《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合㊴

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 末端冷え性の彼女に教えやう。僧帽筋の主軸となる迷路の出口がない事を。双輪の馬車に乗せてしまおう。帰り道は必要がない。剃毛行(ていもうぎょう)は二つの穴に後発毛髪の存在を許しはしないのだ。穴は二つ在る。

『こちらも直ぐに。』

 右手が伸びる

『綺麗にしてやろう。』

 左手が伸びる

『動くと這入ってしまうかもな。』

 唇が乾く。とても。

『夜霧で濡れているよ。美しい。』

 其処は。駄目。

 中芯を失った憐れな林檎。其れが美姫。お前だ。忠臣家元を失った武将のやうに頼りない存在で在りたまえ。入力があれば出力がある。出場(でば)の周囲までも奴隷化してやる。尻を上げろ。足を広げろ。もっと。もっと。

『宇/宇/宇』

 力づくの八本の手が足を掴む

『宇/宇/宇』

 腰骨の下方に枕が敷かれ

『宇/宇/宇』

 後ろ蕾が遊園地を見せる

『宇/宇/宇』

 彼女の目には涙。大粒の涙

『宇/宇/宇』

 市販されぬ泡が大量に準備され

『宇/宇/宇』

 叙情的に広がる◎文字を見る

『宇/宇/宇』

 其処は乙女の排泄器官

『宇/宇/宇』

 不要な物資を透過する器官

『宇/宇/宇』

 腸内絨毛も届かぬ迷路の出口

『宇/宇/宇』

 剃刀を両手に持ちながら彼等は

『宇/宇/宇』

 泣き顔を楽しんだ。おおいに。

『宇/宇/宇』

 広がり裂けんとす穴の変化を楽しんだ

『宇/宇/宇』

 何本もの手が奴隷猫の穴に沿い

『宇/宇/宇』

 円の湾曲を楽しんだ。広がる楕円の面積

『宇/宇/宇』

 至高の嗜好が司る遅効性の罠

『宇/宇/宇』

 巴と卍の仲良し加減は月下弦に沿い

『宇/宇/宇』

 素敵な重音階(ハーモニー)を楽しんだ

『宇/宇/宇』

 幻獣は15夜の迫力に気圧される事なく

『宇/宇/宇』

 存在を世に放ち晩婚化を嘆くのみ

『宇/宇/宇』

 黎明期の多数決など無意味だ。無意味だ。

『宇/宇/宇』

 漱石の墓石に鋲を押すのは愚かな行為か

『宇/宇/宇』

 無毛航路をゆく美姫(みき)よ。答えろよ。

『宇/宇/宇』

 彼女は霧雨の中に名前のない墓標を見つけ

『宇/宇/宇』

 端数と虚数で出来た簡素な華を添える。

『宇/宇/宇』

 彼女は未明を待たず姿を変えるだろう

『宇/宇/宇』

 そして帰る事叶わぬと泣くだろう

『宇/宇/宇』

 無毛地帯の完成図に左目を瞑るだろう

『宇/宇/宇』

 不情肢体は媚薬まみれだぜ。中の中まで。

『宇/宇/宇』

 令和は素敵な肉祭(ステーキフェス)の中

『宇/宇/宇』

 シックな病(シック)をお届けしやう

『宇/宇/宇』

 最小単位のパックに纏めて

『宇/宇/宇』

 明朝,君の胃の中に入る為に

『宇/宇/宇』

 本日未明,素敵な荷物が運ばれたらしい


 裏街道に本堂が在る。現在進捗しているものの本道が在る。夜半。人疲れの酷い俺は孤高の時間を楽しむ為に鎌倉古道を訪れた。一本の大きな道。橙(だいだい)の街路樹が雰囲気語りの主役を演じる道をゆく。

 街路樹の袂(たもと)に在る大きなベンチに腰を下ろす。対角線に男女のペアがおり何かを話ながら電子機器を器用に操作している。言葉は交わさない。視線が交差することもない。新人種は互いに目を合わせずとも『繋がっている』という感覚を得る事が出来るらしい。俺は首を振る。

 伝え聞いていた話と随分違うことに首を振る。道元(どうげん)殿の直系から伝え聞いたものと随分違うことに首を振る。俺と彼等を分断する見えざる中央分離帯が在るに違いない。

 街路樹も斜め後ろ45度に湾曲し/その光景を奇妙なものとして捉えていた。路肩の側溝から溢れつつある水。其処には弗素を壱(はじめ)とした「いけないもの」が混在しており…

 彼の脳味噌を。彼女の脳味噌を。知らぬ存ぜぬうちに支配する為に忍び寄る。足音は聞こえまい。先ずは大事な五感を少しづつ鈍らせる。弗素はその手始めに過ぎない。『じゅく/じゅく/じゅく』と体内へも胎内へも侵食してゆく風の音を聴け。

 彼は彼女の肩を抱く代わりに電子機器にテキストを打ち込んだ。彼は彼女の乳首を甘噛みする代わりに心ばかりの絵文字を打ち込んだ。同行為で満足できたのだろうか。そのペアは互いを抱き寄せる事もせずに笑っている。

 俺の首はさらにもう少し曲がる。深い森は俺の意見に同調してくれる。山も川も同様だ。新種に成りきれぬ自分自身の方が少しはマシだと。

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