《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

Slave Drive

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 心と身体は繋がっている。いつからかそんな思いで過ごす様になった。現実問題の泉の中、はっきりと耳に残る和音。心を癒やす音階達。それらは素敵な余韻を残しカーテン・レールにはっきりとした姿で顕在化する。感謝とともに目覚める。朝の光が東端から登る。ボディスキャンをかける。脳内に調合された液体の性質を識る。明晰夢。時々ではあるが夢を操作することができるようになった。これを一つの近況報告として付しておく。

 七色の蛇。それら蛇達が乱舞する穴蔵。其処を旅しているのが俺であり君。迷い道は多い。人を惑わせる事物が多すぎる。誘惑が多すぎる。雑多すぎるんだ。下等な妄想と高尚な想像の違いは紙一重。君もそうなんだろう。俺も一緒。根本的には一緒。近況報告と云えば。そうだな。もう一つ。部下が肉体美を競い合う大会に出たんだ。それを見に行った。とても良い経験になったな。刺激にもなった。

 表彰台の一番高い場所からの眺めはどうなんだろうか。肉体美よりも俺を虜にしたものがある。知りたいか。知りたいだろ。互いに称(たた)え合い一位を譲り合うやうな姿勢美(しせいび)。その魂の輝きが美しかった。何処何処までも柔らかく和(わ)を重んずる姿。和(わ)して同ぜず。綺麗だ。とても綺麗だ。燦然と輝くスポットライトよりも見えないもののほうがよっぽど。嗚呼。嗚呼。とても美しい。何とも日本的な感触に酔いしれる。

 平素思う事がある。泰然自若を心に纏いたい。隙間のない衣(ころも)として解脱の領域から更に高みの領域に至りたい。呼吸。呼吸。虚空。呼吸。呼吸。虚空。入力と出力の平衡感覚。心を委ねきったら身体を重ねよう。唇を開放しろよ。先ずは舌先を絡ませよう。蛇と蛇の睦み合いみたいに。ほら。地蔵様が見ていらっしゃる。そんな閨で秘密の逢瀬を。

 アドリブテイクで成立する瞬間の『美』。男性の肢体もそうだな。女性の肢体も同様。窮鼠が藻掻く瞬間。狼が咆哮する瞬間。瞬く刹那の閃光。それは覚悟の光。それは覚悟の光。論破できぬ夕暮れの舞ひ。看過できぬ隙のない肉体。暖波(だんぱ)は高く振動する。山茶花/残花(ざんか)の残渣(ざんさ)。君の柔らかい膝枕に酔う大虎になっていたいんだ。いいだろ。

 図書館に行こう。君の大好きな窓の広い図書館に。書物に触れるのはとても大事なことだ。君の右手をとる。後部座席までのエスコート。荷物は俺が持つ。愛の証明は重ねた逢瀬の数じゃあない。俺は勇気(ゆうき)を大切にする。君は有機(ゆうき)を大切にする。16事になれば幽鬼(ゆうき)が御帰宅するのだろう。有期(ゆうき)という時間的束縛を施された二人。故に灼熱風呂の如く燃えるのだ。放熱を促す手袋の中で。

 エンジンをかける。オートマティック・ミッションの車は便利だ。ドライブ・レコーダーは「断」にしておこう。エアー・コンプレッサーが寝起きの風を送ってくる。肩を抱き寄せる。首に触れる。襟首をずらし胸鎖乳突筋に一滴(ひとしずく)の恋をする。綺麗な輪郭が網膜に剞まれる。其処に唇を。出来うる限りの優しさを持ちつつ竹割夫のように嫋(たお)やかな口吻を。動かないでくれ。少し暖がとれる迄。互いの体温を感じていよう。

 スキニー・パンツのSSサイズを身に纏った君は綺麗だ。11年前と何ひとつ変わってない。君の肌。君の首。君の指先の仕草。足の細さ。腰骨の感度。午後四時に相似(そうじ)する時間まで君は俺のもの。だから言う事を聞くんだぜ。『鳴いてごらん。猫のやうに。』俺の言葉を従順に実行する桃色吐息は何よりの興奮剤であり副作用のないドーパミン・ステーション。

 極端に固くなった中央部を意識から遠ざける。軽快且つ計画的な路地裏から車が走り去る。『…わた、し…』君はそう口にする。濡れているだろ。解るぜ。挿入すれど射精せぬ珍妙な男に惚れてしまったことを心底後悔するんだな。食欲も/性欲も/睡眠欲も/歓楽欲もとっくに陥落させてしまったよ。一つ。また一つ。削っていった引算思考の突端には何が残るだろう。師の言葉が耳に残っている。死の言葉が耳に残っている。


図書館に行こう。

Let's spend our days together.

go on a slave drive.

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