《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合52⃝

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『先ず。ひとつ。』

『ああ…ああ…』


 調教初夜の記憶の一部。断片。破片。故に曖昧模糊としていることに御容赦を。奴隷は献身的でなければいけないそうです。委ね。委ね。更に委ねることが肝心とのこと。肉に。肉に。肉になること。屹立する男性の性欲を包含し慰撫する為の上質肉でとして在ること。在り続けること。調教師達の視線が会陰から百会までを槓子(かんつ)となり貫通するのです。


『さて。ふたつ。』

『いや…いや…』

『痛くはないだろう?』

『……………』

『答えなさい』

『…は……い。でも……』


 縫合処置。総合武技。続く緊縛遊技。昨夜の夕飯が思い出せない私が居ます。処女穴(アナル)での処置を継続する男性陣は初秋の灯籠のように嬉々としています。縄痕が痛む。縄痕が痛む。汗をかけばかく程に痛む。縄目が皮膚に纏わりついてくる。

 彫刻的絵画の中には涅槃図が在るというのです。猟奇的様相とも随分/仲睦まじいとかなんとか。初戦に放たれた弾丸は有人操作されており/私の反応で右向け右/左向け左/前へ進め。縦横無尽に肉壁闊歩をなさっております。『回れ右』と私が力なく指示しようものなら猛り狂うのでしょう。ね。ああ。ああ。


『みっつ』

『は…あ…は…あ…っ』


 帽状腱膜までもが悲鳴を上げる。実際に使用されているのは後方に座する穴。ああ。ああ。ああ。ああ。女性には三つの突起が在るのは御存知かと存じますが。その全てが硬直した肛部の違和感に総毛立ちます。

 まるで弁事と検事と卍で韻を踏む何処ぞの男性のよう。まるで神事を好まぬ魑魅魍魎の群れのよう。まるで大罪を犯した犯罪者の言い分にも耳を傾けなければいけない哀れな弁護士のよう。掃除機はもうじき正直に両時期を漢文にしてくれるでしょう。多分。


『辛いか。』

『は……い』

『止めて欲しいか。』

『は……い』

『抜いて欲しいか。』

『は……い』


 屈辱的なポーズ。ヨーガの歴が長い私でもこんな体位(アーサナ)は存じ上げません。両脚部は大きく広げられ掲げられ、長く/太く/頑丈な鉄棒に括り付けられている。両手も同様に。

 脚は歩く為のもので非ず。両手は未来を握りしめる為のもので非ず。被虐の様相を呈す餌。性玩具に相応しい体位だと誰かが吐き捨てました。ホメオスタシスが発動してしまえばいい。此れが当たり前になっていけばいい。早く。早く。早く。御願い。早く。早く。早く。御願い。


『よっつ』

『ああ…ああ…ああ…ああ…』


 凌辱球は直腸内部を目指します。感覚的には排泄物の逆回し。高尚な音楽の逆再生。膨張する世界の逆止弁。特異点が肉体の内部にはっきりと存在している。同特異点を安々と貫通するフィクションならぬ現実が此処に在る。

 高級ベッドに横たわる私は西洋娼婦のようであり東洋の紅葉で遊ぶ旅人のようでもある。昂りと絶望。肉体と精神。東と西。北と南。陰と陽。金銭収受と豪放磊落。四面楚歌と泰然自若。性欲と解脱。相反する幾つかのものが胎盤の中に滑り込む。激しい嫌悪感の祭りの後には…………否定出来ぬ恍惚感。その感覚が女を狂わせるの。ね。


『おね……✕…』

『何だ。はっきりと云え。』

『おね…が…い』

『何だ。と。聞いている。』

『おね…ああ…ああっ』


 全文を噛み締められぬままに全身が弓になる。弓になるという表現で御勘弁下さいましや。挿入先で位置は五寸釘程の長さの部分。方角は下方。前穴とぶつかる方角。かぐや姫が残した未知の性感帯を感じます。

 夕餉に飼われた空腹の犬が襲いかかってくるのです。野犬は涎まみれで延々と待っていたとのこと。其の部位に洗いざらしの球体を押し込む瞬間を夢見ていたとのこと。『ああ』『ああ』『ああ』声は発するものではなく漏れるもの。身体は心と離反して勝手気ままに宙を舞う。同部位を窘めようとすれども無意味。


『喋らんか。人語を忘れたか。』

 そうです。そのようです。『我逝く身・つつましやまし・此の身体』歌留多にもならぬ悲哀色の五七五。達する峠はどんな色。かしら。


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