《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合㉗

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 硝子瓶から不可思議色の液体が放たれます。露になった首筋から下方へ移行する時に其の温度が冷徹であることを識る私。『…つ…つめ…』冷たい氷の小売業者が居るのを感じます。温度の変化に追従できない肌(はだ)と膚(はだ)。直感的に良いものでないことを理解します。触感的に悪意の粘体であることを理解します。天界に導くといふよりは地獄への扉を開通するに相応しい色。

 『ぬめり』『ぬめり』『ぬめり』肩口から胸元を貫通し腰骨まで淘汰してゆく。されてゆく。私は胸の膨らみが小さい故に其処に留まることはなくレールは直通下方向き。少し煙が発生します。肩口から上方に向かって。『しゅー』という蛇の呻き声のような音。其の音の震動数は低く/まるで最下層の牢獄で明日死する剣闘士の為に鳴り響くファンファーレ。

 『…あ…あ…あ…』腰骨を液体が通過する感覚に襲われる。何なの。何なの。此の液体の混合比率を教えて欲しい。せめて善悪の比率を。せめてSとMの何方属性(どちらぞくせい)であるのかを。せめて最奥西のものなのか最果東のものなのかを。せめて禅由来のものなのか高僧に敵対する槍なのかを。

 もどかしく蠢く液体は折角の着物を濡らしてゆきます。襦袢を濡らしてゆきます。外は雨/雨/雨。雷神様の怒りの落雷。それを防ぐ周波数の発生帯。業(かるま)の狩魔(かるま)も此処まで到達はできないでしょうね。ああ。ああ。ああ。

 氣分がイレブンに変化するのを感じます。もう直ぐ鐘が鳴るのでしょう。子丑(ねうし)の変遷に諸行無常の響きあり。身体は粘液の求めに応じるのです。身体は粘液の求めに応じるのです。感度を更に増すやうに仕込まれた目的の在る液体。風と森が喧嘩しているみたい。私の身体の至るところで。

 『肥大してきたぜ。』『見てみろよ。』『流石の効能といったところか。』『堪えていろよ。堪えていい色の華になるんだぜ。』媚薬といふものが在るのは知っておりました。使った事は勿論/御座いませんが。

 雰囲気というグラスに注ぎ込まれる言葉の媚薬は実態の粘液と混ざります。私の身体を変えてゆきます。外は雨/雨/雨。見えないけれどきっとそう。こんな人妻の痴態を憐れむ精霊蝗虫(しょうりょうばった)は悲哀の眼。肩口からの一筋(ひとすじ)が/胸元から分岐した二筋(ふたすじ)が/腰骨から分岐した八俣乃大蛇(やまたのおろち)が/未だ脱がされていないものの風前の灯火である着物の又座が。疼いてきます。脈を打ちます。

 操舵手のソーダ酒に弄ばれて乱舞する幹部連を鼓舞し孫文の文脈に一つのピリオドを打つ。ドットを打つ。句読点を打つ。句点を打つ。そして免罪符のない感嘆符を付すのです。感度が増してくる事の暗喩で御座ひます。


『ああ…御容赦…くだ…さい。』

…漏れる声。


『媚薬が効いてきたな』

…そうです。


『感じてきただろう』

…そうです。


『濡れているだろう』

…そうです。


『堪らなくなってきたな』

…そうです。


『触れて欲しいか』

…言えませぬ。


『舐めて欲しいか』

…言えませぬ。


『噛んで欲しいか』

…言えませぬ。


『責めて欲しいか』

…言えませぬ。


『弄んで欲しいか』

…言えませぬ。


『嬲って欲しいか』

…言えませぬ。


『股座(またぐら)が疼いているだろ』

…言えませぬ。


『左足の親指を舐めて欲しいか』

…言えませぬ。


『左足の人差し指を噛んで欲しいか』

…言えませぬ。


『同中指を同時に噛んで欲しいか』

…言えませぬ。


『動くな。もじもじするな』

…無理…です。


『もう少しきつく縛っておこうか』

…そんな…でも…


『その方が感じるだろう』

…そう…です。


『直接かけてやろう。此の媚薬液を』

…どこ…に…


『涅槃に導いてやろうぞ。其の両突起で』

…だめ…だめ…あ、あ…

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