《瞑想小説 狩人》

美姫の場合

美姫の場合54⃝

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『ああ…っ』新米奴隷の喘ぎ声。心地良く響く地下室の居心地は最高だ。一方。東京という土地は未だ好きになれない。この土地と縁（ゆかり）を結ぶことになって随分と時間が経ったというのに。『あ…あ…あ…』球体の半分も埋まっておらぬというのに。戦前の弦楽器のような咽び哭き。私が東京都内緑地化計画の四辺の１/４を担いだのは十数年も前。大きな震災を時を前後にする。それはさておき。どこもかしこも緑が少なすぎる。自然が少なすぎる。陰陽の軸は前後不穏である。熟幼の軸は過加熱状態。潤沢な水を求めて泣いている。赤子のやうに。赤子のやうに。

『だめ…だめ…』新女（しんめ）の新芽（しんめ）が発芽する時を見るは至福。公服と対を成す私服に相応しい私腹。此れ程に美しい時の流れを私は知らない。初鰹（はつがつお）を捉えるにはいい季節になったと云える。罠を張るのだ。逃れられぬ罠を。先ずは金銭収受に係る和名（わな）の罠を。

　日本国のシステムは資本主義を主軸として醜怪（しゅうかい）な周回（しゅうかい）を続けている。概ね全員が既に罠目に捕らわれている。其れを利用するという訳だ。若くして基軸を学んだことが現在に活きているという訳だ。『だめ…だめ…もう…』哭け。哭け。美姫。新馬（しんめ）になり男に跨がられる喜びと共にあれ。鬣を振れ。爪は私が切り揃えてやろう。感謝を。感謝を表現を。感謝の舞ひを今。

『は…っ』達したか。まあ６６点程度を付しておこう。尻穴責具はまだまだ豊富に用意している。球体が入口狭しと渋滞しているのを感じていろ。私の正体は弘法大師の末裔にして眠らない住職。北国生まれの狂狐（きょうこ）の虜囚であり強固な岩盤をも破砕する要職。今なお肉体を/心を鍛えることへの内なる中毒。マネーゲームの真似事は化物の戯言であると氣づかなかった君の旦那が悪かったのだ。無知極まる愚か者の妻楊枝（つまようじ）。叡智なく掌遊びに興じるならば私が与えよう。

『……』断末魔を。不自由を。下顎呼吸を。死戦期呼吸を。重厚な銃口を。舞姫を縛る腐敗した鎖を。唇に蚯蚓（みみず）を。胸には勝算のない硝酸を。乳頭には周到な準備とともにポルポトの成した史実の真実を。美姫。影踏みとは此の様にやるものだよ。肉が気持ちいいのだろう。尻穴が気持ちいいのだろう。情死するのは上司が許してくれんのだろう。そんなに綺麗な弓になりおって。

『……』起きろ。涅槃駅には何時までも滞在できぬ運命。起きろ。早く。祝辞絵画の世界に至るには業（カルマ）が多すぎる。狩魔（かるま）が足りなすぎる。佐倉（さくら）の桜（さくら）を茶蔵（さくら）に持ち込むのだ。まあ。季節外れと云えばそれまでではあるが。

男をもっと知るといい。
自分自身をもっと知るといい。
一方的な睦み合いの中で。
緊縛の快楽に酔うといい。
不自由を知るといい。
貴様等が神と崇めるもの。
その無価値を知るといい。
　
私が君から奪ったのはもっと大きな
もっと抽象度の高い情報だ。
それは金銭奴隷にはよく効く毒薬。
それは快楽主義にはよく効く妙薬。
それは放浪主義の私の開発した生薬。
それは北国の蚯蚓よりも賢く
それは南国の案山子よりも不気味で
それは全てを包含する５ｍｍの方眼紙
　
花鳥風月を愛でる前に成すべき事を成せ。
漢の求めを受肉する只の女体であれ。
三密加持たる街道の中庸を走る馬に成れ。
新たな価値観を私が与えてやらう。
君のグラスを先ず脳内想像する事からだ。
同グラスは空の外殻を持つ。
同グラスは可能性という内殻を持つ。
液体が注がれる瞬間の観察を始めよう。
君の身体は何色に染まるだろうか。
君のグラスに注がれる液体の粘度と年度。
君はその色と質感に包まれるだろう。
　
受動的であるが故に可能性があったのに。
液体が注がれる度に不自由になっていく様子。
外殻と内殻の中間に浮かぶ雲は光を乱反射する。
表面張力限界まで注ごうとする男性という存在。
グラスを満たしつつある或る液体の不明な酸度（さんど）。
性欲で満たし溢れさせんとする行為の象徴図形。
平行好きの数学者は可変せぬ下辺数式を愛でる。
相互補完させぬ永久の美しさに
柏手（かしわで）を。三度（さんど）。

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