《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合64⃝

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 老若男女で老婆を表現するのなら『老』であることは確実だ。網膜近辺の肉は重力に抗う術を失っていたし,下顎から胸鎖までを結ぶ肌面に走行する無数の縦皺(たてじわ)と横皺(よこじわ)が深い。

 老若男女で老婆を表現するのなら『女』であることは出来立て間際の氷よりも薄い現実。声は第三次変声期の大惨事により低音化してしまっている。『甘い。甘い。甘いねえ。美姫。陰毛が生え揃ったばかりの処女。その躰(からだ)に蟲の群れを這わせる瞬間よりも甘いねえ。』

 老婆の現実主義的なところ。懐疑的なところ。夫の浮気は許すまじといった欠員のない決意が目に宿っている。流し目の先に何を睨んでいるのかは理解らない。12月初旬のとある暖かな日。誕生日を迎えた執筆者にも佐賀の才媛にも理解らない。

 『……!』ベッドに放り投げられた美姫はその柔らかさに反発する。『あ…っ』声が漏れる。重力作用を無視するやうに全身が宙に浮く。脳髄までもが収まりどころを忘れた船のようだ。腸内が一瞬,引延(ひきのば)されて元に戻る。扁桃体が居場所を忘れる刹那が其処に在り,老婆は其れを見。おおいに笑う。

 『けたけたけた。いい気味だねえ。美姫。久しぶりの獲物だ。BDSMのハンドリズムに乗ってもらおうかね。カインドネスの隙間に埋め込んでやろうかね。マインドフルネスの反作用たるモンキーダンスを踊ってもらおうかね。けたけたけた。いい気味だねえ。それとも当たり籤(くじ)のないラッキーパネルに埋めてやろうかねえ。けた。けた。けた。』老婆はそう云うと/壁掛時計の短針のみが逆方向に周回し始める。

 『…ん』純白のベッドの上。恐怖で動けぬ若い女。恐怖で射抜く老婆。娼婦(しょうふ)と上布(じょうふ)の差異。先負(せんぷ)と戦斧(せんぷ)の近似(きんじ)。その対比(たいひ)は堆肥(たいひ)のない雑把(ざっぱ)。その体皮(たいひ)を対比(たいひ)させる時,三打(みつうち)Z撚りストランドが故郷を探す旅に出る。『…な、に、を…』美しい方の女が言い切る前に,老婆は彼女の右手とベッドの北東端を「がちゃり」鉄製緊結具で捕えてしまう。

 「…此のマンションの住人は皆。狂っているんだわ。…女性を苛めることにしか興味を持っていない。苦悶を求める雲間に蜘蛛が住んでいる。…畳と畳の隙間には歪な性欲が深く根付いているのよ。」

 「…其処に毒茸(どくきのこ)が生えているの。…私の思考を歪め、嗜好的(しこうてき)に施行(しこう)する万年毒茸(まんねんどくたけ)が生えているのよ。…それを。…それを。…それを。…私の口に捩じ込むのね。…私の嚥下(えんげ)を献花(けんか)にして笑うのね。」美姫はそのように思考する。「がちゃり」もう片方の手が緊結具に捕えられたのはその直後。

 ところで。老婆と美女が緊縛図を生成している傍ら。マイナス6号室の直近に生み出された躯は動かない。動けない。肩口で死線期呼吸をしてはいるものの心乃臓(しんのぞう)は無尽蔵(むじんぞう)な力にひれ伏し無人島(むじんとう)の鬼金棒(きかんぼう)の言いなりだ。パルスレスな臓器に対して機械的な刺激を加えようとしても『ショックは必要ありません。胸骨圧迫を続けてください。』と言われるのが関の山。

 ところで。彼の背後にはあらゆる異物を生成する時間軸の支配機械が在る。戦隊もののヒーロー宜しくセンタースイッチを備えた高級機械に触れてみやう。見分してみやう。12時の方角から順番にだ。右回りにだ。

 3時を超える。美姫が恐怖で暴れだす。6時を超える。『嗚呼。嗚呼。嗚呼。』切なく喘ぐのは官女(かんじょ)の吐息。9時を超える時。美姫の右足近傍から「がちゃり」と低く鈍く尊厳を無視した音が響き告げる。『君は何処まで行ってもこのやうな待遇なのさ。陰核(いんかく)の進角(しんかく)が向かう先は奴隷娘の体(てい)たらくと云ったところ。かな。』と。

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