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美姫の場合
美姫の場合㊳
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出てはいけないものが出てしまう。出してはいけないものが出てしまう。月から舞い降りるオーロラ色のカーテンに処女の少女が夢見るものは一体。私といえば複数人に狸縛りを強要された哀れみ姿勢。同体勢には耐性を持たぬので羞恥百倍。放置主義の羞恥万倍。結局/此の世は差別に溢れているのね。
支配されるもの。支配するもの。私は前者に属する習性を終生全うする運命の女。どんな修正テープでも改編できぬ物語。優雅に舞う蝶々が捕らえたエーデルワイスに潜む罠。出口を探しても見つからない。低音の作業は続く。剃毛作業は続く。私が泣いても。私が叫んでも。
『やめ…て』
『おねが…い』
絶え絶えの吐息に夜市の野次が飛ぶ。帰り道を忘れた季節鳥(きせつどり)のやうに。『今は未だその時ではない。』『動くな。傷がつくぞ。』『まあそれでも構わんわけだがな。』『続けやうか。』
外縁部はすっかり肌色に成りました。毛根に手背部を添えた男性が一人。しかし同部分に在った筈のものは既に失くなっている。穴(ホール)に近接する銀色剃刀が切れ味を増すのです。
『いや…いや』
『だ…め』
『おねがい…おねがい…』
『きり。きり。きり。』鋭利な刃物は名工の砥石に導かれる。日本刀の鋭さは現代科学の下顎(かがく)では咀嚼できぬといいます。同等の知恵と技術と焼入れの技はタワーマンションのち地階に封じ込められている。それは結界。それは血界。それは決潰の作用にして困難十字路を進むための道標(みちしるべ)。
日立製品のマジックワンドは市民権を獲得致しました。本来の用途とは違う淫靡なディルドの模倣品として。男性自身の模型(もがた)として。偶然の産物は寿(ことぶき)の文字に寄り添う。桜を咲かせ花びらを散らす。AC100Vに接続すればテスラのニヒルな笑みに寄り添いつつ/女性に関税を掛け/物価高騰よりも早く導く絶頂香。
『冷めないうちにな。ほれ。ほれ。』私は上方から垂らされる唾液を受け止める。全身で。乳房で。腰骨で。現に剃毛山地と化した箇所の隅々で。滑りの良くなった跡地はまるでスケートリンク。まるで笑えないジョーク。まるでテストステロンを失った男性達の惰眠時間。
『ああ…あ』
『はずか…し…い』
血流の指揮者は肺静脈でしばし休憩中。私の体内と胎内のCO2分圧を高めやうとする千年作業。呼吸が苦しくなる。呼吸が苦しくなる。そして…恥ずかしい。とても…恥ずかしい。どうしても…恥ずかしい。理性なんて消えてしまえばいいのに。もう一度失神してしまいたい。
内苑浄化の演舞に入る彼等は『前』を凝視しつつ完全体を目指す。邪魔者を探し一人ゝに放火犯の嫌疑を掛ける。『どきな。』『邪魔だ。』『消えろ。』『永遠に。な。』囁きに畏怖して後退(あとずさり)りする前部。広範から収縮作業へと移行するのに時間は掛からず。低音の剃毛音が響くのみ。火の出る頬を携えた私の気持ち。それを蟲が喰い散らかしにくる。
マスカーレードの夜に散りばめるマーマーレードキッスの味を識る。私は狐。紫の尻尾を持つ狐。白虎の手下に蹂躙される喫音(きつね)。遊び場は北国の校庭で御座います。私は狐。黒い瞳を自慢する狐。百戸地区の衰退を目の当たりにする生常(きつね)。エキノコックスを媒介し乱れる牝狐。そして『前』の作業を終了した彼等は後方見分へと向かうのは極自然。
済(な)し崩(くず)し的に『後ろ』へと。排泄器官周りへと伸びる8本の手。健常者であるならば指は80本なのでしょう。執筆者の欠損した指先を舐めるのならば複数本が本来作用を失っているのに気づくでしょう。
『…嗚呼。嗚呼。嗚呼。嗚呼。…恥ずかしい。…駄目。駄目。駄目。其処…は。』言霊は中空を震動する。蝋燭のオレンジ色は反ベクトルの周波数でその意味を消してしまう。後ろ蕾が手中に落ちる。
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