《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合㉑

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 『堪えろよ。動くな。』『は…い。』御主人様の言葉には逆らえません。幾つかの象徴的な色の鍵がかけられているからです。鍵穴は全て封鎖されており後戻りできぬように逆止弁を備え付けられています。回転する車輪と暴走特急の連弾。何も考慮せずに無碍に花散らす一団。『噛んでやる。』一言呟いた男は私の右乳首に噛みつきました。『シンメトリーにな。此方も。』もう一人が左を同様にしました。『…あ…あ』言葉に詰まるとは正に此のことを言うのでしょう。御主人様の命令に従順にならねば。酸桃(すもも)を故郷に返納せねば。私の身体はもう…もう…私のものでは…ないの…だから。噛まれた乳首は右へ左へ上方へと捏(こ)ねられました。年度不明の粘度細工のやうに。粘度不明の年度最苦(ねんどざいく)のやうに。朧げな意識。はっきりとした痛覚。

 『不/不/不。』『いい気味だぜ。』『そしていい味だぜ。』『堪えてなよ。じきに良くなる。じきに欲になる。慈悲喜捨(じひきしゃ)を捨てな。じきに善くもなる。じきに翌(よく)になる。戻れない身体に。な。』意味不明な言葉の羅列は脳内闊歩する真言(マントラ)のように響きます。日々取捨選択することの連続が人生なの。自分で決めることが人生なの。今まではそうだったの。でも。でも。でもね。今は駄目なの。選択権がないの。洗濯する権利もないの。

 洗濯鋏が奇妙な顔つきで睨んでくるの。別用途で使われたいと鋭い目つき。選択肢のない身体に千託志(せんたくし)と仙拓師(せんたくし)が居住権を求めてくる。まるで領土争いをしているみたい。痛みが生を浮き彫りにします。痛みが性を麗らかにします。艷やかに。鮮やかに。密やかなものをもっと密やかにします。秘密ですよ。蜜が滴下されていたことは。

『がちゃり』『がちゃり』『がちゃり』。

 鉄と鉄が擦れ合う音/三度。

 恍惚の花火が目に浮かびます。涎罰(よだればつ)の為に顎は上に引き上げられ突起罰(とっきばつ)の為に手が後方に固定されました。物理的に処理されなくても言うことを聞くしかないのに。開(はだ)け肌(はだ)は絆(ほだ)され拿捕され打鍵の為の楽器に成り代わる。『いい声で哭きなよ。』『…葉…っ。…葉…っ。』文字列に成れぬ声が漏れいづれば何(いず)れ身痙(みず)れになる運命。確認はできないけれど外はきっと悲しみの霙(みぞれ)。

 …知っておられますか。…女性を種別分けする方法を。SとかMとか/気が強いとか弱いとか/熟れているとか若輩者だとか/無知だとか既知だとかじゃあなくて。ね。もっと簡単な手法で現実問題的に分類する方法が在るらしいのです。調教初夜に私は思い知りました。体感もしました。「胸で峠を越すことができるかどうか。」それが一つの境目だそうです。東京都と神奈川県を分断する境川よりも見事に分断する河川と同名ですね。分水嶺だそうです。巨木が生い茂る森は何処に在るの。私の心と身体の守護樹は何処に在るの。教えて。

 噛みつかれた胸が少しづつ。少しづつ感度を増していくのを感じます。彼等の囁く声で気分は拾壱時(イレブンオクロック)。短信が単身で次頁(じページ)をめくろうとします。比喩的表現で御免なさい。峠越え未経験の私。上手く表現できませぬ。『かみかみ』『かみかみ』『ごくり』最後の音は唾液の溜飲音です。ああ…だめ…おむ…ね…。おむ…ね…もう…かまない…で…。なにかが…なにかが…うごいて…ああ。

『気にいった』御主人様が着座の姿勢から若干前のめりになりました。一目で高級と理解るスーツの肘部分を肘掛けに乗せました。視力が低いのか高いのかは理解りかねますが切れ長の目を細めています。獣の目。狼の目。4足歩行を先祖に持つ男性の重量感。極低温環境下でも反対ベクトルでも微塵も揺るがない覚悟を感じます。その目。その目。その目に射抜かれた瞬間と人生初めての絶頂峠は同時でした。

『果てなさい』弓なりになる身体を制御はできません。返事もできません。御満悦の表情。御主人様は私の絶頂を全ての手段で記録していたとのこと。

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