《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合55⃝

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 未完の蜜柑を啄む蟲は云う。『このやうなものを食すことが出来る我々は幸せ者である。この女性は上物だ。自分でも氣づいていないようだが。特に肉壁から湧き出るエキスは甘露の泉。生鮮そのもの。土壌の良い土地で育った泥鰌(どじょう)と同等の価値。このやうなものを食すことができる我々は幸せである。色づきは鮮やかな桃色。悪戯心でくすぐれば直ぐに充血する肉の生鮮なること秋天の如し。』

 彼等は我先急げとばかりに叫ぶ。一等兵と化す猛烈な勢い。下肢に見えるは穴二つ。迷うことはない。北極星の重力場を頼りに向かう先を決めるといい。氣の導きのままに。氣の導きのままに。結局選ばれたのは後方の穴。排泄の穴。射出の穴。排他主義の穴。普段から使用している割に性癖としてはマイノリティに属する賊(ぞく)の目指す穴。美姫は同穴に球体の半分程度の挿入されてしまい慟哭している。

 真(まこと)に同国で行われているのかと疑わしくなる拷問部屋の一角に獣が四匹。女姓が一匹。『葉/葉/葉』絶え絶えの吐息。桃色から群青色へと変化し日和見の轍が完成する。同轍は天駆ける馬を連れてくる。涅槃への一本道。快楽主義者はその魂をおおひに笑っている。これは東方向一丁目一番地の出来事。

 隣国の林檎を喰う毛虫が云う『このようなものを色というのですね。我々には人間様のやうな感覚機関が無いもので…。悪しからず。でも誤解なさらないでくださいな。松果体と扁桃体は人間様よりももっと発達しているのです。ゆへに「快」と「不快」を分別することには長けております。「快」を求め彷徨う身体を統制することはできませぬ。同様に「不快」から全力逃避することも瞬間の出来事。貴女も貴方も反応が随分と鈍いように感じますが如何(いか)に。時に此の女姓の身体。極上にして最上の味。虜囚にして初秋のかほり。このようなものを食することが出来る祭りを定期的に開催して頂きたい。』

 『葉/葉/葉』美姫の口は開いており頼りない舌先が確認できる。舌根沈下により氣道は収縮している。半開きの口腔内に溜まる涎(よだれ)。顎を伝い流るるを見る。

 顎から高級シーツへと滴下されるその様は。淫靡也。淫靡也。卑猥也。卑猥也。初夜の物語は多少の苦痛を伴いつつ未開穴の中に集約されるようだな。肛門括約筋は全般的に引き伸ばされてしまった。骨盤底筋群は全体的に引き攣ってしまい抵抗する筋力を失った様相。これは西方向一丁目一番地の出来事。

 麗門に飾られた檸檬(れもん)が云う。

『同性として正直。羨ましくもあるわね。こんなにも素敵な場所で沢山の人に蹂躙される美姫ちゃん。そうね。羨ましいと思っている自分を認めるわ。こんなに潤沢な求めを受ける資格があるってことじゃない。選抜試験があるのなら参加してみたいとも思うわ。ヒップのラインがどうのこうの。ウエストの比率はどうのこうの。性感帯の感度素養がどうのこうの。経験人数はどうのこうのって条件を付けて貰いたい。もし。もし。もしね。22歳の2月22日にその試験があるって前ゝから理解ってるとするじゃない。そうしたら。みんな切磋琢磨のもとに張り切って参加すると思うの。私も当然参加するわ。純血が条件ならばその日まで処女を守るでしょうし。前後開脚試験があるなら180度以上に開けるようにもする。突起の色が初(うぶ)ゝ桃色でなくてはならないのよね。じゃあ。じゃあ。あんなことだってするわ。こんなことだってするわ。羨ましい。美姫ちゃん。良かったわね。』

『葉/葉/葉』数回頭を振る彼女の仕草。胸鎖乳突筋と斜角筋の交差点が際立ち/美を強調している。西の一丁目一番地には貸船が停泊しており次の乗船者を待っている。救いようのない性癖を持った球体の保持者を待っている。後ろ蕾の開花を待つ初秋の虜囚は嗚咽とともに二雫の涙を流す。滴下先のシーツはもっと汚れてしまった。

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