《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合58⃝

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 『シャワーを浴びてこい。』『小休止を認めてやろう。』『…,…』私は朦朧とする意識から引き戻される。狸縛りという情けない格好を放免される渇望の時間。右腕。汗で引き絞られた麻縄の結目(むすびめ)が緩む。『逃れようとは思うなよ。』『は…はい。』左腕。縄目文様は失墜文字のように赤みを帯びている。余程血流が滞っていたのだろうと再確認する充血文字。普段よりも被虐的な肌は低温帯の渦巻きのように本人を睨みつける。

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼。』声が漏れる。安樂な姿勢になれる喜びに浸る。同時。奇妙な不安が右脳と左脳の中間地点に宿るのを覚える。其れは不安。不安。不安。此れは不安。不安。不安。不自由の強要と快感の共用から開放された後(のち),精神中枢に爪を立てるもの。誰かのものになってしまいたいのに。なれない。誰かに所有されてしまいたいのに。なれない。

 蚕(かいこ)を解雇(かいこ)された私。懐古(かいこ)するのは太古の猟虎(らっこ)。私は自由に海を泳いでいたい。広大無辺な海辺に独りにしないで欲しい。苦しくてもいい。辛くてもいい。無理強いでも構わない。

 右脚。足首に絡みつく唐辛子の辛味。左足。前脛骨筋に宿る色恋沙汰の後遺症。其の付け根。ほんの数時間前の私が持っていたものはすっかり失くなっていた。剃毛寺(ていもうじ)の祝言は縮減し消失してしまったらしい。左大腿と右大腿が久しぶりに御挨拶。六(ろく)になれない数字と禄(ろく)になれない仕事には飽きてしまったと云っている。

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼。』一人の男性の前腕に力が込められる。『嗚呼/嗚呼/嗚呼。』大人になった尻穴から引き摺られる球体。見ないで。見ないで。見ようとしないで。御願い。『嗚呼/嗚呼/嗚呼。』咽び啼き。新入奴隷の喰うた冷奴に何を乗せるの。壁掛時計の短針を戻そうとしないで頂戴。琉球大根を挿れる事も許容しますので。見ないで。見ないで。見ようとしないで。御願い。

『ずずず/ずず』
骨と骨が擦れる音とともに

『ずずず/ずず』
宿木不知(やどりぎししらず)
の啄鳥が哭く

『ずずず/ずず』
放流前のダムの様相

『ずずず/ずず』
豆乳鍋に私を入れるの

『ずずず/ずず』
毒蔓茸(どくつるたけ)
を添えないで

『ずずず/ずず』
引き輪姦される腸内オードブル

『ずずず/ずず』
男達が女姓を嬲る為の大道具

『ずずず/ずず』
性の玩具は
肉壁に炎尾燃(ほのおもゆる)

『ずずず/ずず』
急転直下の寒波は
高師冬(こうのもろふゆ)

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼』私はベッドにうつ伏せの状態。体幹部が動かぬように男性陣が押さえつける。シャワールームは入口付近に在ると思う。此の拷問部屋に酷似した部屋に入室した時に確認した北東角の場所。『ずずず/ずず』。球体が捻りの運動を実施するとともに排泄感に似た感覚が襲う。間断なく。寒暖差で窓が曇っている。歓談言葉は猥褻そのもの。

 『排泄の感覚に似ているだろう。』『ゆっくりと堕(だ)してやるからな。存分に味わっておけ。』『まあ。暫時の休憩といったところだ。あまり期待はするなよ。』

 『葉…葉…葉…は…っ』中空に引き揚げられていく球体達。随分深くまで這入り込んでいたのだろう。全貌が顕になるまでにもう少々時間を要す様子。猛少将の高尚な構想の半数を脳内反芻しよう。悶絶の少しは遠のくだろう。多分。そんな思いで簡単な計算を実施する。

『いちたすいちは…に。』

『にたすには…よん。』

『よんたすよんは…はち。』

『はちたすはちは…あれ?』

『なんだっけ。なんだっけ。』

 ずずず/ずず。ずずず/ずず。肛開処刑ゑ図に見とれていた雷神様は云う。残渣の匂いを燻製にしよう。と。残骸を彼女の口に放り込んでしまおう。と。次の絵巻は更に淫靡なものにして欲しい。と。美姫の苦悶事(くもんじ)を九門寺(くもんじ)の捧げ物にしよう。と。

 『シャワーを浴びてこい。』

 『…は…い…。』

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