黒。艶の輪(わ)を携えた黒。眉毛は内側に萎(しお)れており眼球は内壁に沿って動く。恐怖分圧が高まる女性に跨る老婆。『ごほ』と一つ咳払い。ベッドサイド。白色ソファには誰も居ない。彼女の着衣越しに老婆の皺ゝの手指が奔(はし)る。埃に塗(まみ)れた哀撫(あいぶ)は西部のガンマンの銃口を破壊するのに躍起。

 『嫌だって。さ。何て下品な言葉使いかねえ。美姫。甘い。甘い。甘いねえ。基本がなっていないのさ。だからだよ。だからあんたはこんな冷たい場所で奴隷化されてしまうのさ。』

 『甘い。甘い。甘いねえ。左利きの男性が右手で操作する性欲球(バイブレーター)よりも甘いねえ。甘い。甘い。甘いねえ。毛利(もうり)の複利(ふくり)は常時除じているのさ。お前の膨らみが自分のものだって思っているのかい。お前の突起が自分のものだとでも思っているのかい。』

 老婆は薄手のキャミソール越しに美姫の躯体を弄った。『…。…。』身悶える彼女。キャミソールは山王区(さんのうく)に冷やかされた自己名義瓶(マイボトル)。男性と女性では触れ方に随分と違いがあるのだなと感じる。勿論だ。女性の身体のことは女性が一番知っている。

 『…あ。…あ。』その声は蜜を含みだす。右手の指先を天空に投げてしまいたい衝動。その動きは室内に同居する麒麟に阻まれる。情欲の捌け口としての口を大きく開けた知的動物が一匹居り,美姫の拒絶を拒絶する。『あんぐり。あんぐり。』卵型に開けた唇で能動的姉妹(のうどうてきしまい)を懐に仕舞(しま)い込む。

 『…だ、、、め。。。』『甘い。甘い。甘いねえ。失楽園の別園に咲く桃。その香りよりも甘いねえ。美姫。あんたの身体のことさ。美姫。充血させちゃあ駄目だからね。御主人様に言いつけてしまうからね。』

 老婆は美姫のキャミソールを貫通させぬ手背部の操作を楽しんでいる御様子(ごようす)。鋸屑(のこくず)の出ない楠木(くすのき)の伐採作業はとても御上手(おじょうず)。野放図(のほうず)に手放された和装事(わそうず)の小道具(こどうぐ)を処理する美装図(びそうず)。床上手(とこじょうず)に掻き回される男熟とは随分違うやうだ。

 右手は緊結具により北西端に結び付けられている。緊縛小坊主が耳元で囁いて動きを静止する。『駄目だよ。お姉ちゃん。じっとしていなきゃあ。お姉ちゃんはいつも甘えてばかり。その指も。その手も。その前腕も。肩も。胸も。裂け目も。お尻も。全部が自分のものだなんて酷すぎるよ。このお婆ちゃんの言うとおりだ。甘い。甘い。甘いんだよ。』

 社寺巡回しようにも和洋は折衷せず近海の金塊を争うばかり。三密加持の底辺は高さと乗されることなく不確定な面積として漂うばかり。何処に錨(いかり)を下ろすでもなく漂う客船の如く也。何処に怒りをぶつけるのが相応しいか探す旅人の喉仏(のどぼとけ)の如く也。老婆は秘密裏にキャミソールの裾野を捲る。

 手抜(てぬ)き脚抜(あしぬ)き/酷い溜息(ためいき)/周らない四季(しき)/老婆は手にする/魔法の杖を/老婆の唇/傷を射抜けば/塩ぬり,ぬめり/躰の奥まで/這入り込まんとし/愚者は選択を拒む。

 決意の欠員を許すものか。盲目の放牧を許すものか。令和5年も間もなく終局に向かうのだ。黄金色に魂を磨き上げる。たとへそれが人の笑うところであっても。だ。今年の仏閣イベントまでもう少し。去年と変わらぬ面々が俺を迎えるだろう。一年分年老いた顔と手で。

 枯れ落ちる枝葉を診るのは止めにしよう。俺は大きく張った根に水をやり続ければいい。板書できぬ思いを抱えたままでいい。虚空蔵(こくうぞう)殿。地蔵(じぞう)殿。俺を笑って下さい。もっと純粋な男になります故。

 『ああ…あ』嬌声の坩堝(るつぼ)に乾杯を。

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