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美姫の場合
美姫の場合㊾
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『…!』四人のうち一人は穿孔作業を継続する。後ろ蕾はすっかりと拡張されており桃色の肉襞(にくひだ)が外気に触れる。大きな紺色のソファに腰を下ろす御主人様。彼はニヒルな笑いを浮かべ盲目的にその景色を眺めている。右目が『続けろ』と言っている。左目が『もっと激しく』そう告げる。
『…ああ…ああ…っ』更に包括的な作業に掛かるとしやう。朦朧世界へ旅することとしやう。右胸の突起に噛みつく男が居る。歯先と刃先に殺気を宿しつつ先刻(さっき)迄とは裏腹の強度で噛みついた。『かみ/かみ/かみ』。リズムに合わせて上半身は捻られる。腰骨を中心に。腰骨を中心に。
振動は脳科学の領域に至りアルファへ御挨拶。ミッドアルファを連れてくる。Θでもう一度,潮吹き鯨(くじら)に襲われる美姫(みき)。四季を忘れた寒波の到来は早いようだ。折角の美しい森林は酷暑から寒冷の時期へ向かう準備をする。
早朝の俺に目をつけた複眼の女。彼女は何時も快適電話を右手に抱えている。何時も同じ道角ですれ違う。三回に一度は笑顔と会釈を。六回に一度はどちらかが道を譲る。九回に一度は回避不能な程に近接する。漫(そぞ)ろな彼女の存在。其処に在るようで其処には居ない。彼女の崇高な思考回路で云わせれば『進化の過程ってこんなもんでしょ。どうせ私達に肉体は要らないの。要らなくなるの。』『世界は変わっていくのよ。それを感じるでしょ。どんどん加速していくのよ。』『それに追従できなくなるのは死と同義なの。少なくとも私にとっては。ね。』ということらしい。
俺は納得がいかない。三つの行動をとることとする。①彼女に反論し中庸たる位置を見つけること②なるべく話は聞かず呼吸に集中すること③取り敢えず美姫の左胸突起に噛みつくこと。此の三つだ。『そんな』。美姫と早朝女は同時に嗚咽を漏らす。誰も居ないバンガローには幽霊が住むという噂が立つ。廃墟からは煙が立ち登る。小さな昆虫を集めたような独特の匂いとともに。
『美姫。おいで。』初夜の貫通儀を眺める視線に気づかぬ夫は哀れだ。もう少し世間を知った方がいい。『美姫。美姫。』情けない声色(こわいろ)。慣れない手つきでブラジャーのホックの位置が掴めない。その手は哀れだ。もう少し運動をした方がいい。『嗚呼。美姫。』膣の内部で力なく射精する男が一人。賢者になれぬ時間の束。老獪な手腕に絡め取られながら表面上の愛を紡ぐがいい。
美姫の夫は彼女のヨーガのクラスに参加する。多忙な仕事の合間を縫って通算で六回程になったのだろうか。其処にはトレーニングルームが併設されており、サブアリーナとしての会場が御弐階様に準備されている。『深い呼吸を心がけてください。先ずはプラーナヤーマ。片鼻呼吸を一分間ずつ』誰かが鍛錬場で大笑いしている。インストラクターは美人といえば美人である。66人に彼女の印象を問う。22人は右手を挙げて『美人です。』と云う。22人は左手を挙げて『美人です。』と云う。残り22人のうち21人は両手で智慧の印を組み『美人です。』と云う。
残りの一名は鍛錬場で不敵かつ不適に笑っている。『ヨーガ…。ねえ…。死の覚悟も整っていない連中の戯(ざ)れごとだな。国防の盾となった英霊に何を捧げるというのか。貴様らのヨーガはなっちゃいない。そんなにファッショナブルなものじゃあない。死と隣り合わせの呼吸など出来まい。』『試しに3分間バンダを続けてみろ。出来まい。不立文字。失神した先の世界など見えはしまい。問題だらけの八支則など…俺は…認めない。脚のない興梠(こおろぎ)の様に踊っていろ。体操の真似事で心身を弛緩させる事のみに専心していろ。舐めるな。此の世界線はそんなに甘くはない。』
『馬鹿め。』彼はそう云って数枚の人物画を破り捨てた。彼は『か。か。か。』横隔膜を震わせておおいに笑っていた。『か。か。か。』閻魔大王に届く筈。同様の振動を持つ筈。国防線の安寧はこうして保たれる。
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