《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合㉘

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 基部は傾(かし)いでしまいました。背骨は歪んでしましました。過去の邂逅をしている今でもはっきりと思い出せます。彼等は御主人様の杖つき/ストンピングを一斉合図に粘液を私の胸元に塗りつけました。垂らしました。引き伸ばしました。擦りつけました。

 夜の恍惚感は怠惰(レイジー)な例示(れいじ)と同義。肉体が騒ぐのです。狂祭と這い蹲を活用した葬儀。肉体は騒ぐのです。随分と感度よく仕上げられた躯体に鞭打つ輩。肝心なところを往復しないで。何故此のやうな真似をするのです。酷いですよ。ねえ皆様。そう思いませんか。

 『北國』『沼』『麻』『氷』『温度』『湿度』『雨と雪の境目』其れ等を要言葉(かなめことば)とした液体を収受するには…私の身体は弱すぎたやうです。皮膚を貫通して入ってくる。這入ってくる。挿入ってくる。敗って繰る。色づきを亡くした皮目のブーツみたい。

 仁王立ちの僧侶が履く軍靴(ぐんか)みたい。赤が赫に変わる瞬間に萌芽する水黽(あめんぼ)の苦休みたい。暴力と屈服に彩られた敗戦の瞬間の切取り画像みたい。そんな風に私と混ざらないでください。混濁する意識。走行する車線は中央から右折帯を加速してゆく。の。です。

 仮定の話ですよ。100万円を支払ったとします。全くの無価値なものに。『価値ある無駄』と定義して100万円を支払ったとしますよね。無駄で無価値と知りながら。馬鹿げた行為だとお思いになりますよね。でも。でも。刹那(せつな)と永遠(とわ)の仲直りにはそのやうな馬鹿げた行為が必要なんです。

 陰陽循環道に流れて溶けてゆけば其れは循環するんです。戯けた愉快な行為が時間と空間を満たすのです。空(くう)と同義です。対義のテーゼは『喰うもの』と『喰われるもの』の争議。

 そんな不毛な地に何が生えるのというのでしょう。不毛地帯に無価値なもの植え/無意味な言葉をかけ/只の小麦粉で優雅な昼夜を過ごした暁に何が芽生えるのでしょう。

 愛故の性欲か。性欲故の愛か。又は両方が出席する合同懇談会か。結果を見たくないですか。見たくないですか。そうですか。そうですか。そんな時間は無明(むみょう)であると言われますか。無量光寺であると申されますか。では/質問返しを此方から失礼致します/新聞紙で包まれた鍬形(クワガタ)の死骸を/市街に捨てるのは誰なのですか。では同意義の質問返しをもう一つ。空(くう)とは何なのか論じてください。貴方色の空は何。嗚呼/教えて欲しい。ぶしつけで御座いますね。失礼致しました。

 とは言え①支点②力点③作用点は変わりませんでしょう。其れがミクロ的になったのかマクロ的になったのかだけの違いではないのですか。ねえ。ねえ。違うの。教えてください。10円なら拾う価値はないのでしょう。其処が私の質問の要腰(かなめごし)たる部分で御座ひます。ねえ。ねえ。どう思われますか。ひそひそ声で雰囲気に添えて答えてください。詰みの決まった将棋を指し続けるのは不毛なのですか。刺される運命の雀が居なければ朱雀(すざく)の決意も浮かばれませぬ。


『…あ…っ』


熱い。


『…あ…っ』


疼く。


『…だめ…っ』


皮膚から入らないで。御願い。よ。


『……、、、…』


蒸らさないで。御願い。御願い。


『…、、、……』


私は焦燥の缶詰。


『…………、。』


私は蜜柑。甘い蜜柑。


『……。。。。…』


もっと甘くなれる。かしら。


『_………__』


背中になんて…そんな/こと。


『……!………』


 しなひでくださひ。しなひでくださひ。開胸元(はだけむなもと)に垂れ下がる雫が病(や)んちゃするのです。積乱雲のやうな肉体が切り裂きの手で積み重ねを平均化したいと言ってくるのです。挟まないで。私はバインダーじゃあないんです。右頁に居るのは誰。左頁を三(み)つ目(め)ているのは誰。

『・・もっと狂わせて。』
『・・もっと犯して。』
『・・もっと侵して。』
『・・もっともっと冒して。』
『・・もっと奸して。』
『・・貴方色に染めて欲しい。』
『・・貴方色に染まってみたい。』
『・・ねえ。おねが。い。』

 違います。此れは私じゃありません。美姫(わたし)の唇は乗っ取られてしまったのです。淫靡な液体が血液と混じってしまったんです。心臓に到達してしまったのです。多分/そのせいです。

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