《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合⑰

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 口を広げられたまま口腔内に蛇の群れが這入ってくるのを感じます。一人ゝ独特な舌先の動きをなさるのです。脳内を散歩する小人も縄かけをされたようですね。『いいんじゃないの』『開放された気分でしょ』。『何から』『貴女の根幹から』『何から』『人並みの常識からよ』『何から』『新聞紙面の記載文句からよ』『何から』『金利情報の真実からよ』『何から』『柵(しがらみ)からよ。何時もその中に居たじゃない。下らないわ。下らないわ。情けないわよ。』

 そんなこと…ない。私は必死で脳内の小人に抵抗するよう試みました。でもね。でもね。這い回る毒牙蛇の勢いは増すばかり。嗚呼。遠山さん。遠山さん。比喩的で御免なさい。舌先なんて直接的な表現は慣れなくて。でも。でも。でも。慣れなきゃいけないのかもしれませんね。もう一度。御免なさい。いけない美姫を鞭で打ち据えてくださいまし。同執筆者もそれを望んでいるとのこと。賢明な貴方なら深部の意味を攫ってくださいますでしょう。

 鋏で切断された高級な和服が残骸と化していきます。肩が露になれば其処を目指す指先が在る。「其処に山があるから登る」と語った登山家について少々。自己肯定感が随分低い人だったのだろうと想像します。他人の為に駆け上がる山脈を知らないのだから。他人の命と自分の命を天秤にかけてバランスを取りつつ駆け上がる時の心拍数を知らないのだから。前述したブルース・ハープの奏者。同一人物。結局のところそれを楽しめるかどうかが肝心だと仰っていましたよ。牧歌的な夏休みなんて彼に言わせれば紛い物に過ぎませんね。多分。多分。多分ですが。

『飲みな』『早く』『そして速く』『残さずな』。ごくり。私は注ぎ込まれた夜露(よつゆ)を飲み込みます。嗚呼/嗚呼/嗚呼。きちんと全部飲み込んだ証拠を差し出せと顎を上方に持ち上げられます。顎関節(がくかんせつ)と胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとっきん)の悲鳴は微塵も意識して頂けないのですね。卵型に解錠された私の唇内にペンライトを照らさないでください。飲みました。飲みました。全部。皆様の欲望液は舌根を通過しもう見分できる場所にはいない。胃内(いない)以外には居ないのです。許して。御願い。

雇われの速記者
咥え煙草の乱獲者
今宵の演舞は落下傘

落ちゆく先は地獄道
先行き不安,其れは未知
天童夜半に潮は満ち
照らす天窓/貴方は何処

最初で最後の学び舎/羽子板
真偽の涙と言葉/『ただいま』
帰る場所は陰場/生板
令和の獣/集う月夜に

高層回廊(こうそうかいろう)
かえるみちなし
闘争本能(とうそうほんのう)
発露の験(しるし)
逃走経路(とうそうけいろ)
かえるみちなし
望楼勤務(ぼうろうきんむ)の
目が光る故(ゆへ)

灼熱の招待/情報の正体
マイナス尺度に慈悲喜捨を
無意識の僧階/君はどうだい
後悔への航海/老獪と無知は
似て非なるぞ氣をつけたまへ

熱射回廊を渡り切れぬ右足/あわれ
陳列棚を笑いきれぬ左足/同情の同上
浚われた情報は口径50の雌金具の中
同口径の雄金具が張り付いており
空気の入る隙間もなし
機密の入る隙間もなし

横臥せよ人生

我等同じく渡り鳥

反芻せよ半生

後悔はないだろうか

死の枕は今/傍らに佇んでいる

翁(おきな)の皺(しわ)に
悲しみの歌を

『あの頃は楽しかった』なんて

悲しいこと言うんじゃねえよ

『あとは任せたぞ。この場所も。』

悲しいこと言うんじゃねえよ

『馬鹿め。説教してやる。良く聞けよ。耳掃除をする双児を呼んでくる。シベリア生まれの殺し屋を連れてくる。山の師匠を連れてくる。ラージャ・ヨーガの師匠を連れてくる。栄養学の師匠を連れてくる。世界で一番美しい女も連れてくる。今だよ。今だよ。今が人生で一番若い日じゃないのか。そうだろ。物凄く下手くそな説教かもしれんが。死んだ魚のような目をするんじゃねえ。情けないぞ。生きてるんだろ。先ずは血圧の薬をやめろ。支配されるな。支配する側に回れ。簡単な事だ。毎日勉強するんだ。毎日変化するんだ。傍楽(はたらく)ことを楽しもうぜ。まだ動くんだろ。指先も。足先も。ほら。口だって達者にな。それで充分じゃねえか。笑えよ。取り敢えず俺の手を握ってみろ。もっと強く。もっと。もっと強くだ。親指と人差し指をくっつけておけよ。氣の逃げどころだからな。怖いか。30以上も年下の俺の存在が怖いか。舌先は上に向けておけ。もっと上だ。もっと中だ。そんな事も知らんのか。無知のまま死んでいくのか。肛門と性器の間が緩んでる。駄目だ。それじゃ駄目だ。瞑想も教えてやる。零から∞まで全部。多分勘違いしているだろうがインファイトの殴り合いに近いもんでもあるんだぜ。』

じんせいは
いかにいきるかそれでなく

いかにしぬるか
さがすたびなり

 そんな一幕があったとかなかったとか。奇特な人も居るものね。私は奴隷身分。攫われた情報は私を形成する全部であって一部でもある。『…あ…あ…あ!』初めての痛みを感じたのは甘噛みの右耳朶(みぎみみたぶ)。同様かそれ以上に激しく噛まれた左耳朶(ひだりみみたぶ)。仲良くしてね。同じ身体の形成品じゃあない。どっちが偉いとかそんなことない筈なの。

 『動くな』『動くなよ』『もう一度だ』『飲め』そんなことを申されましても。どうにも…身体が…勝手に…動いて…しまう…のを…止められ…ませ、ん。左も右も理解らなくなってきます。こんな感覚が在るのを初めて知る夜。脳内の小人はすっかり酔ってしまっているようです。恍惚の表情で。

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