《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

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 初秋の空気は澄んでいる。綺麗だ。綺麗だ。シャックルに接続された言語達が舞い遊ぶ。綺麗だ。綺麗だ。学区の境界線上で路地裏に泣く子供。『どうしたの?』と。その童に優しく手を差し伸べる和装の女性。綺麗だ。綺麗だ。とても綺麗だ。

 秋の朝。君の身体を抱きたくなる。無性に。君に甘えたくもなる。無性に。心あたたまる日溜まりを欲(ほっ)する欲(よく)/そのものに身を浸し、脱気されたシリンジの頭数を数え残渣を冷蔵庫に託し家を出る。そんな初秋の空気は澄んでいる。

 綺麗だ。とても綺麗だ。山河に感謝を申し上げる。草花にも。早朝の珈琲店で俺の体調を心配し『寒くなかったですか』という少女。…そうか。…そうだったな。此の時期程に体調を崩し易い季節はない。朝の街路灯に寄り添うように黄緑色の草花が秋を祝福している。

 綺麗だ。とても。とても綺麗だ。土壌に身を浸す微生物達。令和6年が待ち遠しいと言っているのか。果報は寝て待てというだろ。火砲が止むのも寝て待てばいいという事さ。花崗岩(かこうがん)の下方でゆっくりと眠りにつけばいい。…そうか。…一緒に眠りたいと云うのか。覚醒した身体と半覚醒の心のミスマッチが少し苦しいと。そう云うのか。

 踊ろう。踊ろう。新たな節季の始まりに祝福の号砲を。右手を伸ばし君の手を握りしめる。左手は腰骨に沿うように。唇を臍下三寸を這うように。

 新たな季節への祝福の舞い。双児魂(そうじこん)たる君は只、寄り添うように俺の傍らに居ればいいんだ。『私の生きる意味は?』そう問うたな。そう問うたな。30センチ以上の背丈の違いは男の視線をうつむき加減に/女の視線を上目使いにする。綺麗だ。とても綺麗だ。

 涙川(なみだがわ)に浮かぶ質問の意図を掬(すく)いたい。包括的な事項に対し、人の持つ網の目は粗すぎる故、その半分も汲み取ることが出来ない。とてももどかしい。何処かで誰かが弦楽器を弾いている。そんな早朝に3度と5度のハーモニーを重ねて育む日々。綺麗だ。とても綺麗だ。

 踊ろう。嗚呼。近況報告を一つ。小説なる文体で物書きの真似事を始めたんだ。かれこれ一年半になるかな。沢山の出会いがあった。その分、沢山の別れもあった。今は自分の書きたいものを書きたいように書こうと単純な結論に行き着いたんだ。

 勿論。此れは幾つか有る表現手段の一つにしか過ぎない。勘違いはしないで欲しい。地に足は着いているつもりだ。君も知っているとは思うが。少し寒いだろう。近くへおいで。黒いフリース・ジャケットに包まれて、東屋で一休みしよう。俺はぬるま湯に近い温度のブラックコーヒーを飲む。

君は何が欲しい?
君は何が飲みたい?
困っていることはないかい?
氣に病んでいるような事はないかい?

 今日は特別な日にするんだ。何でも叶えてあげる。EMMIのスキニーパンツが欲しければ横浜へ行こう。御殿場でもいい。そうだな。後者の方が粋(いき)かもしれない。富士の裾野に腰を下ろして呼吸をしよう。相模野台地でひと泳ぎ。『でいだらぼっちとは何者だったのか』そんな議論に花を咲かせるのも悪くはない。

 秋は優しさの季節。晴耕雨読にて過ごす日々は変わらない。仕事かい? 随分と順調に推移しているよ。情勢を見れば理解るだろう。賢い女性である君になら理解るだろう。ところで。平時を平時としていられる事こそ本当の価値だと思うんだが。どうだい? とかく周囲に居る人は「向上」と「変化」を同一視し過ぎていると感じている。俺には関係のないことだがね。

 秋は優しさの季節。向上の季節。実りの季節。収穫の季節。音楽の季節。バンジョーを鳴らそう。下草達もそれを求めている。身体を少し動かそう。瞑想について少し教えてあげよう。ピンガラもイダーもスシュムナーも踊りたがっている。プラーナが名前を変える。シヴァが眼を覚ます。シャクティが応える。秋という何とも中途半端な季節に愛という見えぬものを育む為に。

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