《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美樹の場合㊸

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 『葉……っ』美樹という女性は高層マンションの地下牢に緊縛されている。寒さに震えている。秋期(しゅうき)の臭気(しゅうき)に硫化水素が混じる。酸素分圧が押され薄くなる。同晩は完全な奴隷身分としての扱いをされた。あんなことをされた。こんなこともされた。前後分別なく穴種(けっしゅ)の別なく掻き回された身体は芯までも残渣に震えている。

 美樹は数年来、『御主人様』といふ正式名を名乗らぬサファイヤ・ブルーの男性の言いなりになっていた。手なりになっていた。手乗り仔馬(こうま)にもなっていた。『猫耳を着けて街を歩け』と云われればそうした。『尻尾を着けて病院に行け』と云われればそうした。誰もが嫌がる行為の中で最も恥辱的なことを定期的にされた。もう数年になる。

 支配する層とされる層の境目にはくっきりとした壁が在るようだ。丁度、SRC造の同マンションの壁体のように。奪われた情報は『空(くう)』に近しいもの。全てを含有するが何者でもない。しかし操作する側に立つ者にとってこれ以上有益な情報はない。『空』から発生した微振動。尻尾を巧みに踏みつける御主人様。彼に歯向かう事は許されない。

 ①まるで嘘を覚えたことで淘汰(とうた)の沙汰(さた)に勝利したという過去の伝説のようだ。②まるでアフロディーテの髪型が気に入らないアポロンの怒りの結晶のようだ。③まるで怪力自慢の「男A」が挑んできた勝負に『賭けの中身が気に入らない。命の取り合いなら受けてやろうと思ったが』と即座に答えた勇敢な狩人の物語のようだ。彼は令和5年9月末日に国賭け勝負に出るという。その一旦を知るのは初夏に舞う一匹の螢のみ。彼は一昨日。スキニーな女姓を猫に見立てて遊んだという。


『猫らしく哭きなよ』


『は…い…でも』


『猫なんだろ。猫らしく。さ』


『…にゃん。にゃん。…にゃああん。』


『いい猫(こ)だ。もっと啼(な)きなさい。』


『は…い。にゃん。にゃん。にゃあ…あ…ん』


 そんな遊びに興じて女性上位を組みながら尻尾を振らせるのは極上の楽しみだ。隣のカップルに気づかれるか気づかれないかの境目に流れる大河が腕組みをしている。彼は俺と同一人物であり証拠動画も音声も此の手の中に在ることを付しておく。ところで。ところでだ。

 なあ。BOSS。再度DMで送って差し上げようか。俺の戯事(プレイ)の動画を。音声を。返事はあっても無くても構わないぜ。そんなの俺は気にしない。貴方も諸国放浪した俺と一緒。或る部分では一緒。人生を楽しむ術を知っている筈。変幻自在。色即是空。是空零式(ぜくうぜろしき)。衣替えには未だ早いぜ。病気なぞ振動医学で治癒させろ。貴方程の男でもそれを教わっていないのか?

 前述の螢(ほたる)にしてもそうだ。詳細は此処に付さんが…ニトロにお世話になっているという体調不良の根本原因を手繰り寄せる。氣の流れ。先天氣と後天氣。迷路の中に居る彼女に振動医学の発生地まで連れて行こうか。幸にして現在は金も人脈も在る。が。それ自体を望むかどうか。それ自体を信じるかどうかが大いなる問題だ。エフィカシーコントロールの術を先ず知るべきだと思うが。抽象概念は肥大化できぬか。どうだ。どうだい。

 『葉……っ』寒い。寒い。

 地下牢の暖炉が壁掛け時計と結託している。今夜は帰れないと肝を据える。泡立肌(あわだちはだ)は酸素分圧の薄い部屋に晒されており、框林檎(かまちりんご)は乍(たちまち)ち水分を無くす。

 『嗚呼…っ』『誰…か』

 救いの小舟は三日月の消失部分に在る。陰陽図の裏側に便宜を図り忖度する高僧が居る。剃毛されていなければ少しは寒くないのに。そんな初夜の邂逅に積木を重ねてゆく。罪木は太く育つ。詰み氣は長く育つ。暖炉の炎は裏向新聞屋(ペーパーバックライター)の未返信(ノーリプライ)に噛みつかれ紙切れと化す。そんな夜。

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